INTERVIEW

死んでしまった人々、天使、イノセント―寺尾紗穂が語る、真摯な生の軌跡刻んだ〈たよりないもののために〉紡ぐ歌

寺尾紗穂『たよりないもののために』

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この社会で行われてることって、大丈夫なのか

――毎作品ですけど、寺尾さんの歌詞は咀嚼してもしきれない、感じ入るしかないようなところがあって。個人的に“私の怪物”という曲には大きく考えさせられました。〈踏んでも殺しても気づかないままで/平気な顔してアイスをなめてる〉という歌詞を聴いて、無邪気さでいろんなものを思い通りにしていくことに対する恐ろしさを〈怪物〉という言葉に込めているのかな、と。

「この曲も2012年ぐらいに作ってるんですけど。2010年頃から『原発労働者』という本は書いていたので、〈電気がこんなにも汚れていたのか〉みたいな感覚はこの曲を作った時にはすでに持っていたんです。でも、この〈水を下さい きれいな水を/花を育てるきれいな水を〉というのが、書いてみたけどいまいち意味が自分でもよくわからないというか……。とりあえず書いたけど〈なんで水なんだろう?〉みたいな感じはずっと自分の中であったんですね」

――「原発労働者」は原発で実際に働いていた方々にインタヴューしながら書き進めていった本ですよね。これも浅はかな考えかもしれませんが、〈水〉〈原発〉と聞くと、どうしても〈汚染水〉や〈除染〉という言葉が思い浮かんできます。

「ちょっと具体的すぎますね(笑)。そこまで考えてたのかな……。まぁ、でもそれもあるかもしれないですね」

――直接的には結びつかないですか。

「最初は自分の汚い部分や個人的な感情、エゴの部分から出てきた歌だったんです。恋愛とかも含めたいろんな。でも、やっぱりそのエゴって社会の〈根〉になってもいるわけで、直接的に原発とは言わなくとも社会の問題にやっぱり繋がってはいきますよね。あと、実は最近、農薬の問題が気になり始めてるんです。いつも私、最寄りの駅の駐輪場に自転車を止めるんですけど、ある日、自転車を整理してるおじさんがツバメの巣を見ながら〈今年も戻ってきてよかったなぁ〉みたいなことを言っていて。ちょうどツバメが巣から出ていったところだったので、戻ってくるのを待とうと思って、私もしばらくぼーっと巣を見てたんです。

そしたらおじさんが、〈この頃、蚊が少ないんだよね〉みたいな話を始めて。〈これは農薬のせいだと思うんだ〉って、ネオニコチノイドという農薬のことを教えてくれたんです。その農薬は普通に散布するタイプじゃなくて、根っこに染み込ませて葉っぱから花粉から全部に毒を回して虫を寄せ付けないようにするというものなんだそうで。数年前にミツバチの大量死が話題になったじゃないですか? あれもネオニコチノイドらしいんです。野菜だけでなく米作りにも使われているから、田んぼのトンボが減っているという研究もあるようで。

ヨーロッパでは2013年ぐらいから全面的に規制されているんですけど、日本ではその動きとは逆に、同時期に基準がばっと緩められて全国的に使われるようになったらしいんですよ。というのも、ネオニコチノイド系の農薬は日本の会社が作っていて。ヨーロッパで売れなくなったから日本で規制を緩めて売っている……そういう話をおじさんがしてくれたんです。ふーんそうなのかと思って、家に帰った後に調べました」

――農薬のせいで生態系に大きな悪影響が起きていることを知った、と。

「そうです。それとこの間、加古川でライヴをやったんですけど、そのライヴを企画してくれた人が喫茶店をやりながら自分のお父さんの代からの土地でお米を作っていて。でも、〈田んぼの水がきれいかどうかわからないんだ〉って言うんですね。水を出すと赤っぽい水が出て錆とか油みたいなものが浮いてたり、近くに産業廃棄物の不法投棄があったりして、過去に埋め立てたりしてるのが関係あるかもしれないらしいんです。原発の除染した廃棄物の問題なんかはよく話題になるけど、それ以前に産業廃棄物というとっくに解決されてても良さそうな問題が、調べてみるとまだまだ全然あるんですよね。

直島とか豊島も注目されて、今や芸術の島として知名度をあげてますけど。豊島には昔、産業廃棄物が不法投棄されて問題となり、最終的にそれを直島に運んで、直島の施設でその廃棄物を無害化する処理をずっとやってきたという歴史があって。本来、島で出たゴミじゃないものが小さなところに押し付けられているわけです。東京に生きているとあんまり知覚的にわからないけれど、地方に行くとそれがわかるなって。私たちは日常を暮らしてるだけだけど、この社会で行われてることって、大丈夫なのか。放射能もそうだけど、それ以前に農薬や廃棄物埋め立て、不法投棄とかで、実は水が危ないんじゃないか?と。〈水をください〉っていうのは、そういうことなのかなと思ったり」

※2017年6月12日に無害化処理が14年かかってようやく完了したと香川県が発表

 

〈目に見えないもの〉との出会いの集大成なのかもしれない

――寺尾さんは、自分は何かを殺しながら生きているという実感を覚えますか?

