
カジを魅了したガール・レイ、畳野が理想と崇めるワクサハッチー
――では、オールウェイズの流れで2人が最近オススメできるバンドと言えば?
カジ「最近、女性ヴォーカルのバンドやアーティストはビッグ・ムーンやペイシェンスとかおもしろい人たちがいっぱいですけど、特に僕が好きなのはガール・レイというバンド」

――ガール・レイは、7月に〈もしもし〉からファースト・アルバム『Earl Grey』をリリースしたUKの3ピース・ガールズ・バンドですね。個人的には、レインコーツをちょっと思い起こさせる感じもあります。
カジ「脱力感ですよね。パステルズとかの流れも感じるし、自分はメロディー・ドッグ※を想起しました。しかも、3人ともまだ18歳で。18歳には見えないですよね(笑)」
※パステルズのカトリーナ・ミッチェルが所属していたガールズ・バンド
――貫録が(笑)。
畳野「見えないです(笑)。どの街のバンドなんですか?」
カジ「ロンドンのバンドです。アルバムを聞くと、1曲13分というプログレッシヴ・ロックみたいな曲(“Earl Grey (Stuck In A Groove))”もあって、よく18歳でこんなのをできるなと。何かちょっとしたセンスがすごくおもしろいんですよね」
――ちょっとパブの感じもしますしね。まだ入れる年齢じゃないかもだけど。
カジ「ロンドンだと、ラフ・トレードが最近リリースした、確か平均年齢14歳くらいの3姉妹でやっているバンドもいますよね」
――ハニー・ハースですね。今のところ唯一のリリースとなっているデビュー・シングル“OK”のセッション映像を観てみましょう。
畳野「子ども……ビックリするくらい、子どもですね(笑)」
カジ「特に上手いわけでもなくて、曲自体も良いのか良くないのか、実はわからないくらいの(笑)。でも、これは〈良いと言わなくちゃいけないよな〉みたいな」
畳野「言わざるを得ないですよ。これは否定できない(笑)。可愛い。ちょっと暗いところもいいですね」
カジ「だよね。こういう子たちを盛り上げようとするところが、ロンドンぽい。ロンドンの人たちって〈次はこういうシーンを作るぞ〉みたいな、自分たちでシーンを作っていく感じが自然とあって。それがうまくハマるときとハマらないときもあるわけだけど」
――畳野さんは最近のリリースでオススメというと?
畳野「私はワクサハッチーのアルバムです」

カジ「これは、まだ聴いていないです」
――ワクサハッチーは、USはアラバマ州のバーミングハムで結成。7月にリリースされたのは、通算4作目のアルバム『Out In The Storm』です。
畳野「このヴォーカルのケイティ(・クラッチフィールド)ちゃんは私の理想っていうか〈こういう人いたんだ〉みたいな存在で、もうすごく格好良いんです。ワクサハッチーは彼女のソロ・プロジェクトなんですけど、双子のお姉ちゃん(アリソン・クラッチフィールド)もサポート・メンバーをやっていて。彼ら姉妹は、高校生の頃からP.S.エリオットというバンドをやっていたんですよ。(大人になって)一度は離れ離れになってしまったけど、今またメンバーにお姉ちゃんを呼んで一緒にやっているというストーリーにもすごくグッときています。バンド名はワクサハッチー川からとっているそうですが、もともとその川のほとりで曲を作っていたようで、そういったネーミング・センスも愛せる。あと、ライヴがすごくいいんですよね。ケイティは、すごく感情が伝わってくるパフォーマンスをするんです。表情とかもすごく素敵で、女の子が憧れる要素を持っている女性というか」
――スリーター・キニーとツアーをしていたり、レコーディングにはダイナソーJrやブリーダーズ諸作などで知られるジョン・アグネロが関わっていたりと、いわゆるUSオルタナティヴ・ガールズ・ラインの正統な後継者と言えますよね。ルーツ・ミュージックの消化の仕方なんかは、畳野さんに言われてみて、Homecomingsに通じるところもあるなと思いました。
畳野「私も最近、わりとオルタナっぽい方向に行っています」
ヘイゼル・イングリッシュとフェイザーデイズ、南半球でも活況見せるインディー・ポップ
――カナダからUK、USと続きましたが、僕からはオーストラリア出身のヘイゼル・イングリッシュを紹介させてください。今はサンフランシスコ近郊のオークランドに拠点を移しているアーティストで、2枚のEPを合わせた編集盤アルバム『Just Give In/Never Going Home』を今春にリリースしました。

