現在を照らす太古の光

UNITING OF OPPOSITES Ancient Lights Tru Thoughts/BEAT(2018)

 ティム・リッケンことティム・デラックスは90年代後半に活動をはじめ、2002年の“It Just Won’t Do”のヒットで一躍UKハウスの注目株となったが、みずからのルーツに舞い戻るかのようにじわじわと芸域を拡げ、アルバムとしては4作目となる2014年の 『The Radicle』で生演奏を随所にフィーチャーした作風を獲得した、ラディクル(Radicle)とは穀粒のことである。表題どおり一曲一曲が粒立ちのよい滋養に富む作品であるとともに、黒人による文化および教育機関を兼ねる劇団ナショナル・ブラック・シアターの設立者であるバーバラ・アン・ティールがフォークウェイに吹き込んだ語りを引用した“JAS”で幕を開け、マイルスのあの“So What”のカヴァーをふくむアルバムで、前面に迫り出してくるのは冒頭のティールの語りにマイルスとコルトレーンとその妻であるアリスの名前が登場することからお察しのとおり、ジャズよりほかに神はなし、との確信だが、雑食的な食指の向かう先はただジャズのみにあらず、とりわけ後半の“Shanti”は南インド音楽の要素が強い、とはいえそれもまたコルトレーンのインドへの傾倒からの連想かもしれないが、それから4年、インド音楽へのかかわりがぬきさしならなくなってきたのは、ユナイティング・オブ・オポジッツなるバンドをたちあげたことからもおわかりいただけよう。メンバーはティムのほか、72年のファーストがヒッピー・カルチャー内でカルトな存在感を放ったマジック・カーペットのスコットランド人シタール奏者クレム・アルフォードと、近年活動をともにするベーシスト、ベン・ヘイズルトン、ここ数年活況を呈しているUKジャズ・シーンからはインドにルーツをもつクラリネット奏者アイドリス・ラーマン、ドラマーのエディ・ヒックの陣容で、シタールのラーガを基調と符牒にグルーヴものからスペーシーな楽曲まで、多様な展開をみせる一方で、90年代のクラブ・ジャズを髣髴させる音の組み立てに、UKエイジアン華やかなりしころの英国がフラッシュバックしてめまいに似た陶酔をおぼえるが、その光は現在にくっきりと彼らの影を落としている。