昨年リリースした最新作『In Another Life』も好評を博したビラルが、2017年1月23日(月)、24日(火)にBillboard-LIVE Tokyoで来日公演を行う。日本にやってくるのは約10年ぶり、デビューしてからは15年以上経つが、ここにきてロバート・グラスパーやケンドリック・ラマーなどとの共演が注目を集め、新しい世代も巻き込んでファンを増やしている。七変化する歌声と同じように多面的な顔を持ち、R&Bを本拠地としながらジャズ、ヒップホップ、ロックなどとも接触して、共演者も新鋭からヴェテランまでと幅広い彼の音楽は、どこを切ってもユニークで斬新だ。ここでは、そんなビラルの魅力を4つのキーワードから迫ってみたい。
さらに、ビラルの『Airtight's Revenge』(2010年)や『A Love Surreal』(2013年)にも参加し、彼のライヴもサポートするなど繋がりの深いNY在住の鍵盤奏者・BIGYUKIからビラルの魅力についてコメントを寄せてもらったので、最後までチェックしてほしい!
★ビラルも参加したBIGYUKIの最新作『Greek Fire』に際して行ったインタヴューはこちら
■1月10日追記
1月24日(火)にBillboard-LIVE Tokyoで開催される1stステージのチケットを2組4名様にプレゼント。詳細は記事の最後に! ※応募は終了しました
1. フィラデルフィアが繋ぐ縁
ビラルことビラル・サイード・オリヴァーは、フィラデルフィア北西部のジャーマンタウン出身(79年生まれ)。ボーイズIIメンやルーツのメンバーなどを輩出したフィリーの舞台芸術高校に進学して音楽の世界をめざした彼は、当然のように地元アーティストとの交流も盛んだ。
シングル“Soul Sista”のリリースを経て、2001年にインタースコープから発表したデビュー・アルバム『1st Born Second』には、ディアンジェロの『Voodoo』(2000年)にも関わった同郷のクエストラヴ(ルーツ)とジェイムズ・ポイザーがソウルクエリアンズとして制作した“Sometimes”や、当時ア・タッチ・オブ・ジャズ所属だったアンドレ・ハリスとヴィダル・デイヴィスのプロデュース(曲の作者はデビューを間近に控えたフロエトリーの2人)による“You Are”を収録。フィリーを中心とした新しいソウル・ムーヴメントが芽生えていたことを実感させる内容で、前年にコモンの『Like Water For Chocolate』でジル・スコットと“Funky For You”で共演していたビラルは、メンバーではないがソウルクエリアンズ周辺の奇才としても注目を集めていく。
以後、ジャグアー・ライト、ミュージック・ソウルチャイルド、ジェフ・ブラッドショウ、キンドレッド・ザ・ファミリー・ソウルなど、地元のムーヴメントを賑わせるアーティストの作品にも客演。一方、デルフォニックス/スタイリスティックス/ブルー・マジックというオールド・フィリーの名門ヴォーカル・グループで活躍したテナー・リード3人のコラボ盤『3 Tenors Of Soul ~All The Way From Philadelphia』(2007年)では、得意のファルセットでブルー・マジックのテッド・ミルズと競演した。
そしてプラグ・リサーチから発表した2作目『Airtight's Revenge』(2010年)、パーパスからの3作目『A Love Surreal』(2013年)では、クエストラヴに次ぐ世代のドラマー/プロデューサーであるスティーヴ・マッキーを起用し、故郷の若手に活躍の場を与えている。ちなみに、自身が〈オーディオ・アート・ギャラリー〉と呼んだ『A Love Surreal』は、画家サルバドール・ダリが提唱したシュールレアリスムにインスパイアされたアルバム。そのトリッキーなアートなセンスは(2005年にダリ展も行った)フィラデルフィア美術館を象徴とする街で育った彼らしいとも言えるか?
2. ソウル~R&Bに留まらないオルタナティヴな感性
NYを活動拠点としたビラルは、フィラデルフィアとの繋がりもありながら特定のカラーに染まらず、故郷のシーンから大きくはみ出していた。デビュー作『1st Born Second』ではドクター・ドレーと組めばレゲエ調の曲も披露。アルバムのために作ったデモテープはオルタナティヴ・ロックのような内容だったとも言われている。
後にレディオヘッドの名曲を再構築した企画盤『Exit Music: Songs With Radio Heads』(2006年)では“High & Dry”を歌っていたりもするが、よじれたような鼻声や囁き声で狂おしく愛を歌い上げる彼の音楽は、その佇まいやソウル~R&Bの枠に収まらない越境感覚がプリンス的だと評されることも多い。同郷のジャグアー・ライトがプリンスにオマージュを捧げた“I Can't Wait”でビラルを共演相手に招いたこともその証左となろう。盟友のロバート・グラスパーは〈ブラック・デヴィッド・ボウイ〉と呼んでいるようだが、スライ+Pファンク風のミニマルでルーズなファンクを奏でながら、ハイブリッドな音楽をめざした『Airtight's Revenge』、パンク・ロック的なアプローチを試みた『A Love Surreal』という、シャフィーク・フセイン(サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズ)やサンダーキャットの関与も話題になった2作には、その形容がよく似合う。
★ビラル『Airtight's Revenge』時のbounce記事はこちら
近年はケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』(2015年)への参加で新しい世代からも注目を集めるビラル。ヒップホップ作品におけるゲスト参加も絶えず、コモンとの度重なる共演(最新作『Black America Again』でも)をはじめ、ジェイ・Z、ゲーム、スカーフェイス、タリブ・クウェリ、リトル・ブラザー、そしてマック・ミラーまで、東西南北のラッパーたちと絡む彼はやはり全方位型だ。ケンドリック・ラマーやビッグ・クリットが参加した最新作『In Another Life』で、ヒップホップとレトロ・ソウルを跨ぐオルタナティヴな奇才エイドリアン・ヤングと組んだことも頷ける。その最新作に参加したキンブラの“Everlovin' Ya”(2014年)で〈プリンスごっこ〉をしていた2人も忘れ難い。
また、映画「ファイティング・テンプテーションズ」(2003年)のサントラにおけるビヨンセとの共演をはじめ、ソランジュ、トゥイート、クリセット・ミシェルなど、R&B然とした歌姫たちとのデュエットでも己の流儀を貫いていた。ミゲルやフランク・オーシャンが登場する前からオルタナティヴな感性で鋭く甘美なソウルを歌っていたのだ。