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『Compton』の話

DG「前置きが長すぎて、もうスペースがねえな……まず、聴いてどうだった?」

ダレ「何だかんだ盛り上がったね! ドレーなのか?と思う曲もあるけど、そもそもドレーの音って何だ?という感じでもあるし」

DG「さっきも話したけど、ミックスはドレーが全部やってる一方、いわゆるプロデュース曲は思った以上に少なかったな」

ダレ「舞台裏での実際の役割は変わってないのかもしれないけど。10年かけて本人がクレジットにこだわりがなくなったのかもな。もちろんクインシー・ジョーンズとかパフ・ダディみたいな感じで、本当の意味での統轄はしてるとして」

DG「パフといえばさ、去年リック・ロスのアルバムで〈mix overseen〉っていうクレジットがあるんだけど、〈プロデューサー〉って肩書の頃のパフィもやってたことはあんま変わってないと思うんだよな」

ダレ「ドレーも『Detox』の制作時点からそうなってたのかもな。新進だったJR・ロテムとかからビートを集めてるっていう話もあったし」

DG「もう〈自分のビートじゃなくてもいいんじゃね?〉っていう境地に入ったのか」

ダレ「“Still D.R.E.”の〈♪Still taking my time to perfect the beat〉だな」

ドクター・ドレーの99年作『2001』収録曲“Still D.R.E.”

DG「自分が〈完璧なビートを作る〉ことより、チームで〈ビートを完璧なものにする〉ことを優先するっていう」

ダレ「その意味でいうと今回ドレーのお眼鏡に適ったプロデューサーは……いまやアフターマスの古株になったフォーカスと、あとはデム・ジョインツが目立つ感じか。毎度のドレー楽団ではお馴染みのトレヴァー・ローレンスJrと、久々にセロン・フィームスターも参加してる」

DG「デム・ジョインツはちょうどジョーダン・スパークスの新作でも活躍してるし、タイニー・テンパーやクリスティーナ・アギレラらの作品を手掛けてきた奴みたいだぜ。で、彼がやってるそのへんの仕事をよく共作してるキャンディス・ピレイが、今回も5曲に参加してるっていう」

キャンディ・ピレスの2015年作『Mood Kill』収録曲“Hold On”

ダレ「アレックス・ダ・キッドのレーベルにいる美女シンガーみたいだな。あと、10曲で関わってるキング・メズは9thワンダー周辺の作品によく登場してたラッパーか。9th絡みの作品に参加も多いフォーカスの紹介なのかもしれないね」

DG「あと、注目のアンダーソン・パークも細かく9曲に貢献してるし、さっき名前の出たスライ・ジョーダンの援護も目立つ。でも、そいつらの個みたいなのはそこまで前に出てくる気がしなくて、ストーリー上の配役みたいな感じがするんだ。そんな点もアルバム全体の聴こえ方に統一感を生んでるんじゃないかな」

ダレ「確かに『2001』みたいに一曲ずつが立ってる感じがしないぶん、いわゆるアルバムっぽいアルバムに感じられるね。ただ、そういう役者たちの振る舞いに対して、キューブ、スヌープ、エミネム、イグジビット、ゲーム、ケンドリック……とドレー史上の重要MCたちはハードな語り部としてガッツリとラップしてる印象だな。そこに期待のジョン・コナーも連なってくる」

DG「意外なところだとアバヴ・ザ・ロウのコールド187umか。ぶっちゃけローカルでずっとがんばってるOGもたまには報われてほしいし、ドレーやスヌープとの過去の因縁を思うと感慨深いぜ。“Darkside / Gone”でのイージー・Eの使い方も、超ベタなんだけどこのドラマティックな流れのなかだとアリだな」

ダレ「イージーといえば、ボーン・サグズン・ハーモニーの“Foe Tha Love Of $”(94年)を引用した“For The Love Of Money”もあって……説明的というか親切な作りではあるよな。DJイェラの作った曲って意味合いもあるんだろ」

DG「ヨモ&モウルキーに提供して、それをボンサグにリメイクさせたぐらい、イェラが思い入れのある曲だからな」

ダレ「つまりMCレン以外のNWAが作中にいるってことだ。最後の“Talking To My Diary”ではレンの名前も挙げてるし」

DG「その曲はDJシルクが作ってるんだよな。ジェイヨ・フェロニーでお馴染みの」

ダレ「スリム・ザ・モブスターの『War Music』(2011年)でドレーとニアミスしてたな。そのスリムもバックで声を入れてるけど……その時期の曲なのかね?」

DG「全体のテーマに直結するし、早い段階でシメの曲として出来てたのかもな。それも含め、NWAやドレー史の流れも理解してる奴ほど楽しめる作品だと思うぜ。例えば“All In A Day’s Work”から“Nuthin’ But A ‘G’ Thang”が思い浮かぶとか、音もリリックもくすぐられるところが多いし。乱暴に言うと、ずっとドレーを追ってきたオレとオマエらのためのギフトだね!!」

ドクター・ドレーの99年作『2001』収録曲“Nuthin’ But A ‘G’ Thang”

ダレ「うるせえな……。そういやNWAの話をしてねえけど」

DG「そこは〈エピソード1〉的に、また別の機会に紹介しようかと思ってな」

ダレ「なるほどな。じゃあNWAがエピソード1~3だとして、今回の『Compton』までが4~6だとしたら、この後は『フォースの覚醒』に期待していいってことか」

DG「これでドレーも呪いが解けたはずだしな! ジョン・コナーが悪に走らないようにアルバムまで面倒も見てほしいしね」

ダレ「何の話だよ」