世界各都市を縦横無尽に巡れるようになって数年。
自分たちにとって最近はこれが〈日常〉と、ようやく頭の中が認知しはじめ、それが慣習化するようになったかと思えていたのも束の間。
われわれのアメリカに対する考えがあまりにも浅はかであったと痛感せずにはいられません。
いまシカゴのホテルで筆を落としているわけですが、本来われわれはシアトルに向けてモンタナ州あたりの空域を移動している予定でした。そう、
フライト、キャンセルです。
ふぅ……。
まぁそのおかげで移動中に文章を書かなくても良いわけですが。
こんな感じ、ですかね。
それはさておき、今回もさまざまな都市での出来事を時系列に則して綴っていこうと思います。
前回のユウキの回では、オーストリアまでのわれわれの酒量は如何ほどか?という軽快なテーマのもと進行しましたが、今回も言わずもがな〈続行〉ですね。
というか、これはブログ始まって以来不動のテーマですね。悪しからず。
まずはロンドンを皮切りに。
■8月29、30、31日 〈Raw Power Weekender〉
3日間に渡って北ロンドンのタフネル・パークにあるTHE DOMEという会場で2ステージを使用したフェスティヴァル。自分の記憶では数年前にライトニング・ボルトのサポートとして出演していた友人のDJ Scotch Egg率いるドラム・アイズを観にこのライヴハウスへ来たのが最後かなと。このフェスのラインナップはとても興味深く、オーガナイズするババ・ヤガズ・ハットを主催する人物はわれらお気に入りのヴェニュー、コルシカ・スタジオのオーナーであるエイドリアン氏とアマンダ夫人、そして古い付き合いのアンソニー。ゆえに若手からヴェテラン・クラスまで幽玄に、そして重厚にサイケデリックな音楽を聴かせてくれるバンドたちが出揃いました。
初日のヘッドライナーはレディオヘッドの前座も務めた経験のあるリヴァプールの奇才・クリニック、2日目は言わずと知れた関西ヘヴィー・サイケデリアの重鎮・Acid Mothers Temple、そして最終日はBO NINGENというラインナップ。他にも前回のUKツアーをサポートしてくれたヤングハズバンドやオーシレーションも。さらにはタイゲンがベース/ヴォーカルを務めるMainliner、自分とユウキ、ケンイチ・イワサ氏から成るXaviersなど、どこまでも濃い3日間でした。
また、2日目の深夜にはクラウトロックの名曲をその出演者をメインに参加者が即興演奏し合うイヴェント、ケンイチ・イワサ氏の〈Krautrock・Karaoke〉も行われるという盛りだくさんな内容。
案の定、自分は3日間入り浸り、スティックを片手にお酒のプールにプカプカ浮いているような素敵な時間でした。
さてそんな素敵な時間もさすがに3日間行き通すと若干胸焼けを覚えるので、世俗を離れ、静養の意味も込めてサマーセットにあるウェルズという小さな都市へ。世界最大規模のフェスとして知られる〈グラストンベリー・フェスティヴァル〉の会場も近いですね。
■9月1日 〈サバス・イン・ウェルズ〉
このウェルズ、イングランドのなかでは最小の都市なのですが、その面積に反するとても大きな大聖堂があります。中世の町並みを綺麗な形で残していて、そこに住む人たちと自然に共存しています。さならが某ロールプレイング・ゲームの中に迷い込んでしまったかのような感覚も好きで、あまり観光地化もされていないのでゆっくり余暇を満喫できます。距離もロンドンから3時間ほどなので。小旅行で行くには最適です。
そして束の間の安息の後は例の如く怒濤の日々。
■9月3、4日 アイスランドでの撮影
われらのアルバム『III』から“CC”のMV撮影のため、自分とユウキは一路アイスランドへ。友人であるAephie Huimiを監督に迎えて行われることとなった今回の撮影、サヴェージズのジェニーも参加しているわけですが、彼女はロンドンで、コウヘイも別でレコーディングがあるため別の日にロンドンの別の場所で、タイゲンは体調不良のためフィンランドで……と計4か所での撮影となったわけです。
