3人の世代やタイプの異なる名女優らのバトルによる現実と虚構、過去と現在の間を漂うノマドたちの肖像
世界的に名を知られた女優マリアが、かつて自分が演じた20歳の野心的な女性ではなく、彼女に翻弄される40歳の女性役として20年前の出世作の再演にキャスティングされ、自身の年齢に直面せざるをえなくなる…。
アサイヤスの最新作は、女優についての映画であるばかりか“時の経過(老い)”という普遍的な主題をも射程に入れ、気品や風格さえ漂う傑作である。
「俳優の仕事とは、自分が演じる役柄のなかで働く感情―それは建設的にして破壊的、幸福にして苦痛でもありますが―を自分自身のなかに見つけることでしょう。芸術は、つねにそうした人間的なもの、あるいは人間の理解という普遍的な次元に戻るもので、マリアの場合、そこに過ぎ去る時間をどのように扱うかという、誰しも直面しなければならない普遍的な問題が重なる」
冒頭のマリアらを乗せた列車内のシークエンスがまずは素晴らしい。撮影が困難な狭い空間を処理する手腕はもちろん、本作がつねに移行中の空間を舞台とすることを見事に予告する。列車からホテル、そして他人の別荘を借りてのリハーサル…。アサイヤス的な登場人物らはつねに“家を奪われたノマド(移動の民)”なのだ。
「女優の仕事を描くうえで、日常生活や物資的な問題といった雑音が混ざってはならない。主題を純粋化するために家が描かれないのだと思います。マリアは、仕事と私生活両面で転換点、移行期にあります。離婚の係争中でアパートも売却しようとしており、過去を断ち切ろうとしている。この映画のなかでの彼女は、何かのあいだに浮かび、漂っているような、疑いの時期、あるいは危機的な時期にある。どこか特定の場所に錨を下ろすような存在ではないのです」
物語は舞台の幕開けと同時に幕を閉じる。その寸前の楽屋でマリアが若い映画監督と交わす会話が印象に残る。彼はSF映画への出演を彼女に依頼し、そこでの女優の役柄は年をとらないミュータントであるという。
「年齢が顔に残す痕跡が巨大なスクリーンに広がり、それを観客が観察するわけですから、女優は他の人にもまして残酷なかたちで“時の経過”に直面する。アリアはその残酷な時の経過を、責任をもって引き受けなければならない。彼女は、女優という仕事、自分を見つめ直す苛酷な作業を通して役柄に近づき、到達した。舞台はこれから始まりますが、女優としての仕事は終わっています。次に彼女に開かれるのは別の登場人物であり、そこでの問題はまったく逆のものです。これまではどのように時の経過を受け入れるかが問題でしたが、今度は、どのように時の経過から自由になり、その外に出るか、という問題が提案される。そんなことができるのは俳優の特権です。時間から解放された人物を演じることの可能性は、女優にとって真の解放とはいえないまでも、多大な自由の享受といえるのではないでしょうか」
映画『アクトレス~女たちの舞台~』
監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
音響:ダニエル・ソブリノ
出演:ジュリエット・ピノシュ/クリステン・スチュワート/クロエ・グレース・モレッツ/ラース・アイディンガー/ジョニー・フリン/アンゲラ・ヴィンクラー/他
配給:トランスフォーマー(2014年 フランス・スイス・ドイツ 124分)
◎10/24(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
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