ディーンの魂を掴んだ瞬間の記憶
『ディーン、君がいた瞬間』のキーワードのひとつは、“soul(魂)”。まずこれは、ジェームズ・ディーンとデニス・ストックの魂の触れ合いを描いた作品だ。
2人が初めて出会ったのは、ニコラス・レイ主催のパーティ。1955年のことである。当時23歳のディーンは、新人俳優。かたや後年ジャズ・ミュージシャンの写真集『jazz Street』(1960年)で知られることになるストックも、無名の写真家。ただし、ディーンの方は、初主演映画『エデンの東』が試写の段階ですでに大きな評判となっていた。直後に同作の試写を観たストックは、この新人がスターになることを確信し、密着撮影をしたいとディーンに申し出る。が、当初2人の心は通じ合わない。したがってストックが初めて撮影したディーンの写真は、マグナム・フォトの編集主幹に突き返される。「被写体の魂が写っていない」と。
アントン・コービン監督は、ミュージシャンの肖像写真家として世に出た人物。それだけに、ディーン以上にストックの方に心を寄せつつ、2人の関係を描いている。また、劇中には、『エデンの東』の出演俳優の一人であるレイモンド・マッセイがプロモーションのためにこんなコメントを録音するシーンがある。
「エリア・カザン監督は『波止場』で都会の心模様(urban soul)を描いた。『エデンの東』はその姉妹編のようなものだ」。
都会での生活は、誰にも干渉されないという“自由”を保証してくれる。ただし、その代償として“孤独”を味わわなければならない。その意味では、ディーンの、あの淋しげな眼差しは、“urban soul”の象徴と言えよう。が、インディアナ州の“信号機がひとつしかない”町で生まれたディーンは、もともと“rural soul”の持ち主。だからこそディーンは、ニューヨーカーのストックとなかなかそりが合わない。しかし、ディーンは、ストックが自分と同じように早くに親を亡くして苦労したことを知り、初めて彼に関心を抱くようになる。そしてディーンの提案で、2人はインディアナへ2週間の旅に出る。ここでも2人は当初、心の距離を縮めることができなかったものの、やがて2つの魂は共鳴し、ストックはようやく被写体の魂を捉えることに成功する。
本作は、ディーンが朗読する詩でしめやかに締め括られる。それは、ディーンがインディアナの旅の最後の夜、もうここには2度と戻れないことを予感していたかのように読み上げた地元出身の詩人ジェイムズ・ウィットコム・ライリーの詩だ。インディアナの旅から約半年後の55年9月、ディーンは自動車事故で急逝する。ディーンの魂は、もちろん今も映画ファンの記憶の中で生き続けているが、では、一人の人間としての彼の魂は何処に?――ライリーの詩の中に答えがある。その一節一節に魂が震えた。
映画「ディーン、君がいた瞬間」
監督:アントン・コービン
音楽:オーウェン・パレット
出演:デイン・デハーン/ロバート・パティンソン/ジョエル・エドガートン/アレッサンドラ・マストロナルディ/ベン・キングズレー/他
配給:ギャガGAGA★ (2015年 カナダ・ドイツ・オーストラリア 112分)
(C)Caitlin Cronenberg, (C)See-Saw Films
◎12月19日シネスイッチ銀座他、全国順次ロードショー
http://dean.gaga.ne.jp/