空港に着いて一服しているとスタッフらしき女性から
〈お名前は?〉と。
自分の名前を答えると何となく腑に落ちないような表情で去って行きました。一見なんの変哲もない会話ですが、横のユウキに目をやると……
ニヤリとして一言、〈さっそくですか?〉
どういうことかというと、それはここ最近の自分の身に降り掛かり続ける喜劇。前回オーストラリアの〈ビッグ・デイ・アウト・フェスティヴァル〉から連綿と続く珍事。
スティーヴ・アオキ氏に間違われる、というもの……。
とても有名なDJさんではあるので、日本の皆さんはすぐにその〈違い〉がわかると思うのですが、欧米の人々からするとかなり酷似して見えるようです。個人的には渋谷のBEAT CAFEを経営されているカトマンさんのほうが似てると思うんですがね。
オーストラリアでは約2週間の滞在で50回ほどは呼び止められ、写真&サインを求められたほど。きっと世のアジア系長髪&髭男性は同じ〈被害〉と呼ぶにはあまりにも微笑ましい事態を体験してらっしゃることでしょう。南無。
話を戻すと、空港でまた勘違いされたということです。ここアイスランドでも彼が高名なことを思い知らされます。
アイスランドという地を踏むのは2人とも初めての経験だったのですが、その景観たるやこの世のものとは思えない素晴らしさでした。自然というものの尊厳がそこにはある。でももともとヴィジュアル系からドラムをスタートさせている自分の頭の中に浮かんだ映像は、これ。
これはアイルランドで撮影されたようですが。こんなMVになるかもしれませんね。あっ、ヘリは使ってませんけれど。乞うご期待。
さて、撮影スケジュールはかなりタイトなもので、日没までには自分とユウキのカットすべてを終わらせなくてはいけません。なので空港から直で撮影現場へ。
まずはユウキのシーン。
黒い火山岩があたり一面を覆う何とも幻想的な風景のなかで撮影は始まります。
そして次の現場。
その名も〈World War II Air Port〉。第二次大戦当時の面影はどこへやら。良い廃墟です。滑走路をひた走る。
そして自分のシーンへ。
用意されたのはこれも素晴らしい廃墟。大平原にぽつんと佇むこの廃墟にテンションも上がります。
そしてもともと馬の納屋として使用されていた小屋へ。昔から知っている場所のようで心はもうすっかり裸にされてしまいます。軍艦島を世界遺産へ登録することをめざす方の言葉を借りれば、
〈人の消えた音〉が聞こえる。
この廃墟の中でドラムを叩く。前々から自分の一つの夢でもあったので感無量。過去の記憶へのノスタルジアから自分の内側へ向かい、それを大自然に放出する行為。もしかするとそれはどんな恋愛よりも純粋な愛情表現なのかもしれませんね。
そして無事撮影も終わり、一行は一路、宿泊先であるレイキャヴィクのIngvar Haukur宅へ。彼はカメラマンでありにAephieのボーイフレンド。彼のお父さん手作りの馬肉煮込みを頂きました。絶品。
そして友人の薦めでアイスランドの伝統料理のなかで異彩を放つ料理をAephieに所望し、調達しておいてもらいました、それは……
生前の息吹すら感じられる。比較的こういった類いのものはいけるタイプなのですが、あまりにも可哀想になってしまい……。でもいちばん美味とされる下あごの部分はしっかり食べました。舌も牛タンより濃厚で美味しいようです。アイスランドに行かれた際は、ぜひ。
まるで家族のように温かく迎えてもらい、夢見心地で就寝。
ですが早朝 即 空港。やはりこうなるんですよね……。氷の島に後ろ髪を引かれながら、われらが都・倫敦へ。
そして翌日はまるで反復横跳び。ふたたび北欧はフィンランドへ。