HAZEL ENGLISH Just Give In/Never Going Home Marathon Artists/Tugboat(2017)
カジ「昨年、ファースト・シングルの“Never Going Home”が出て、僕的にも大ヒットでした! すごくいいですよね。彼女って、やはりちょっとオーストラリアの女の子の感じがする(笑)。いい意味で垢抜けていない感じがして、そこが可愛い」
――プロデュースをデイ・ウェイヴが担当しているんですよね。彼女もドリーム・ポップ〜シューゲイザー系アーティストのなかでは、ソングライティングが抜きん出ている気がします。
畳野「そうですね」
カジ「オーストラリアだと、僕はコートニー・バーネットもすごく好きなんです」
畳野「私もすごく好きです! 最近カート・ヴァイルと一緒に出した作品(『Lotta Sea Lice』)も、めっちゃ良かった」
カジ「あの彼女の歌い方、歌いまわしがいいよね。完全にもうあの人って感じがするというか」
畳野「そうですよね。ピックを持たないスタイルとか、こだわりがあってワイルドで、すごくカッコいい」
――では、実際にコートニー・バーネットとカート・ヴァイルが共作した”Continental Breakfast”のミュージック・ビデオを観てみましょう。
畳野「すごく良い。ずっと見ちゃう感じ」
カジ「これ、実際にカート・ヴァイルの自宅と家族なんですかね」
――どうですかね。でも、コートニーと一緒に映っていた女性は、実際のパートナーのジェーン・クローラーなんですよ。だから、カートの側も本当の家族かもしれないですね。
カジ「そうなんだね」
――あと、オーストラリアの隣国、ニュージーランドにはフェザーデイズがいますよね。

