実力派チェリストが満を持して贈る近現代ロシアン・アルバム
若きヴィルトゥオーゾが並び立つ現代チェロ界において、最も高い実力と人気を誇る一人、ヨハネス・モーザー。2015年に名門フィリップスの流れを汲むPENTATONEレーベルから第1弾『ドヴォルザーク&ラロ:チェロ協奏曲集』を発表して大好評を博した。そしてこの度、注目の第2弾をリリース。そこには、プロコフィエフ、ラフマニノフ、スクリャービンという近現代ロシアの巨匠の傑作室内楽が、力強くしなやかな秀演で記録されている。
「私が薫陶を受けたダヴィッド・ゲリンガスの恩師、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ。そして今回共演したピアニストのアンドレイ・コロベイニコフ。いずれもロシア出身であることが決め手になりました」
プロコフィエフ作品は、ソナタと《シンデレラ》のアダージョが並ぶ。
「どちらも大好きな作品で、ロストロポーヴィチとゲリンガスから多くのことを学びました。特にロストロポーヴィチは、プロコフィエフと直接仕事をしていたので、鋭い指摘が多かったですね。今でも印象深いのは、『プロコフィエフの音楽には、暗さとユーモア、軽やかな楽しさと郷愁などの相反する要素が幾層にも重なっている。ナタン・ミルシテインは、彼は素晴らしい人格者だが、一歩間違うと殺人者になれると評していたよ(笑)』という言葉です」
ラフマニノフはソナタとヴォカリーズを選曲したが、モーザーがソナタを初めて演奏したのは意外にも3年前だという。
「このソナタはピアノ協奏曲のような作品なので、“正しいピアニスト”と巡り会うまで演奏を避けてきたんです。それがコロベイニコフに出会えたことで挑戦する決心がつきました。彼は本作を含めたロシア音楽を、まるで呼吸するように自在に弾きこなします」
プロコフィエフとラフマニノフの重量級のソナタで始め、最後はスクリャービンのロマンス(原曲はホルン)で気高く甘美に締め括られる当盤。その構成を、モーザーは、「ステーキから始めてデザートで終わるような、あるいは秋から冬にかけての荒涼な風景の中で語られる物語を意識しました」と説明する。
そんな彼は2017年2月に、アンドルー・マンゼ&スイス・ロマンド管との共演で、「エルガー:協奏曲、チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲&アンダンテ・カンタービレ」を発表。チェリストの最重要レパートリーのひとつ、エルガーは知性と情熱がバランスした秀演で、カップリングの《ロココ》をオリジナル版で演奏しているのも聴きどころだ。