ドビュッシーから、マックス・リヒター、ヤン・ティルセン、坂本龍一まで、ピアノ楽曲の魅力満載!
ドイツ・グラモフォンへの復帰作は、意外な企画になった。新作は“エリーゼのために”など、ピアノ学習者向けの小品を中心とした『ピアノ・ブック』。3歳でピアノを始めたラン・ランは、〈ナンバーワン〉を合言葉に、常により難しい曲に挑んできた。だから、収録曲リストを見た時、“乙女の祈り”を練習したことはあったのか、という疑問が浮かんだ。
習い事のレベルでピアノに触れた人でも知っている曲が多く、そういう人にとっては練習曲のイメージが強いだろう。楽譜を間違いなく完全に弾く。ラン・ランの演奏は、そんな意識で向き合った楽曲が実は、詩情あふれる美しい名曲だったことに気づかせてくれる。それは、不完全なままで終わり、遠い過去になっていたパズルに最後のピースが納まったような感覚をもたらすのではないか。
もちろんそれは、本作の一面にすぎない。彼は、ラン・ラン国際音楽財団を設立して、若者の教育に尽力し、各地で公開レッスンを開催したりしている。モーツァルトの“きらきら星変奏曲”などは、直接アドバイスを受けられない子供達にとって、演奏方法を盗める最高のインスピレーションになるはずだ。
また、クラシック以外に現代のコンポーザー&ピアニストの楽曲も取り上げている。マックス・リヒターの“デパーチュア”、ヤン・ティルセンの“アメリのワルツ”、坂本龍一の“メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス”。いずれも映画やテレビドラマに提供された楽曲で、繊細に力強く物語を紡いでいく演奏は、とてもイマジネイティヴだ。そして、視覚的な演奏という観点で言うと、ドビュッシーの“月の光”は、指先から神々しい光が放たれているような演奏で、聴き入るなかで自分だけの絵を描かせてくれる。ドビュッシーだけは他に“グラドゥス・アド・パルナッスム博士”、“夢想”と3曲も演奏している。
好きな曲は、人それぞれだと思うが、世代を超えて、楽曲の魅力を再発掘させてくれる。それが大きな魅力だ。