Photo by Shinya Matsuyama

 

カリブ海をルーツに、旅するクレオールなシンガー・ソングライター
アフリカ、フランス、ブラジル、様々な要素がミックスされた待望の日本デビュー盤

 クリス・コンベッテの音楽は穏やかでまろやかだ。彼のアルバム『ゴレ島の子供達』では、カリブ海/南北アメリカ/ヨーロッパのリズムやメロディやハーモニーが、曲ごとに位相を変えながら分ちがたく結びつきあっている。

CHRIS COMBETTE ゴレ島の子供達 Label Mondial(2016)

 クリスはマルチニク出身の両親のもと、仏領ギアナで生まれ、フランスやマルチニクで育ち、カリブ海各地で音楽活動をはじめた典型的なクレオールのアーティストだ。この20年ほどはパリを拠点に暮しながら汎カリブ海的な音楽を作り続けている。

 「わたしは主にマルチニクで育ったが、アマゾンの熱帯雨林があるギアナで暮らすのが好き。だから自分の心の国といえばギアナかな。わたしの第一の言葉はマルチニクのクレオール語で、ギアナのクレオール語ともちょっとちがう。マルチニクの文化に属しながら現在ではギアナの文化やルーツにも敬意を払っているという感じ。同じ熱帯だけど、マルチニクのイメージが透明な海と美しい砂浜とココヤシの林を吹き抜ける風とすれば、ギアナのイメージは暑くて湿度が高い森の中を濁った水が流れる大きな河。ギアナの人々は優しくて愛情にあふれていてちょっと内向的で、そこは日本人と似ているかもしれない」

 マルチニクの音楽としてはビギンが世界的に有名だが、彼の音楽もその一種と考えていいのだろうか。

 「ビギンはマルチニクだけでなく、グァドループやギアナでもよく耳にする音楽。アフリカ的なリズムがはっきりしている音楽だ。わたしの音楽にはビギンだけでなく、カリブ海やその周辺の他の音楽の要素が入っている。キューバ、ジャマイカ、ハイチ、プエルトリコ、トリニダード、ブラジルなどのヒット曲を高校時代にバンドでよく演奏していたんだ。タブー・コンボジャズ・デジュンファニア・オールスターズ、キューバの有名なスターたち、もちろんボブ・マーリーなどのレゲエや、ジルベルト・ジルジョアン・ジルベルトなどブラジルの素晴らしい音楽家たち。自分ではそれらすべての音楽をミックスして演奏している。ビギンとヴァイオリンを最初に組み合わせたマルチニク最大のグループ、マラヴォアのアルバムで1曲うたったこともある。彼らはわたしたちだけでなく、カリブ海で音楽をやっている人たちに大きな影響を与えたね。フランスの音楽も聴いたよ。ジョニー・アリデイエディット・ピアフジョルジュ・ブラッサンスジャック・ブレルフランシス・カブレル……。ギアナに話を戻すと、カリブ海で人気のズークがよく聴かれている。黒人奴隷の末裔シマロンの音楽や先住民の音楽などあまり国外で知られていない音楽もある」

 アルバムには、かつての奴隷貿易の基地だったセネガルのゴレ島にちなむアフリカ系のディアスポラについての歌や、パリのアフリカ人コミュニティの活況を描いた《アフリカ人》、マダガスカルの首都についての《タナ》といった歌が入っているが、彼にとってアフリカ性はどんな意味を持っているのだろうか。

 「クレオールの文化はたくさんのもののミックスだから、わたしはアフリカ人であるのと同じくらい西洋人でフランス人でもある。どこから来たというルーツは大切だが、自分のルーツのちがいを主張することで、排他的になってはいけないね。わたしの中には奴隷として連れて来られたアフリカ人も植民地を支配したヨーロッパ人も入っている。痛みをともなった文化の出会いによって生まれてきた自分のルーツを顧みると、世界市民の一人でありたいと切実に思う。ロシア人でもありたいし、日本人でもありたいし、何者でもある人間だと思いたい。レイシストはごめんだけどね。ルーツは他者と交わって共存していくために使うべきもので、他者を排除するためのものではないんだよ」

 と語るクリスには高知の〈ヨサコイ〉世界化プロジェクトのために来日したときに取材したのだが、彼はそれもまたクレオール性の拡張と考えているようだった。