感じてほしいのは、理屈じゃない楽しさ、音楽の放つ喜び、そして音楽そのもの――世界が待っていた『24K Magic』は、時代の気分をゴージャスに塗り替える!!

〈映画〉を作りたかった

 ブルーノ・マーズ。現代を代表するシンガー/ソングライター/プロデューサーの彼は、踊りと語りが得意な超一流のエンターテイナーでもある。今回、ニュー・アルバム『24K Magic』が制作されたLAのグレンウッド・スタジオで対面取材をしたのだが、「bounceの取材です」と伝えると、即座に足で拍子を取りながら「バウンス! バウンス!」と歌って歓迎してくれた。

 2012年末のセカンド・アルバム『Unorthodox Jukebox』からは、“Locked Out Of Heaven”をはじめ、5曲ものヒット曲が誕生。その盛り上がりがようやく収まったかと思われた2014年末、彼をフィーチャーしたマーク・ロンソンの“Uptown Funk”が空前の大ヒット。同曲は記録的に息の長いヒットとなり、今年度のグラミー賞で最優秀レコード部門を獲得した。まさに、いま音楽業界のトップを走っていると言っても過言ではないブルーノが、「2016年の現時点では、これが僕にできるベスト」と自負する作品が、今回の『24K Magic』だ。約1年半、同じスタジオに籠って制作を続けた全9曲は、彼自身が誇りに思えるまで、どれも50回ほど書き直したという。

 「過去2作は、レゲエあり、ディスコあり、バラードありと、あちこちに飛んでた。それが僕の個性だからね。僕はあらゆる種類の音楽が大好きな音楽ファンだから、まとまりのある作品にならない時もある。でも、新作では、〈映画〉を作りたいと思ったんだ。そして僕はこの〈映画〉のなかに、僕のバンドや、ヴェルサーチのシャツやゴールドのチェーン、パフォーマンスしている僕自身を見た。僕が踊って、観客も汗を流して踊って。アルバム全体をそういう雰囲気にしたかった。スロウな曲やバラード曲でも。それで、この映画では絶対に妥協しないって決めたんだ。僕の言う〈映画〉って、例えば『Purple Rain』だよ。プリンスが、84年にミネアポリスのグラム・クラブで作った作品。彼にあったのは、あの限られた世界だけだった。限られた空間で、どこまでクリエイティヴになれるか。それが新作で僕がやろうとしたことなんだ」。

BRUNO MARS 『24K Magic』 Atlantic/ワーナー(2016)

 アルバムと同名のファースト・シングル“24K Magic”は、新作全体の雰囲気を鮮やかに映し出している。24金が目に浮かぶような贅沢なサウンドに乗せて、“Uptown Funk”のように踊り出さずにはいられない楽しさを提供するこの曲は、ブルーノのちょっとした提案がきっかけで生まれたそうだ。

 「制作を始めた頃の僕たちは、スウェットパンツとかでスタジオに来てた。その場の雰囲気に影響するからね。いかにも仕事してる感じじゃなくて、皆とくつろいでる感じになる。でも、僕はあるアイデアを思いついた。〈いちばんカッコいい服で仕事に来るってのを始めてみないか?〉って。それから、僕たちはヴェルサーチのシャツを着てゴールドのネックレスをつけて、スタジオに来るようになった。そうしたら突然、“24K Magic”が思い浮かんだんだ。〈お前らのピンキーリングを月に掲げろ!〉ってね。僕らがそういう気分だったから、この言葉が降ってきた。それが、この映画のイメージを喚起する助けになったんだ」。