『Freetown Sound』と時代の空気をシェアするあれこれ

KENDRICK LAMAR To Pimp A Butterfly Top Dawg/Aftermath/Interscope/ユニバーサル(2015)
意識の高いリリックだけが素晴らしいのではなく、本作が現象化したのはそれと先鋭的な音を合わせているから。フライローらを従えてジャズやファンク要素を練り込んだプロダクションに、デヴも大きなヒントを得たと認めています。

ブラッド・オレンジの方向性を決定付けたソランジュ。その姉の最新作も〈Black Lives Matter〉に呼応するものでした。が、密室的なデヴに対し、ビヨは外に向かって声高に怒りをぶつけた印象。いずれにせよこの2枚が今年を代表するコンシャス盤!

ネオ・ソウル風味をほんのりプラスしたことで、『Freetown Sound』のしなやかさや説得力(?)みたいなものはグッとアップ。それをデヴと一緒に企てたのが、本作やマイルス&グラスパー盤にエンジニアとして関わってきたカレブ・ラヴェンです。

『Cupid Deluxe』で好相性を見せたクラムス・カジノの新作。クラウド・ラップ好きを唸らせる序盤も〈らしい〉出来ながら、ケリー・ズートラ(パトリック・ウィンバリーがプロデュースするウェットの一員)参加曲など、甘い歌モノにデヴやウィークエンドとつるんできた成果が見られます。

互いの作品でコラボを繰り返してきた2人。タブーやソーラーを共通趣味にシンセ・ファンク道を歩みつつも、ムーディーに寄りすぎたり、キザにキメすぎたりせず、体臭や汗を感じさせない白けたスタンスを保っているのがイマっぽい。

かつてゾー!がフォンテと組んでレヴェル42やA-haなどをカヴァーした『Love The 80's』にもデヴは嫉妬したでしょうが、本作でのドーニク客演によるMJオマージュもおそらくそう。『Freetown Sound』で聴ける“Juicy 1-4”や“But You”にハマった方が、次にゲットすべきはこの一枚。

オルタナティヴな感性で80sへの憧れを露にするブルックリン在住のこのラッパーと、デヴのヴァイブが合わないわけもなく、本作ではブラコンをモダンに解釈したコラボが実現。そのテイストは『Freetown Sound』でも確認できます。

軽妙洒脱な折衷ソウルを武器に、ビラルやジャネル・モネイと絡んできたキンブラ。ドリーム・ポップ的な地点からプリンスやMJ化を図るその姿は、〈女版ブラッド・オレンジ〉とも言えそう。もうすぐ登場するらしい新作ではどんな手を打ってくるかな?

デボラ・ハリーの客演のみならず、ラップの挿し込み方などブラッド・オレンジの“E.V.P.”には“Rapture”の影響がたっぷり。同じく、ワー・ワー・ワトソンらと共にディスコ路線を極めた『Autoamerican』(80年)期のブロンディへ、微笑ましいほどピュアな愛をぶつけているのがカナダ産のこのアルバムです。

ジギー・マーリーの娘であるズーリーを迎えてエディー・グラント曲を引用した『Freetown Sound』収録の“Love Ya”は、ヒネリを効かせてレゲエに敬意を示した逸品。アプローチの方法は違えど、ポップカーンらが援護した本作でのドレイクと視線の先にあるものは同じ!?

『Freetown Sound』ではディープ・ハウスに寄せた“Best To You”や、ドラムンベースっぽいリズムの“Better Than Me”が良いスパイスに。異国情緒のある音飾によって、爽やかな楽園感を演出してくれるこれらの曲から連想したのがカイゴです。歌のテーマは重くとも、トロピカル・ハウスに回答してしまうデヴの軽さが好き。

すべてを諦めたようにも、浄化するようにも聴こえる『Freetown Sound』のラスト曲“Better Numb”。優しいノイズやアコギと共に響くここでのデヴの美声に、アノーニが重なります。そして最後の最後で飛び出す無数のネタの切り張りも、本作に関与したOPNへの共鳴に思えて。