曲を書くたびに、演奏するたび、録音するごとに音楽家は記憶の消失点のような、耳に届くことのない、また目に届くことない光、原点を見つめてるようだ。ふたりのヴィオリンとピアノのデュオの演奏を聴き重ねていくうちにそんなことを想う。クラシックやジャズの影響下に世界中で生まれた音の形の数々が重なり合うように響き、星座のように様々な音楽達を結びつけてきた音の巡りがこの二人の出会いの中にも訪れ、新しさを巡る冒険に疲れた耳に、新鮮に響が染みて、消えていく。二人の音の軌跡はいつももう一度聴きたいという願いとともに記憶に刻まれ、また幾度となくこのCDを繰り返し聴くという行為によって再生する、ずっと。
金子飛鳥、林正樹 『Delicia』 疲れた耳に染みる、ヴィオリンとピアノのデュオによる音の形の数々
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