《地獄太夫と一休》明治4-22(1871-89)年 絹本着彩、金泥
以下すべて、作者は河鍋暁斎、所蔵はイスラエル・ゴールドマン コレクション
Israel Goldman Collection, London photo : 立命館大学アート・リサーチセンター

 

日本遺産大使 マーティ・フリードマンと深く掘り下げる、天才絵師・河鍋暁斎

 「画鬼」の異名をとり、幕末から明治の激動の時代を力強く駆け抜けた天才絵師・河鍋暁斎。その緻密かつ豪快な作品世界に魅入られた画商イスラエル・ゴールドマン氏の所蔵コレクションが本展で一挙公開される。

 そこで、先日「日本遺産大使」に就任した、大の日本文化ファンで知られ、アメリカのへヴィメタルバンドで活躍し、今では世界中に熱狂的なファンを持つミュージシャン、マーティ・フリードマンが本展担当学芸員の黒田和士さんにその見どころを聞いた。

 「展覧会の特設サイトを見ましたけど、暁斎の署名をデフォルメしたタイトルや、三味線を弾く骸骨や動物たちが踊り出すアニメ、それに僕もコラボしたことのある〈和楽器バンド〉が手がけるテーマソングまで、河鍋暁斎をめぐる過去と現在が自由に融合していてびっくりしました。まったく古さを感じさせませんでした」とマーティは言う。

 もちろんサイトをはじめ、解釈やデザインにここまで躍動的なアレンジを効かせられるのも、まさに暁斎ならではの自由闊達でボーダレスな画力あってのことだろう。

 幕末の江戸に生まれ育った河鍋暁斎は、財を成して下級武士の身分を手に入れた商人である父の教育方針により、浮世絵の巨匠・歌川国芳と幕府お抱えの狩野派の両方から絵画の技術を学び、若くして免許皆伝となる。

 幕府崩壊後、失業した絵師が多かった時代にも、暁斎は江戸に残った数少ない狩野派出身の正統派絵師として活躍し、時の有力者や神社仏閣など、クライアントは引きも切らなかったという。

《名鏡倭魂 新板》明治7(1874)年 大判錦絵三枚続

《三味線を弾く洋装の骸骨と踊る妖怪》明治4-22(1871-89)年 紙本淡彩
 

 一方で、基本 “アイデアが命”の浮世絵師の発想を駆使して、軽妙なユーモアにあふれた作品や、今でいうマンガや雑誌に近い絵草紙なども次々と手がけ、新しい時代に異彩を放った。

 なかでも暁斎の本領発揮ともいえるのが、伝説上の人物や神様、動物たちなどを活写した作品だ。

 たとえば鬼を退治する神・鍾馗が捕えた鬼に崖下の薬草を採りにいかせたり、七福神が紅一点の弁財天の姿を描いた掛け軸に見とれていたり。パロディ精神にあふれたこれらの作品では、暁斎にとって、神々は自在に動かせる親しみのあるキャラクターとなって活躍する役者たちだ。

 あるいはコレクターのゴールドマン氏が惚れ込んで、一度は売却したのに買い戻したという『象とたぬき』のお伽話のような図や、猫や蝙蝠など動物たちがあり得ないポーズで曲芸を披露する図、などなど。

《動物の曲芸》明治4-22(1871-89)年 紙本着彩
 

「当時、狩野派には、先人たちの手本をもとに動植物などの描写を倣う習わしがありましたが、暁斎は自宅の庭でさまざまな動物を飼って、実物を写生することを重視していました」と学芸員の黒田さん。本展では書き損じやメモ書きに写生した下絵も出品されるというから楽しみだ。

 「象をそんなにじっくり観察したはずないのに、この想像力はすごい」とマーティが驚嘆するように、大胆な構図、自然な動きで、多彩なモチーフを描く描写力には舌を巻く。

 しかも暁斎は妻の阿登勢が亡くなった時、その顔を写生し、のちに「幽霊図」を描いたとも伝えられる。「奥さんの死に顔を描いた時、本当はその下絵を他人に見せるつもりはなく、夢中になって描いたんじゃないかな」とマーティは画鬼・暁斎の謎に満ちた心理に想像をはせる。

