フラメンコに軸足を置きつつ、領域を軽く横断 

(C)AMANCIO GUILLEN

 

 スペインを代表するフラメンコ・ギタリスト、ファン・マヌエル・カニサレスサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルとの共演や、2013年の『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン』での演奏が耳に心地よく残るが、その存在はパコ・デ・ルシアのツアーで広く認知されていた。彼の卓越した演奏はフラメンコやクラシックなどの領域を超えるもの。そんな彼がアルベニスグラナドスに続き、ファリャ3部作に臨んだ。『三角帽子』『はかなき人生』、そしてこのたび3作目となる『恋は魔術師』を発売。彼の編曲により、フラメンコ・ギターの魅力が増幅されたアルバムだ。

JUAN MANUEL CANIZARES 恋は魔術師~カニサレスによるファリャの三部作VOL.3 PLANKTON(2015)

※試聴はこちら

 「そう言っていただいて嬉しい。なぜなら『恋の魔術師』は、ファリャの数々の作品の中でも特にファリャがフラメンコらしさを凝縮した作品なので、私にとって、素直に編曲、演奏することができました」

 さらに「ファリャはスペインのクラシックの中で最もフラメンコに近づき、理解した作曲家」だという。

 「1922年に詩人ロルカと初めてフラメンコの歌のコンクールを主催したくらいです。その土地の音楽を深めれば深めるほど、逆にユニバーサルになっていく。ファリャも、その土地の民族音楽に着目して作曲をしたことで、ユニバーサルになったと思います」

JUAN MANUEL CANIZARES ソナタ~カニサレスのスカルラッティ PLANKTON(2015)

 興味深いことにカニサレスは、今回、『恋は魔術師』と同時にスカルラッティの作品集もリリースする。

 「数年前、マドリードのイタリア文化センターで、スカルラッティの555曲のピアノ・ソナタをテーマにした音楽祭が開催され、様々なアーティストが好きな作品を色んな楽器で弾いたのですが、3年目の最後のコンサートの締めを依頼されました。スカルラッティはナポリに生まれて、後にスペインに住んだのですが、彼がスペインで過ごした時代はまだフラメンコが今日の形に成っていなかった。でもその前身となる、フラメンコの種のような、民俗音楽的要素が彼の作品には取り入れられていることに気づき、自分なりのフラメンコ的な解釈で編曲し、演奏したのです。そのコンサートに合わせてCDも作ったというわけです」

 ここ数年はこれまでの自分の演奏家人生の中でも最もクリエイティブな時代に突入しているというカニサレス。「編曲をしていく中で、視野も広がった。視野が広がるということは、作曲をする時に、新しい発想が生まれること」。そんな彼の次のアルバムは、亡きパコへ捧げる自作の作品集だという。「フラメンコは会話であり、言語」という彼は、パコに何を語るのだろう。パコの後継者と呼ばれることに「とんでもない」と謙遜。「仲間と一丸となって、彼の穴を埋めたい」。どこまでも素敵なカニサレスだ。

【参考動画】ファン・マヌエル・カニサレス・カルテットによるパフォーマンス映像

 

LIVE INFOMATION

カニサレス フラメンコ・カルテット 2015

○9/19(土)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
○20(日)穂の国とよはし芸術劇場プラット
○21(月・祝)焼津文化会館 大ホール
○23(水・祝)よこすか芸術劇場
○26(土)すみだトリフォニーホール <with 新日本フィル>
○27(日)北九州市立戸畑市民会館 大ホール
○29(火)銀座 王子ホール
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