やなぎみわ〈「日輪の翼」上演のための移動舞台車〉2014 写真:沈昭良

 

国際交流と文化の集積地・京都を舞台に〈別の知性〉が集結!

 東山連峰や鴨川を背景に寺社仏閣が立ち並び、街まるごとが世界遺産ともいえる京都で、3月7日から5月10日にかけ、現代芸術の国際展『PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015』(以降PARASOPHIA)が開かれる。舞台となるのは、京都市美術館の全館と京都府京都文化博物館を主会場とした、鴨川を挟んで東西に広がるコンパクトな街の中心エリアだ。梅や桜、新緑に輝く春の京都に、世界の第一線で活躍する36組(19の国と地域)のアーティストが集まり、個性溢れる芸術作品の華を咲かせる。「PARASOPHIAは、para(『別の、逆の、対抗的な』という意味で使われる接頭辞で、化学のベンゼン環も想起させる)と叡智や学問大系を意味するsophiaを合わせた造語で、向こう側の、別の知性という意味です。世界には、出品作家100~200という巨大規模の国際展が溢れていますが、京都の国際展は、約40名の参加作家という規模にしました。出品作家のために十分な展示スペースと細やかな支援体制を整えることに重きを置き、トレンディーな国際展とは少し距離のある、別の場所を提供します。作家がゆっくり思考し、制作できる別の場所、para位置としての京都を創出することを目指します」とアーティスティックディレクターの河本信治氏は説明する。

【参考動画】〈PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015〉告知映像

 

 京都市美術館の入り口には、やなぎみわが台湾から持ち込んだ巨大な移動舞台車が出現し、中上健次の「日輪の翼」の舞台を繰り広げる予定だ。京都を拠点にするやなぎは、制服姿のエレベーターガールの写真作品のシリーズで90年代半ばから注目を浴びたが、近年は演劇志向が強まり、美術と演劇を横断する独創的な世界を創出している。「移動舞台車は、一箇所に留まり、ご開帳したら閉じて次に移っていくというもので、カオスを作り出します。京都は清らかに統制され、洗練された町なので、カオスなるものを、どうまつろわせ、従わせる力があるか楽しみです」とやなぎ氏は意欲をみせる。

 1階の大陳列室には、ニューヨークを拠点にした中国人アーティスト蔡國強が、高さ15メートルに及ぶ竹製の塔作品を設置し、京都の子どもたちがワークショップで作った大量のオブジェを飾るという大型作品を展示する。これは、蔡が10年近く関わってきた「農民ダ・ヴィンチ」(中国僻地の農民が知的な好奇心と製作衝動により日常の身近な材料だけで自作したロボットや潜水艦、飛行機などを収集するプロジェクト)から派生した「子どもダ・ヴィンチ」の京都バージョンともいえる作品だ。竹製の塔は中国の長安(京都の範となった中国の唐の時代の都。現在の西安)の玄奘三蔵法師ゆかりの大慈恩寺の大雁塔をモデルにしたもので、京都と長安を繋ぐことが意識されている。京都府京都文化博物館 別館では、森村泰昌ドミニク・ゴンザレス=フォルステルの作品を展示し、明治時代の洋風建築のディテールがそのまま残る重要文化財の建物だからこそ表現できる独特の世界観を構築する。スーザン・フィリップスは、鴨川デルタの河川敷に異界とつなぐ場として音の作品を設置する。さらに、京都芸術センターにはアーノウト・ミックの映像インスタレーション作品、二条城の北側に位置する1950年初めに建てられた店舗併存集合住宅のモデル堀川団地には、ピピロッティ・リスト他による作品が展示される。「美術館の外での作品発表を望んでいたので、堀川団地の部屋を選べたことは幸運でした。団地の歴史、住民の残留思念といった場の記憶と対話しながら、布団に映像を投射し、眠りと覚醒の意識の違いに想いを促す作品を作りました」と京都に滞在し制作を続けていたリスト氏は言う。

【参考動画】〈PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015〉告知映像

 

 準備期間中に招聘された参加作家のほとんどが、京都の歴史や文化遺産からだけでなく、人々の暮らし方からも多くのものを読み取り、町と積極的に関わることで新しい作品に挑戦したという。それらの作品には場所と作家の化学反応を見てとることができるという。

 「展覧会自体はゴールではありません。PARASOPHIAは、多様な表現や思考と出会う場であり、わかりにくいもの、異質なものも切り捨てるのでなく、思考を深めるきっかけとし、理解や距離感を見つけていく経験のプロセスです。さまざまな資源や考え方を持ち寄り、それを組み替え、再構成し、参加作家と鑑賞者の双方を巻き込みながら、思考と創造の継続的で世界に開かれたプラットフォームを京都に根付かせることを目指します」(河本氏)

 

EXHIVISION INFORMATION

〈PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015〉

日程:3/7(土)-5/10(日)
会場:京都市美術館、京都府京都文化博物館ほか
アーティスティックディレクター:河本信治(元・京都国立近代美術館学芸課長)
参加作家:リサ・アン・アワーバックナイリー・バグラミアン /蔡國強 /ヨースト・コナインスタン・ダグラスサイモン・フジワラ/ドミニク・ゴンザレス=フォルステル /ヘフナー/ザックスヘトヴィヒ・フーベン石橋義正 ブラント・ジュンソー笠原恵実子ウィリアム・ケントリッジラグナル・キャルタンソン倉智敬子高橋悟アン・リスレゴー眞島竜男アフメド・マータル /アーノウト・ミック/森村泰昌/スーザン・フィリップス /フロリアン・プムヘスル /ピピロッティ・リスト /アリン・ルンジャーン笹本晃グシュタヴォ・シュペリジョン高嶺格田中功起アナ・トーフローズマリー・トロッケル ジャン=リュック・ヴィルムートヤン・ヴォー王虹凱徐坦 /やなぎみわ /アレクサンダー・ザルテン
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