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これまで以上に強くなった

 また、アトランタ・シーンの古今を繋いで最新モードを伝える歌い手としてのプライドも十分に伝わってくる。ドリームとトリッキー・スチュワートが手掛けた“Bump”は、アトランタ経由でマイアミ・ベースに遡るようにルークの声ネタを使い、リル・ジョンの声も交えてクランクを匂わせつつ、アッシャーはドリーム節をなぞるようにハイ・ヴォイスと地声を巧みに使い分けて快唱。メトロ・ブーミン製のトラップR&Bとでも言うべき“Make U A Believer”、K・メジャーとマーフィー・キッドのコンビによる制作でフューチャーが客演した“Rivals”、R!Oが制作したスロウ“Downtime”も、アトランタ・マナーに基づきながら近年のトレンドであるアンビエントなサウンドにやや遅れながらも接近して時代のモードに身を置く。とりわけ、ライアン・トビーが制作に関与し、マックスウェルに似た甘美なファルセットを交えて歌う長尺スロウ・ジャム“Tell Me”は、これぞアンビエントR&Bといった仕上がり。同時に、パーティーネクストドアの制作でレディ・フォー・ザ・ワールド“Love You Down”を引用してドレイクを気取るかのようにラップ歌唱を聴かせる“Let Me”、インディー・ロックにも通じるXSDTRK制作のドラムレスなトラック上で情熱的に歌い込む“Hard II Love”といったカナダ勢とコラボも、OVO一派と交流を図っていた彼らしいアプローチだろう。

 2012年に義理の息子を亡くした悲劇を乗り越え、〈これまで以上に強くなった〉とクワイアをフィーチャーして士気を高めるように歌う“Stronger”に続いて、ラストには自身が俳優として出演した映画「Hands Of Stone」のためにラファエル・サディークの制作で吹き込んだ“Champions”を用意。パナマの伝説的なボクサー、ロベルト・デュランの伝記映画ということでルーベン・ブラデスとの中米音楽マナーな異色共演となったこれはボーナス・トラックに近い扱いなのだろうが、アグレッシヴに前進していく本作でのアッシャーの姿をダブらせているようにも感じられ、清々しい幕引きとなる。いまチャンピオン・ベルトを着けるに相応しいR&Bシンガー。それがアッシャーであることに異論はないはずだ。

 

アッシャーが参加した近作を一部紹介。

 

『Hard II Love』参加アーティストの作品を一部紹介。