I'M SINGING THIS SONG FOR YOU
JTらと共鳴しながら人々の心に寄り添ったソウル・シンガーたち
ジェイムズ・テイラーと共演を繰り返していたキャロル・キングがダニー・ハサウェイに心酔し、彼の『Everything Is Everything』(70年)をJTら音楽仲間に配ったというエピソードを知る人は多いだろう。結果、キャロルはダニーやマーヴィン・ゲイ的なソウル・マナーを採り入れた『Fantasy』(73年)を発表。70年代前半の米国音楽シーンには、黒人と白人が互いを刺激し合いながら新しいムーヴメントを生み出していく、良い関係があった。
その代表がニュー・ソウルだ。端的に言えば、ロック、ポップス、フォーク、ラテンなどの要素を採り入れ、〈黒人〉であるより〈人間〉としての感情をパーソナルに描いたソウル・ミュージック。60年代に叫ばれた〈革命〉が行き詰まり、ヴェトナム戦争での敗北ムード漂う時代の挫折感や無力感といった気分を、JTやキャロル、ジョニ・ミッチェル、ポール・サイモンのような社会意識の高い、もしくは文学的な白人シンガー・ソングライターと共有しながら作り上げた〈新しいソウル〉である。とりわけ、キャロルやJTでお馴染みの“You've Got A Friend”をライヴで歌い、レオン・ラッセルの“A Song For You”やアル・クーパー(ブラッド・スウェット&ティアーズ)の“I Love You More Than You'll Ever Know”もカヴァーしたダニー・ハサウェイ、そのダニーとデュエットし、サイモン&ガーファンクルらの曲を歌ったロバータ・フラックは、白人が書く、思慮深くピュアな愛に溢れた曲を歌うことを好んだ知性派だった。
アイズレー・ブラザーズも同様で、彼らは、同時期にボビー・ウォマックやニュー・バースも取り上げた“Fire And Rain”や、“Don't Let Me Be Lonely Tonight”といったJTの名曲を、スティーヴン・スティルス“Love The One You're With”などと共に70年代前半のアルバムでカヴァー。特にニール・ヤングやボブ・ディランの曲も歌った『Givin' It Back』(71年)とキャロル・キングのナンバーを3曲取り上げた『Brother, Brother, Brother』(72年)は、当時の内省的なムードを捉えたアルバムとしてJTらの作品と同じ趣向を持つ。
また、ギター弾きのテリー・キャリアーやビル・ウィザーズがめざす地平もJTと近かった。ビルは、キャロル・キングがJTを迎えたカーネギー・ホールでのコンサート(71年)の翌年に、同じ会場で“I Can't Write Left-Handed”という帰還兵の苦悩と反戦を表明した哀歌を歌っているが、この曲は同様のテーマで歌われたジョン・プラインの“Sam Stone”(71年)やカーティス・メイフィールドの“Back To The World”(73年)などと共に、人種を超えて共鳴し合う時代の気分を映し出していた。そして、それらの曲での嘆きが現代にも当てはまってしまう皮肉を伝えたのが、ジョン・レジェンドとルーツによるニュー・ソウル名曲のカヴァー集『Wake Up!』(2010年)。彼らもまた、JTやダニーらが共有した時代の気分を受け継ぐ、〈越境する知性派〉であることを申し添えておきたい。