世界をまたにかけるチェリスト バッハに向き合う誠実な想い
自慢の仕事場だったというボルドー歌劇場。パリ・オペラ座が模したというその美しい劇場付属のアキテーヌ管弦楽団の首席チェリストという座を辞して、帰国したのは2014年。多忙なオケ活動の中にあって、「もっと室内楽やソロ活動、後進指導もしたい」というジレンマから羽ばたいてのことだった。
そんな中木健二がアルバム第二弾に選んだのはバッハの無伴奏チェロ組曲全曲だ。
「とにかく好きで大切に育んできた作品です。録音して残したい曲を考えた時に、確実に今まで一番練習したのがこの作品でした。年を経てさらにこう弾きたいと思い続けるだろう偉大な作品だからこそ、今にしかできない表現があると思い、録音しました」
バッハがこの作品を作曲したのは、教会から離れ宮廷に仕えていたケーテン時代。彼が一番自由だったろう時期だ。聖書を伝える仕事から離れ、彼がこの作品に込めたメッセージとは何だったのか。貴族的な何か、或はもっと人間的なものかもしれない。アンナ・マグダレーナの写譜を使い、疑問があれば他の写譜にあたる。想像的な作業だ。それが楽しく、幸せと感じる。
「だから、作品との対話から生まれたファンタジーは楽譜と僕の間のみ存在するもので、僕のそれに対して誰かにとやかく言われる筋合いはない(笑)。偉大な曲に真摯に向き合い演奏することは、全て芸術的に意味があると思うのです」
さらに、バッハは若い時からあらゆる録音を聴き、どれとも違う録音ができると確信があったとも語る。
「だからこそ、今までにない何かを持った演奏であると自信をもって言えます。これが僕の信じるバッハのエディションですし、僕がバッハを演奏するなら僕のエディションが存在しなくてはならないと僕自身が先生に言われ、僕の学生にも伝えています」
確固たる自信に則る演奏なのである。それは英才教育を受けた幼少期から始まり、藝大からパリ国立高等音楽院とスイス・ベルン高等音楽院に進み、共に一等と首席で卒業後、アントニオ・メネセスを追いキジアーナ音楽院でも学んだという、たゆまぬ努力に裏打ちされたもの。
そんな彼のモットーは「分かち合うこと」。
「音楽は分かち合いの最たるものです。この組曲を演奏して孤独を感じたことはなく、一人で室内楽やオケをやっている感じ。ここはホルン、ここはチェロと考えながらやる作業は楽しいものです」
ヨーロッパでは自分で音楽祭やプロジェクトを組む。そこにどんなコンセプトを持つのかがその演奏家のアイデンティとなる。それを目指す中木健二。今後どんなに大きな芸術家になるのか。注目したい。
LIVE INFORMATION
公益財団法人青山財団助成公演
中木健二無伴奏チェロ・リサイタル
○2017年1/15(水)15:00 開演
曲目:J.S.バッハ/ 無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007
第3番 変ホ長調 BWV1010/第5番 ハ短調 BWV1011
会場:青山音楽記念館《バロックザール》(京都)
www.kenjinakagi.com/