THE NOVEMBERSがニュー・アルバム『Hallelujah』の制作エピソードと、同作リリース・ツアーのファイナルとなる11月11日(金)の東京・新木場STUDIO COASTワンマン公演への想いを語った、音楽評論家の小野島大氏によるロング・インタヴュー。この後編では、より開かれたフィールドをめざしたというレコーディング中のヴィジョンや、バンド/レーベルの両方にとって新機軸となったMAGNIPH/Hostessからのリリースに至る経緯について、さらに前作『Elegance』のリリース後に直面したという精神的な危機と、それを克服していくまでの過程を赤裸々に語ってもらった。
ちなみに前編でもお伝えした通り、THE NOVEMBERSはツアー・ファイナル公演のライヴDVDを製作すべく、CAMPFIREでのクラウドファンディング企画を立ち上げているので、こちらもぜひチェックしてみてほしい(詳細はこちら)。*Mikiki編集部
本当の意味で信じると、行動が変わってくる
――制作が始まった段階で、さっきの話(前編)に出たような、今回のアルバムはこういうものにするんだという理想形や、思い描いたヴィジョンは明確にあったんですか?
小林祐介(ヴォーカル/ギター)「物凄くざっくりですけど、話はしていましたね。というか、話をしている時間が長かった。俺たちは何だったんだろう、俺たちはどこに行きたいんだろう、俺たちがグウの音も出ないものを作るとしたら、それは何だとか。そういうふうに、イメージや目的にまつわる話をずっとしてたかな。まあ、〈名盤を作るぞ!〉みたいな、そういうレヴェルだよね(笑)。音楽的な話は本当にしてなくて」
ケンゴマツモト(ギター)「そうそう。デッカいところでバチコーン!って」
小林「バチコーンとしたやつを作るぞ、それがカッコイイのだ!とか、本当にそういう気分みたいな話でした」
高松浩史(ベース)「広いところで、というかね」
小林「そうそう、スケール感」
――それは演奏する場所が、ということですか?
小林「そうですね、そこで響きそうな音楽というか。〈フジロック〉の〈GREEN STAGE〉とか、そういうお客さんがたくさんいるような会場で、歪んだギターをジャカジャーンと鳴らしたらカッコイイだろうと、ふと思ったんですよね。昔はそういうのあんまり好きじゃなかったんですけど、なぜかここにきて急に、猛烈にカッコイイと思うようになったんです」
――より大きな場所で鳴らすのに相応しい音楽。それはより多くの人に聴いてもらいたい、という意思の表れですか?
小林「それもありますけど、未来に向けて曲をデザインするというか、その曲が自分たちをそういう未来に連れて行ってくれると信じるみたいな、そういう気持ちのほうが強かったかもしれない。たくさんの人に聴かれるようになるためのアレンジや個性を意識した瞬間もあったんですけど、それがまったく上手くいかなかった。僕はそれで気持ちが折れちゃったんです。折れちゃったというか、嫌な気持ちになってしまった。マスに向けるためにマスなものを参照して、分析して、系統立てたりしているうちに、〈だったら自分がやらなくてもいい〉というあたりまえの結論に行き着いた。ミスチルはミスチルをやればいいし、スピッツの場所にはスピッツがいるから、別のスピッツはもういらないわけじゃないですか。自分たちじゃなくちゃいけない何かというのが、本当は一番こだわっていたポイントだったのに」
――人のことを先に気にしちゃった。
小林「そうですね。マスに向けてとか、そういう邪念みたいなものを捨ててからは速かったです」
――自分たちが音楽的により高みに行けるようなものを作りたいと。具体的にはどういうことだったんでしょうか?
