言葉の先に何があるのか…。詩人・谷川俊太郎が新たに生み出す“詩の旅路”
東日本大震災から5年。その間、私たちはどれ程の“言葉”を心に抱いてはしまい込み、失い、そして発しては人と人の繋がりを保ってきたことだろうか。悲しみ傷つき、そして励まし合い、明日への希望と未来のために今も必死に生きている。
本作は震災後の翌年、制作が開始された。谷川俊太郎の半生を描いた初のドキュメンタリー映像『詩人・谷川俊太郎』(紀伊國屋書店)を制作したプロデューサー・小松原時夫。これまで谷川の詩集にふれてこなかったという杉本信昭監督。そして震災後に『言葉』という詩を世に届けた谷川俊太郎。その詩を窓口に3人による新たな“ことば”づくりの旅が歩き始めた。
この物語に出演している人々の生活は様々だ。震災に見舞われた福島県相馬市の女子高生、青森のイタコのおばあさん、小平市に住む有機農家の親子、諫早湾の漁師夫婦、大阪釜ヶ崎の日雇労働者。一人一人が暮らしている場所、そして歩んできた人生は異なるけれど、各々が胸に抱く多くの気持ちと共に一日一日を暮らしている。悩み、苦しみ、喜びを求めながら。その姿は私たちにも通じている。谷川もまた、彼らの気持ちをまっすぐに受け止めては、これまで生み出してきた自身の詩を朗読し送り届けている。そのメッセージは、まるで合わせ鏡のように出演者達の人生に不思議と重なっている。
送り届けては苦悩しながらも新たな詩の蕾を咲かせていく谷川俊太郎。全ての想いを受けとめ完成された〈言葉=ひとつの詞〉は温もりに満ち溢れていた。それはひとつの道標でもあり、救いの詩でもある。本作を鑑賞した人々が、この物語と共に新たな自分自身の“言葉”を追い求めていって欲しい。