フェティッシュでエロティックな音を創造する希代のクリエイターが、次の始まりへ向かうために壊したものと、そこに浮かぶ〈2020年のポピュラリティー〉とは
「そもそも2013年に『ABSTRKTSEX』が出たあたりで、僕の中では〈だいたい全部終わったな〉という感じがしていたんです。2009~10年になるあたりで大学を卒業してるんですけど、そのとき就職せずにこの道に進むということも含めて、〈フェスに出てみたい〉とか、〈こんなアルバムの感じがいい〉とか、理想のステージングの形とか、目標ややりたいことを考えた時期があって。その時に2015年ぐらいまでかかると思っていた目標が2013年ぐらいにだいたい叶ってしまったんです。13年にオベイ・シティとのツアーの最後、代官山UNITでライヴをやっている時には、〈ああ、ここで終わっていくんだな〉みたいなことを感じて……。それ以降、作っても作っても前に進まないというか。自分のやりたいことと、それを作品として理解してもらえる状態にすることとのバランスがうまく取れなくなって、エンジンがかからない状態になっていたんです」。
ポピュラリティーという意味でSeihoの存在を数段飛ばしで上昇させたセカンド・アルバム『ABSTRKTSEX』は、いわゆる〈テン年代のクリエイター〉という雑な括りはさておいても、同時代に世界中で活躍するビートメイカーの新潮流をリードするものだったのは間違いない。ただ、その流れの中で当人には別のフィールが生まれていて、その結果として表れたのが、「自分にとっては休日」と表現するAvec Avecとのユニット、Sugar's Campaignの活動本格化とメジャー・デビューだった。だからして、マシューデヴィッドの主宰するリーヴィングから発表した今回の『Collapse』は、ワールドワイド・デビュー作であると同時に、「すべての曲が2014~15年に作られたもの」という弁を真に受けるならば、平衡感覚を崩していた時期の記録という意味合いも持つことになる。それでも、そんな状況すらある種のモードとして聴かせる術は最高だ。
「〈なるべくリスナーに寄り添った形で芸術活動をする〉ということに関するバランス感覚が取れなくなった時期に作っていたんで、逆にどこかに寄らない=バランスを取るということを意識したんだと思いますね」。
みずから採取したリアル自然音と素材集からピックした音源、あるいはデジタルと生音、騒音と静寂など、さまざまな対になる要素の両方を意識的に内包した今回のサウンドは、甘やかなビートとシンセの奔流という前作のイメージを越えて、テクノ~アンビエント、ジャズのフィーリングが溶け合っている。前作のキャッチーな親しみやすさとはまた違う世界ながら、この『Collapse』ならではの個性も、恐らくSugar's Campaignの充実があったからこそ生まれた世界でもあるだろうし、逆に『Collapse』のバランスを突き詰めていたからこそ、例えば三浦大知“Cry & Fight”のような振り切れた音に取り組めたであろうことは本人も認めるところだ。そして、〈崩壊〉を意味するアルバムのタイトルについてはこう語る。
「『Collapse』って聞くとマイナスなものを連想する人もいると思うんですけど、僕の中ではそうではないんですよ。むしろ〈次の始まり〉というイメージなんです。僕の中での2020年の目標として、今回のアルバムのようなものを〈全員がわかるような状態〉に持っていきたい、というのがあって。この無秩序な状態も、こういう音色を使っていたということも、2020年が近くなったら一般的なポピュラリティーとして存在しているように持っていきたい。だから、そのために一回〈壊す〉という意味なんです」。