このバンドの軸は、夢や理想を失わず、現実を見ながら、いい着地点を探すこと
――この曲で〈今夜全てが/音を立てて変わるよ〉って歌われるような、どうしようもなく世界が動いていくことへと直面している状況は、三船さんの歌詞に頻出するモチーフですよね。今回はファミリー・レストランを舞台にしているのがおもしろいなと。
「都内から離れて車で何時間か行くと、すぐ巨大なショッピング・モールやファミレスがあったり、コンビニにも駐車場が増えるじゃないですか? それらが夜になるとガラス張りで反射して何も見えなくなる感じとか、あの独特の空気感を再現したくなったんです。そう、アメリカのツアーでも、何もない高速道路にいきなりファミレスがポツンとあったりして怖いんです。タクシーのおじさんがちょっと休憩してて、すごく態度の悪いお姉さんが乱暴にパンケーキ持ってくるみたいな。よくある郊外の景色を音楽にしたいと思った時、そういう場所が気づいたら水族館みたいに水浸しになってたらどうだろうとか、この外を鮫が泳いでたらすごいなとか浮かんできたんです」
――いま鮫のイメージを伝えてくれましたけど、今作には「ゾンビ」や「フランケンシュタイン」などホラー映画が下敷きになったのかなと思わせる楽曲がいくつかあります。実際80、90年代のSF映画がインスピレーションの一つだったそうですね。
「今年の頭くらいにセカンド・ハンズ・ストアでKORGの80年代くらいの古い安いシンセサイザーを買ったんですよ。もっと先にはポリシックスとかモノポリーとか名器と言われるシンセが出てくるんですけど、その前の機種で、全然機能もしょぼくて。そのサウンドを買った時に〈あ、なんか聴いたことがあるな〉って。それで遊んでるうちに、ちょろちょろ出てきた曲が、自分が小さいときに見ていた映画っぽさがあったんですね。その時代、90年代後半とか2000年に入るちょっと前って、テレビで外国の映画やってくれてたじゃないですか」
――そうですね。
「ありましたよね。いまの子供たちはあんまりテレビで洋画を見る機会がないんだろうなとは思うんですけど。僕らのときにやってたのは決まってポール・バーホーベンの〈ロボコップ〉とか〈トータル・リコール〉とか。うちの母がSFが好きで、小さい頃はよく一緒に映画を見て、ゴジラやウルトラマンとか特撮もすごく好きだったんですけど、特に覚えてるのは〈ターミネーター〉だったり〈エイリアン〉だったり。やっぱり〈スター・ウォーズ〉の流れからずっとSFブームが続いていた感じが自分の中にはあって。それらのサウンドトラックにはだいたいサックスのブラス・サウンドが後半に入ってきたり、しょぼいゲート・リヴァーブのかかった電子ドラムの音が入ってたりとか。10代くらいになってロック・ミュージックに触れるようになると、あのサウンドってすごいダサいなーと思って近づきもしなかったんですけど(笑)」
――その感覚わかります。
「なんですけど、KORGのシンセを買ったことがトリガーになって、そこに一回ちゃんと向き合っといたほうがいい、向き合う必要があるんだなって思ったんです。いまそれらのSFを見ると、冷戦が終わる間際だったし、核戦争が起きてディストピアになるみたいなことが平気で題材になってましたよね。日本もまだ景気が良かったし、暗い話でも楽しめたところがあった。自分も、大きくなったら世界が崩壊してみんな缶詰を食べてレジスタンスのように籠って生きるのかと思ってましたし(笑)。現実はそうはならなかった。でも、ふと考えてみると、みんなが一番ワクワクできることが、 宇宙の代わりに、スマホとかタブレットとかシリコンヴァレーで起きていることに変わっただけなのかなって。一人一台カメラを持ってSNSで発信して、それはすごく楽しいし、僕もほんとに楽しめてるんですけど、同時にそれは90年代のSFにあった、すべてを機械に監視されている社会に近づいたんだなって思って。 グーグルはこの世にあるすべての情報を集めたいっていう理念の会社だし、機械VS人間の戦争にはならないかもしれないけれど、〈当時の映画もわりと外れてないな〉って思ったんですね。それで〈2015年に過去に描いた未来の音が鳴ったらおもしろいんじゃないか〉って思えたんですよ」
――〈ターミネーター〉最新作で、スカイネットはOSになっていましたしね。
「ははは。楽しいことと悲しいことが両方含まれてますよね。Googleマップで好きな場所を調べられるし、会う前に待ち合わせの場所を調べるのとかも楽しいし、あの場所行ったなとか思いだせるけど、そこに写っちゃってる人とか、そういうものは丸裸にされてる気もして。でも最終的に地球が滅んだときに、どこかの宇宙人がHDを回収して、こんな世界があったのかーって思えたら、それはそれでいいのかもしれない」