 数々の逸話を残す暁斎の人生だが、6升7升の酒を飲んでもサラサラと即興で絵を描いたといわれる大酒飲みで、なかにはふらついた“千鳥足”の署名があったりもする。ある日、上野の料亭で催された書画会で酔っぱらった暁斎(当時は狂斎と名乗っていた)は、新政府の役人を風刺する滑稽画を描いて投獄されるという、どこかのロックレジェンドばりの武勇伝も残している。

 「どう見てもこの絵はしらふの人が描いたはずないじゃない(笑)。それでも完成度は高く、技術のすごさが伝わってきます」と感心するマーティ。

《蛙の放下師》明治4-22(1871-89)年 紙本淡彩
 

 暁斎は、ほかの多くの浮世絵師と同様、もちろん春画も描いている。暁斎の春画の世界は、淫靡な性描写を見せようとするものではなく、あっけらかんとしたまさに「笑い絵」。お色気漫画『みこすり半劇場』の熱心な愛読者であるマーティが「まったく同じネタがあった!」と驚いた(古典的な)松茸の見立てや、取り込み中の男の後ろからちょっかいを出す飼い猫、紙を操作すると動く仕掛けなど、他愛のない下ネタで笑わせようとする、稀有なユーモアのセンスを感じさせるものばかり。

 そこにあるのは、暁斎が人間社会で愚かさや滑稽さを目にしてきた観察眼と、混乱の時代にあってこそ清濁併せ呑むおおらかな視点だ。

 「喩えていえば、CMソングからオーケストラ作品まで手がけるミュージシャンみたいな振り幅といえるかもしれません」と黒田さんは言う。

 そしてマーティはこう熱く語ってくれた。

 「暁斎のアートは歴史であり、現代でもあるんです。美術も音楽もそうだけど、日本の文化には長い歴史の中で昔からあるテーマがいまも豊かに融合して生きている。だからこそ謎も多いと思います。日本文化を深く掘るには人生足りないけど憧れます」

《弁財天の絵を見る六福神》明治4-22(1871-89)年 紙本着彩
 

 河鍋暁斎が生きた江戸から明治への転換の時代、市井の人々の価値観や矜持は大きく揺さぶられたに違いない。(そして現在もだ) しかし暁斎は現実世界の混沌とした様相を冷静に見つめ、人間の本質をフラットに描き続けた。素早い筆致でとらえた動物たちや神々のうつし身も、時間をかけて丹念に構築的に描かれた仏画もあるが、いずれも過去現在を超えて、いつの世も古びない人間の普遍の様相を描き出している。

 


EXHIBITION INFORMATION

ゴールドマン コレクション
これぞ暁斎! 世界が認めたその画力

会期:2/23(木)~4/16(日)
開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)*会期中無休
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム
www.bunkamura.co.jp
巡回先 *会期は予定
会期:4/22(土)~6/4(日)   会場:高知県立美術館
会期:6/10(土)~7/23(日) 会場:美術館「えき」KYOTO
会期:7/29(土)~8/27(日) 会場:石川県立美術館

 

ナビゲーターは落語家の春風亭昇太さん!

落語家の春風亭昇太さんが、展覧会のナビゲーターを務めます! 演劇への出演も多く、音楽系の人たちとのライヴも意欲的に行なうなど、ジャンルを越えた交流も幅広い昇太さん。本展音声ガイドも担当し、暁斎のユーモア溢れる世界へみなさまを誘います!

 


展覧会イメージソングは和楽器バンドが《浮世heavy life》を書き下ろし!

和楽器バンド 四季彩-shikisai- avex trax(2017)

その名の通り和楽器とロックサウンドを融合させた新感覚のバンドとして世界からも注目される和楽器バンド。新曲『浮世heavy life』は和楽器バンドのベース担当で自身もボカロP(和楽器バンドのベース担当、VOCALOID楽曲作家)として活動している亜沙が、河鍋暁斎をイメージし「これぞ暁斎!」展のために書き下ろしました。和楽器バンドと暁斎、共に世界が認めた二つの才が交わり、この現代で昇華された好例といえるでしょう。