エレクトロ・バブルの終焉を経て、ダンス・グルーヴを独自探究した『Tonight: Franz Ferdinand』へ
ジャスティス、デジタリズム、シミアン・モバイル・ディスコ――当時〈ニュー・エレクトロ御三家〉と呼ばれていた3組がいずれも初のフル・アルバムをリリースした2007年。ブームに一区切りが打たれるとともに、ニューウェイヴ再評価を受け継ぎつつ〈エレクトロの熱狂〉とは相関関係にあったニュー・レイヴもまた急速に沈静化していった。それから数年、ヴァンパイア・ウィークエンドやジーズ・ニュー・ピューリタンズら多文化的なサウンド志向を持ったバンドが、インディーの新たな〈顔〉となる。そんななか、もはや中堅バンドに差し掛かっていたフランツ・フェルディナンドがリリースしたのが、4年ぶりのサード・アルバム『Tonight: Franz Ferdinand』(2009年)であった。
バンドの代名詞でもあったソリッドで性急なギター・サウンドは抑え目に、彼らが同作で前景化させたのは、艶やかなミッドテンポのグルーヴ。それは、多くのアクトが潮目の変化とともに淘汰されていったNW/PPリヴァイヴァル勢の数少ないサヴァイバーとして、次の時代においても覇権にリーチし続けるための挑戦であった。実際に、同作は彼らの変化をいとわないクリエイティヴィティ―が隅々にまで行き渡った傑作になっている。つまり、ダンス・カルチャーとインディー・シーンとの距離が徐々に離れていったタイミングで、彼らはバンドとして〈ダンス・ミュージックの官能〉を探究したのだ。その飽くなき実験精神は『Tonight』のダブ・ミックス盤『Blood』としても結実している。
しかしながら、従来のサウンドを期待していたリスナーは『Tonight』を歓迎しなかった。ボルチモア・ブレイクスやフィジェット・ハウスを通過しながらEDMが萌芽しはじめていたダンス・シーンではもちろん、チルウェイヴやサイケの気怠いムードが蔓延し、シーンの中心地がUSに移行しつつあったインディー界隈においても、『Tonight』の居場所はなかったと言えよう。それは、リミックスにおいてもしかり。件のエロール・アルカンがビヨンド・ザ・ウィザード・スリーヴ名義でリエディットした“Ulysses”などは、バンドのやりたいことを的確に捉えていたと思うが、同作から時代を象徴するアンセムが誕生することはなかった。
以降、UKロックは〈不況〉と呼ばれて久しく、フランツがリリースした2作――4作目『Right Thoughts, Right Words, Right Action』(2013年)、スパークスとの『FFS』(2015年)もクォリティーは決して低くはなかったものの、何がしかの存在感を示せたとは言い難い。また、バンドがかねてから持っていたパフォーマティヴな魅力を拡張できた後者はともかく、オリジナル・アルバムとして4年ぶりのリリースであった前者が、ジョー・ゴダードやトッド・テリエらダンス・ミュージック界の俊才が参加しながらも、さほどフレッシュさを感じさせない作品になっていたことは惜しい。フランツ・フェルディナンドは、初期のヒット曲を期待される〈懐メロバンド〉になりつつあった。