――“X-MAS”のサックスの音はもろにあの時代ってニュアンスでした。
「ちょっとクサいというか。僕の中であのサウンドは必要だなと変に思ってて。打ち込みの電子ドラムも入れてるし。カナダ人にもウケてました」
――“X-MAS” の歌詞を読むと、権力者が高層ビルから暴動を眺めながら自分の時代の終わりを諦観するっていうイメージがわき上がってきて、すごく「ファイト・クラブ」の最後っぽいなって思ったんですね。
「あのピクシーズの“Where Is My Mind”が流れる」
――で、実際に“X-MAS”聴きながら「ファイト・クラブ」のエンディング見ると、すごく合っていて。
「ははは!(爆笑)」
――かつ、そのあとの“ATOM”がちょっと"Where Is My Mind"ぽいんですよね。
「あー、そうかもしれない。バンドを始めた頃は特にピクシーズやニュートラル・ミルク・ホテルなど、アコースティック・ギターをかっこよくバンドで鳴らしてる人たちはすごい好きだったから。ピクシーズはヒーローのひとつですね」
――最後の質問です。『ATOM』は、さまざまな立場からの視点を描くことで、矛盾や対立も内包した、立体的な世界を作り上げています。ROTH BART BARON、ひいては三船さんが、今回そうした表現に向き合った理由は?
「コンピューターやITが発達してスマートフォンが出てきて、子供の写真録って〈かわいいな、幸せだな〉って即共有できる世の中になったけど、そのスマホに使われてるレアメタルの素材は地球の裏側の子供たちが、とんでもない安い賃金で昼も夜も働いて採ったものかもしれない。そのことが、皮肉にもこのちっちゃい画面(スマホを指さしながら)から得られる情報でなんとなくわかるようになったじゃないですか。いまの日本は〈原子力に頼らない生活を〉って舵を取ろうととしてるけど、ここ何年か原子力を使わずに火力発電に依存していることが原因で、いままでにないほどの二酸化炭素を排出してるわけで。ここ何年か確実に東京の夏は暑くなってますし。その電気を使って音楽をすることで地球の寿命を縮めてるんじゃないの、って。 そこそこ小奇麗に生活できてても、みんな心にモヤモヤしたものを持ちながら、なんとか生きてるみたいなところはありますよね」
――ええ。
「一つの意見だけだと解決しないことがたくさんあるなって思ってるんです。自分の実体験でそういうことが起きたかって言われるとわからないですけど、常にそういうことを考えちゃうんですよね。考えてるだけで何も動かないのは違うなとも思いますけど、でも相反する、コインの裏表みたいに、それらは剥がせないですよね。そういうところはちゃんと向き合っておきたい。ル=グヴィンの小説も好きなんですけど、そういうことを描いているし、すごく共感するところが多い。煮え切らず〈わかんないんです〉って投げ出すのも手だし、〈じゃあこれはどうしたらいいんだろう〉って考えてもいいし、〈見ないようにして生きていきます〉ってのもある。いろんな方法があると思うんです。でも、このバンドにとっては、夢や理想を失わないで、現実を見ながら、いい着地点を探すってのが軸なんだと思います」
〈ROTH BART BARON TOUR 2015-2016『ATOM』〉
2015年11月8日(日)代官山UNIT
2015年11月19日(木)高松TOONICE
2015年11月20日(金)木屋町UrBANGUILD
2015年11月23日(月・祝)広島CLUB QUATTRO
2015年11月28日(土)仙台HELLO INDIE2015
2015年12月11日(金)松本Give me little more.
2015年12月12日(土)富山フォルツァ総曲輪
2015年12月13日(日)金沢ART GUMMI
2015年12月23日(水・祝)名古屋RAD HALL
2015年12月24日(木) 鴨江アートセンター
2016年1月8日(金)鹿児島SR hall
2016年1月9日(土)宮崎LIVE HOUSE ぱーく.
2016年1月10日(日)福岡the Voodoo Lounge
2016年1月11日(月・祝) 徳島CROWBAR
2016年1月17日(日)大阪CONPASS
2016年1月23日(土)札幌PROVO
2016年2月5日(金)仙台retoro Back Page.
2016年2月11日(木・祝)熊谷HEAVEN'S ROCK 熊谷VJ-1
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