小林「んーと、何より信じることでしかなかったんですけどね。自分たちが持っているものをとことん信じる。それまでは好みだったり、〈なんか好きだな〉〈気分いいな〉くらいでやってきたものを、一回物凄く疑ってみる。そうやって疑いを掛ける時期を経たからこそ言えることですけど、信じることってすごく骨が折れるし、だからこそ一番大事なことだったりする。そうか、これが信じるという気持ちなんだって、いままで自分のことをそんなに信じてなかったかもしれないなと。自分たちのことや、自分たちが作るものを本当の意味で信じると、行動が変わってくる。実際に『Hallelujah』は世の中的にも、以前までの作品と反応が違うんですよね。それって、僕らがそうなると信じていたからなんです。だから、いつもと違う反応が返ってきたりしても、やっぱりそれほど驚かないですよ」
――自信が付いてきた。
小林「うん、単純に自信ですかね」
――自分たちのやっている音楽に自信を、確信を持てるようになった。
小林「そうですね。思い描いた未来に行くということを信じる。さっき、〈GREEN STAGE〉を例に出しましたよね。〈こうなったらいいな〉というのはこれまでも思ってたけど、そこで止まっていると絶対にそれで終わっちゃう。だから、〈GREEN STAGE〉にきっと行くんだと信じる。俺たちは絶対に世界的に活躍するんだって思うことが大切で」
――行けるといいな、じゃなくて、行けるんだ!と。
小林「よく話すんですけど、次の日が遠足だと決まっていたら、みんな遠足の準備をするじゃないですか。でも明日出掛ける〈かも〉となったら、準備する奴としない奴が出てくる。だから、僕らも何か具体的なスケジュールがあるわけじゃないですけど、遠い未来か近い未来かはさておき、絶対に行くと信じてるから。やっぱり、そういうつもりで毎日生きるようになりましたね」
――そうすると次に自分のやるべきことは何なのか、そのためにいま何をすればいいのかを具体的に考えるようになる。
小林「そうですね。〈海外に行きたいな〉とずっと言ってきたけど、そのために英語を勉強してなかった自分は、海外に行けると信じてなかったんだなと思って。でも、〈明後日に行くぞ〉となったら、めっちゃ急いで準備するじゃないですか。それを今日からやれよ、みたいな」
――土屋さんのような凄いプロデューサーに指示されるのではなく、自分たちで何をすればいいのか、次の行動は自分たちで全部決めなきゃいけない。それはすごくやりがいのあることなんじゃないですか?
小林「そうですね、やっぱりやりがいはありますよね。」
――そのための指針のようなものが、土屋さんとの作業から始まり、今回のアルバムまでの一連の作業で得られたものであると。
小林「本当にそうですね」
特別な作品をより広く聴いてもらうためにチャレンジしたかった
――『Hallelujah』を語るうえでの2つめのポイントとして、今作はMAGNIPH/Hostessという新しいレーベルから日本人アーティストとして初めてリリースする作品ということが挙げられます。これはどういう決断でなされたことなんですか。
小林「これは、決断というか自然な感じだったもんね? タイミングというか、巡り合わせというか。本当に不思議な感じだった」
――どういうところから持ち上がった話だったんですか?
小林「まずは、〈これが自分たちだ〉と胸を張れる作品を作ることが第一。それはきっと特別な作品になる。その特別な作品をこれまで通りのやり方で、自力で出そうと思えば出せるけど、せっかくだから次のフィールドというか、もっとたくさんの人に聴いてもらうためにチャレンジしたいなって気持ちがあったんですね。その話し合いを続けている過程でMAGNIPHのボスと知り合った。〈実はHostessと今度こんなことを計画しているんだけど、どうかな?〉という話をされて、〈なにそれ、カッコイイ!〉みたいな(笑)。家のCD棚にはHostessからリリースされた作品がたくさんあるから、〈マジか~、Hostess Club Weekenderに出れるかも!〉って(笑)。ワクワクしはじめたあたりから、もうそういうつもりだったし」
――自分たちの納得がいく作品を作り上げるまではセルフでもできるとして、それをどうやってリスナーに拡げていくかという段階で、レーベルというのはとても重要な役割を果たすわけですよね。これまでのように、レーベルをセルフでやっていくことにある種の限界を感じていたということですか?
小林「はい、感じていましたね。自分たちでここまでできるんだという自負はあるし、実績自体は作れたと思うんですけど、それで満足なのかと言ったらまったくそうじゃないし。かつ、自分たちの労力と時間をかなり割かないとレーベル業というのは回せないわけじゃないですか。でもこれ以上割くわけにいかないし。これまで通りでいいんだったら構わないけど、それでは嫌だし、より上をめざしたいと思ったから」
――現状維持ではなくて、拡げていこう、上に行こうと思ったときに、セルフではやっぱり限界があると。
小林「うん、そうですね。逆に言ったらセルフはいつでもできるという気持ちのほうが強かった」
――実際に新しいレーベルとやってみて、レコードを作る過程において何かアドヴァイスなどはあったんですか。
小林「そういうのはなかったですね。実際にその話がまとまったのは、アルバムがほぼ完成した段階だったので。ただその前から、MAGNIPH/Hostessとやれることへのワクワクした気分が自分たちにもあったし、それが曲に反映されたというのはタイミング的にはあると思います」
――自分たちだけでずっとやってきて、次の段階に行くために何か新たな展開が必要なときに出会ったというのは、いいタイミングだったんじゃないですか?
ケンゴ「絶妙ですよね」
小林「たまたまじゃないんですよ、やっぱり出会うべくして出会ったというか」