思い切って仕事を休み、大好きな彼女と旅に出た。そこで見た景色、身体で感じたリズム、離れてみてわかった故郷への思い……。心なしか表情もスッキリして戻ってきた青年が、晴れやかに第3章の幕開けを宣言する!

サプライズがいっぱい

 2012年作『Red』から続くテイラー・スウィフトとの良好な関係、トリー・ケリーやウィークエンドらとのコラボ、はたまたジャスティン・ビーバーに提供した“Love Yourself”が先頃のグラミー賞にノミネート……と、常に華やかな話題/人脈に囲まれているエド・シーラン。だが、こうした裏方&客演仕事はあくまでも横道にすぎない。エルトン・ジョンも才能を認める現在25歳のこの天才シンガー・ソングライターは、わずか2枚のアルバムで世界の頂点へと昇り詰めた。デビュー作『+』(2011年)からは“The A Team”と“Lego House”が、2作目『x』(2014年)からは“Sing”“Don't”“Thinking Out Loud”“Photograph”が、いずれもミリオン・ヒット。“Thinking Out Loud”に至ってはグラミーまで受賞している。あまりに順調すぎて本人も怖くなるほど!? そんな若くしてすべてを手に入れた彼が次に取った行動は、何と1年間も休業することだった。アイスランド、アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドから日本まで、世界中を旅して周り、すべてをいったんリセット。そのうえで完成させたのが、このたびのサード・アルバム『÷』というわけだ。

 「燃え尽きていたんだ。不健康だという気もしていたし。だから1年ほど休みを取って世界中をガールフレンドと旅行したり、故郷の自宅で寛いだり……普通の生活に戻った感じかな」。

ED SHEERAN 『÷』 Atlantic/ワーナー(2017)

 しかし、その間も音楽制作から完全に離れていたわけではない。LAとロンドン、そして彼の出身地であるイングランドのサフォークで新作のレコーディング準備を粛々と進行。さらに豪華客船のクイーン・メリー2へ乗り込み、そこでも曲作りに励んでいたという。そんなこんなで、『÷』は国際色豊かな一枚に仕上がっている。まずは、今年の1月初めに解禁されるやいなや、英米の両チャートを制した先行シングル“Shape Of You”。ショーン・ポールをフィーチャーしたシーア“Cheap Thrills”のリミックス版っぽいアレンジが楽しい同曲で、トロピカル・ハウス以降のムードを吸い込むエドの姿に、驚いた方も多いのではないだろうか。

 「リアーナが歌ってくれることを想定し、彼女のために作りはじめたナンバーなんだ。途中から自分の曲になっちゃったけど、最初の段階ですでにカリビアンなムードがあったから、それは残しておきたかった。別に〈流行りのアレンジを施してみよう〉とか、そういうわけじゃないよ」。

 そしてもうひとつ、これまでの作品にはないカラーを見せているのが、ガーナで録音した“Bibia Be Ye Ye”だ。パーカッシヴで陽気なリズムが印象的なこの曲については、「たぶんポール・サイモンの『Graceland』の影響じゃないかな。南アフリカとガーナとでは地理的にも離れているけど、とにかくアフリカで録音したいと考えたんだ。現地の人たちと寝食を共にしながら制作したんだよ」と話してくれた。ただ本人は「最大のサプライズは“Galway Girl”じゃない!?」と予想する。

 「これはアイリッシュ・フォークのミュージシャンたちと共演した曲。アイルランドの血も引く僕としては一度やってみたかったことなんだ。もともとプランクシティのようなバンドが大好きだからね。ファンのみんなにとっては、かなりの驚きなんじゃないかと思うよ」。

  補足しておくと、プランクシティとは70年代から80年代初期にかけて活躍し、アイルランドの伝統音楽を革新的に鳴らしたグループだ。彼らのような大先輩をしっかり聴き込んでいるのも、エドの〈らしい〉ところ。時代の寵児でありながら、過去の音楽への造詣が深く、それらに敬意を示すことも忘れない。