「殺してますよね。……うち、平屋でお風呂にナメクジが入ってきちゃうんです。1匹だけだったら、つまんで移動させちゃえばいいんだけど、たまに隅っこで生まれちゃってるんですね(笑)。そういう時は濃度の濃い塩水を作ってシュッ!とかやってたんですけど。でも、やっぱり嫌な気持ちにはなりますよね。そんな中、ウチの小学校4年生の長女が、今年の4月から〈天使〉が見えるようになったんですね。下の子たちも長女ほどではないんですが、見えてます。長女を介して〈天使〉と会話したり、私の歌を聴いてもらったりもしていて。その〈天使〉はまだ子どもで、いろんなことを勉強している最中みたいなんです。まだ羽根も小さめらしくて」

――なるほど。

「それで、〈天使〉がある時うちの近くの雑木林ですごくびっくりするものに出会ったと言ってきて。それが〈ダンゴムシの精霊〉だったらしいんですよね。しかも、大きなダンゴムシ……とかじゃなくて精霊として人みたいな形をしているらしくて。顔は彫刻みたいに固まってるらしいんですけど。それを聞いて〈ダンゴムシの精霊がいるなら、ナメクジの精霊もいるな〉と思って、だめだ!と思って殺すのはもうやめたんです。〈天使〉にも〈お風呂場にナメクジが出ちゃうんだけど、どうしたらいい?〉って相談したんですけど、〈卵を産む前にとにかく外に移して〉と。ありきたりなアドヴァイスだなって思ったんですけど(笑)」

――娘さんに〈天使〉が見えるようになったきっかけは何だったんでしょうか?

「きっかけというきっかけはなくて。4月5日のことなんですけど。娘が帰ってきて〈お母さん、信じてくれないかもしれないけど、公園で男か女かわかんない人に会った〉と言うんです。光がすごいんですって、その人の周り。ものすごく綺麗な人らしくて、よくよく話を聞いていたら〈それって天使なんじゃないの?〉ってなって。

羽はその時はよく見えなかったらしいんですけど、今は結構大きくなって出てきてるらしいです。〈どこからきたの?〉って訊くと空を指さす。〈お父さんとお母さんは?〉って訊くと〈わからないけど、でも神様の声を聞いたことだけは覚えている〉と答えるんですよ。だから、もしかして幼くして死んじゃった人間の魂が神様に呼ばれて〈天使〉になるのかなと私は思ってるんですけどね」

――羽が未成熟でいろんなものと出会って驚いているところからみても〈子ども〉なんですね。〈天使〉に年齢の概念があるのがおもしろいです。

「そうなんですよね。年頃は娘と同じぐらいみたいで。妙に人間っぽいところもあるんですよ。娘に〈そんな綺麗なのに、お母さん見られなくて残念だな〉と伝えてもらったら、〈いや、あなたのお母さんのほうが綺麗〉って……〈天使〉なのにそんなお世辞も言うんです(笑)。家にも来るようになったんだけど、部屋が雑然としてたから綺麗にしなきゃと思って片付け始めたら、〈おかまいなく〉って言われて(笑)」

2016年作『わたしの好きなわらべうた』収録曲“七草なつな”を演奏するライヴ映像
 

――寺尾さんご自身は、いわゆるスピリチュアルなものとの関わりというのはずっとあったんですか?

「全然なかったんです。ただ、この2年くらいでスピチュアルな目に見えないものが見える人にポンポンポンと会って。そういう経験の集大成がこのアルバムなのかもしれないです。目に見えないものっていうのは、最初に話した自殺してしまった人の魂とか、神様とか精霊みたいなものは確かにここ数年感じてきたな、と思って。もう1年ぐらい前かな、冬に明治神宮の原っぱに行ったんですね。その時に、ちょっと不思議なつむじ風をみて。それこそ精霊が踊ってるような感じで、ゆっくりとした自由なものだったんです。“たよりないもののために”の〈枯葉の小さなつむじ風のテンポで〉っていうのは、その時のことなんです。

冒頭の〈たよりないもの〉の話に戻りますけど、あれを〈子ども〉と受け取る人もいるだろうし、あと私が“アジアの汗”みたいな作品を作ってきたので〈弱者に寄り添う〉みたいな見方で受け取っている人もいるみたいなんですけど。でも、この“たよりないもののために”の歌詞を読んでもらえれば、そんな固定したことを歌っているわけじゃなくて……ってことはわかってもらえると思いますね。〈たよりないもの〉って何だろうって自問が生まれて、それぞれがいろんなことを考えてもらえたら嬉しいです」

※山谷の労働者をテーマにした2010年の楽曲。収録アルバム『残照』には一部の歌詞が放送禁止となり修正され発表されたが、無修正ヴァージョンもマキシ・シングルとして同時リリース

 


LIVE INFORMATION
〈寺尾紗穂『たよりないもののために』発売記念ツアー〉

7月15日(土)広島・カフェ・テアトロ・アビエルト
7月31日(月)山口・周防大島 東和総合センター
8月1日(火)福岡・とらきつね※二回公演
8月11日(金・祝)宮城・加美コンツェルトハウス
9月2日(土)島根・大根島home
9月16日(土)茨城・取手Atelier ju-tou※冬にわかれてで出演
9月22日(金)北海道・札幌cafe tone
9月23日(土)北海道・旭川 六条教会
9月30日(土)大阪・岸和田温泉 いよやかの郷
11月12日(日)名古屋・ブラジルコーヒー
11月18日(土)宮城・塩釜美術館
12月2日(土)高知・メフィストフェレス
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