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もっとビッグになりたい

 エド本人と共同でアルバム全体の監修を務めたのは、馴染みのジェイク・ゴスリングではなく、前作にも1曲だけ参加していたベニー・ブランコ。ブリトニー・スピアーズからマルーン5、メジャー・レイザーにパッション・ピットまでを手掛けるこの万能型の売れっ子プロデューサーが、エヴァーグリーンな魅力を放つ主役の歌メロと、新鮮なサウンド・プロダクションとの橋渡し的な役目を担っている。

 エドはアコースティック・ギターを弾きながら、時にラップし、時にトーキング調の歌唱も披露。ヒップホップのリズムにフォーク・サウンドを絡めたり、60sポップスのテイストやラテンのリズムなどを取り込んだり、あの手この手でリスナーをもてなしてくれる。巨大なスタジアムの夜景に映えそうなスケールの大きいピアノ・バラード“How Would You Feel (Paean)”においては、ゲストのジョン・メイヤーがダイナミックにエレキを轟かせ、かと思えば、ひとりひとりの心に沁み入るであろう部屋聴きにピッタリなスロウの美しさも特筆もの。休息期間で得た経験が、きっちりと音源に落とし込まれているように感じた。

 と同時に彼のこれまでの人生も投影され、ノスタルジックな回想ムードで酔わせてくれるのも今作のポイントだ。本国UKでは“Shape Of You”と同時にリリースされた“Castle On The Hill”(こちらは全英2位を記録)は、生まれ故郷のシンボルであるフラムリンガム城がテーマ。丘の上に建つその城に思いを馳せながら、郷愁に浸っている――そんなエドの様子が脳裏に浮かぶ。

 「『÷』のなかではわりと昔に出来た曲かな。3年ほど前に書いたものなんだ。過去の思い出を歌にすることはよくあるんだけど、この時はちょっとホームシックだったのかもしれないね」。

 半生を振り返りたい気分になったのは、学生時代から知るガールフレンドとの交際が順調なおかげでもあるはず。オーケストラを導入した“Perfect”について「特別な人のことを歌った曲だよ」と訊いてもないのに彼が教えてくれたので、〈過去の? あるいは現在の?〉と突っ込んでみたら、「いまの恋人に決まってるだろ!?」なんて照れ笑い。この“Perfect”がアルバム中でも一番のお気に入りだとか。いやはや、〈パーフェクトな彼女〉とは羨ましい限り。そこまで言うなら熱烈なエドのファンも、きっと2人の関係を応援したくなるんじゃないか!?

 それはさておき、アルバムの仕上がりには「凄く満足しているし、自信を持っている」と胸を張るエド。『÷』で彼の名声がいっそう高まることは間違いなさそうだ。でも、つい先日、海外雑誌のインタヴューで〈テイラーと一緒にビッグになりすぎた〉といったような後悔を匂わせるコメントを目にしたけれど……。

 「あの発言は抜粋されたもの。後悔なんて全然してないよ。もっとビッグになりたいし、大好きな日本でももっと大きな会場で演奏したいんだ」。

 そう嬉しそうに目を輝かせる姿が印象的だった。

 

 

『÷』に参加したアーティストの作品。

 

エド・シーランが参加した作品の一部を紹介。