畳野「彼女は10月に来日していましたね!」
――リリースしているレーベルは80年代のポスト・パンク期からシーンを支えている同国の老舗、フライング・ナンなんですよ。
カジ「そうだ、フライング・ナンなんだ! 昔レコード屋さんでバイトしていた頃に、フライング・ナンって結構取り扱っていて。まだあるんだね」
――レーベルとしては、やはり一時は休止していて、復活っていう感じですかね。このところ活発にリリースしています。そういう意味でも、彼女は同国のギター・ポップ系譜における後継者かな、というふうに思っているんですけれど。
カジ「オーストラリアやニュージーランドも、ずっと盛り上がっているんですね」
ホムカミ〈アノラック期〉のテンションを再発見できるLuby Sparksら日本の新鋭
――カナダのオールウェイズにはじまって、US、UK、オーストラリア、ニュージーランドと足早ですが、各国の充実したリリースを拾ってみました。最後に日本勢はどうでしょうか? いわゆるピュアなギター・ポップという目線だと、9月にファーストEP“Thursday”をリリースしたLuby Sparksは、かなり様式美的にしっかりやっている印象です。
畳野「そうですね。あの感じ、久しぶりというか」
カジ「自分もLuby Sparksを今年の春に初めて観て、すごくいいなと思いました。それこそ自分がやっている生放送のラジオ番組で、Luby Sparksとオールウェイズを続けてかけたんですけど、まったく違和感なく繋がって」
畳野「ホムカミが活動を開始した頃を、自分ではアノラック期って呼んでるんですけど」
一同「ハハハハ(笑)!」
畳野「あの時代には、関西でも結構アノラックをやってるバンドがたくさんいたんです。で、そのときのテンションを久しぶりに感じられたのがLuby Sparksでした」
カジ「あと最近すごく好きなバンドだと、ポスト・パンクなあの子たちが……」
畳野「TAWINGS」
――TAWINGS、いいですよね。
カジ&畳野「うん」
カジ「なかなか日本で女の子のポスト・パンクのバンドって、生まれづらい感じがしているんですけど……」
――もうちょっとライオットな方向にいっちゃうというか。TAWINGSみたいなちょっと緩い感じはなかなか出てこないですよね。
カジ「すごく新鮮だし、おもしろい」
――いろいろ可能性を感じさせるバンドですよね。そのうえでHomecomingsの立ち位置っていうのも、いわゆるインディー・ポップの様式美をおさえながら、もうちょっと広がりのあるバンドになってきたなと思っているのですが。
カジ「そうだね! でも、Homecomingsはそれがしっかりできていて、着実に成長しているバンドだと思うし、だからおもしろいんです。ちゃんと今の海外のシーンと普通に一緒だなっていうか、より良いぐらいかもしれない」
畳野「いやいや。嬉しいです」
カジ「どうしても自分は、よくも悪くも日本の要素を入れちゃうというか。でも、Homecomingsはそういうところが全然なくって、しかもちゃんとセールス的にも結果を出せているのはすごい」
畳野「いや、考えますよ(笑)。日本っぽさ、入れなきゃなって」
カジ「いろいろね。でもすごく自然でいい」
畳野「本当ですか。嬉しいな」
やっぱりギター・ポップがやりたい!
――では最後に、お2人の今後の活動についてお伺いします。
カジ「お知らせ、そうですね。何だろうな。今日は紹介しなかったんですけど、例えば男子バンドとしてはビーチ・フォッシルズみたいな」
―― 今年リリースしたアルバム(『Somersault』)、完璧でしたよね。
カジ「ね。あとはシー・ピンクスとかフープスとか、やっぱり男の子のギターポップ・バンドにもすごくいいバンドがたくさんいますよね。それに刺激されたっていうことでもないですけど、自分的にも、ネオアコにすごく特化したものを作りたいなっていう気持ちが、今は少しあるのかな。これまでもそうだったかもしれないけれど、何かもうちょっとこだわった感じというか」
畳野「いいですね」
――今年はカジさんの活動というと、どうしてもブリッジ再結成のほうに目がいってしまいまして……。
カジ「そうですね。結構いろんな人に曲を提供したり、プロデュースみたいなことをやっていたりはするんですけど。でも、そろそろ自分の作品を作りたいなとは思っていて、曲をちょっと書きためてはいるんです。だから、来年の早い時期に出せたらいいなっていう感じです」
――Homecomingsは?
畳野「ホムカミは、11月からサード・アルバムに向けての制作期間に入ります。さっきも話に出てきましたけど、今はティーンエイジ・ファンクラブとかそういうのをすごく聴いていて。素直に曲を作りたいなっていうか、シンプルでいいから自然と出てくるものを形にしたいなっていうふうに、ふと思ったんですよ。何か最近、やっぱりギター・ポップっていうものがやりたいんじゃないかなって。
昔からずっと好きだったんですけど、それこそHomecomingsが得意なところというか、他のバンドには出せない要素だったりするのかなっていうことに気付いて。今のムーヴメントみたいなものに乗せようっていう気持ちが邪魔をしつつも、でもそれをちょっと一回置いておいて、原点に戻るじゃないですけれど、そういうことがサード・アルバムではできたらいいんじゃないかなと思っています。今回の対談が、そういった最近のモードと合っていたので本当に良かったな」
カジ「次のアルバム、すごく楽しみですね! セカンドはロック・バンドとしてのHomecomingsが強く打ち出されていておもしろかったし、いろいろな挑戦もあった成長作だと思う。そのうえで今の話を聞くと、また次が楽しみでワクワクします」
畳野「そうですね。どういう形になるかはわからないですけど、福富(優樹/ギター)くんの文章もすごく好きなので、彼の歌詞や、2人で今まで作り上げてきた世界観みたいなのを、4人でもっと大きいものにできたらなと思っています」
カジヒデキ Live Information
〈GHOSTS OF CHRISTMAS PAST for BLUE BOYS!〜 最後のBLUE BOYS CLUB at astro hall 〜〉
2018年12月25日(月)東京・原宿astro hall
出演:Magic, Drums & Love/Luby Sparks/かせ山達臣/カジヒデキ
BBC RESIDENT DJ : HIDEKI KAJI/KINK(ALPHAVILLE RECORDS)
GUEST DJ : 新井俊也(冗談伯爵)
開場/開演 19:30
前売り/当日 3,500円/4,000円(ともにドリンク代別)
★詳細はこちら
Homecomings Live Information
〈Homecomings presents 「Casper the Friendly Ghost」〉

2018年12月23日(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO
出演:Homecomings/ミツメ/STUTS
GUEST:平賀さち枝
開場/開演 17:00/18:00
前売り 3,500円(ドリンク代別)
前売入場特典:DVD「CASTLE BYERS SCREENING : Chapter One」
※前売購入者全員に入場時受付にてお渡し致します
2018年12月24日(日)東京・渋谷CLUB QUATTRO
出演:Homecomings/YOUR SONG IS GOOD
DJ:HALFBY
GUEST ACT:平賀さち枝/DJみそしるとMCごはん/ENJOY MUSIC CLUB and Secret Guest!!!
開場/開演 17:00/18:00
前売り 3,500円(ドリンク代別)
前売入場特典:DVD「CASTLE BYERS SCREENING : Chapter One」
※前売購入者全員に入場時受付にてお渡し致します