4月21日、東京は天候に恵まれ、日中の気温は20度を超える陽気に。慣れ親しんだ南口がなくなり、新しい南西口に違和感を覚えながら下北沢の駅に降り立つと、夏を先取りしたような陽光が街に降り注いでいる(半袖姿の人々が多く目に付いた)。

混み合う南口商店街から裏道の住宅街へと抜け、酒屋の地下にあるBasement Barへと降りていくと、外の陽気とはまるで無関係に夜のような雰囲気。午前11時の開場とともに、会場内にはアムリタ食堂が提供するグリーン・カレーの香りが漂う。食欲を刺激するその香りは、ステージ上からやってきている。ステージはオーディエンスに解放され、出演者たちはフロアで演奏するからだ。土曜日のお昼時のライヴ・ハウス、そしてフロア・ライヴという、いつもと違った時間と空間に、奇妙な違和感と不思議な親密さとが同時に感じられる。

 

Ms.Machine

〈Mikiki Pit Vol. 3〉のトップバッターは、Ms.Machine。SAI(ヴォーカル)、MAKO(ギター)、RISAKO(ベース)、YUSUKE(ドラムス)の4人組で、Yüksen Buyers Houseなどを兼任するYUSUKEは、この日を最後に脱退することが決まっていた。その分、バンドの佇まいからは、新しい一歩を踏み出そうとするような決意が感じられるようだ。

1曲目に演奏したのは“Break the current system”。インタヴューでも語られている通り、男性主義的な価値観や男性優位の社会に対するアンチを表明した曲だ。そして、 “Cool meat”(後半部、何と言っているのかは聞き取れなかったが、SAIは日本語の詞のようなものを歌っていた)、インストゥルメンタルの“3.11”、激しいブラストビートのなかで〈Do not appraise me!(私を評価するな!)〉と叫ぶ“Your little yardstick”を息つく間もなく叩きつける。

EP『S.L.D.R』には未収録の、MAKOのヘヴィーなギター・リフが牽引する新曲では、SAIが苛ついた口調で日本語詞をスピット。最後のパンキッシュな未発表曲も日本語詞で、同様にポエトリー・リーディングと歌の中間のようなパフォーマンスを聴かせる。約10分(!)の刹那的で濃密な演奏に、観客は呆気に取られるばかり。

ハードコア・パンクの性急さとブラック・メタルの暗さやヘヴィーさを同居させたサウンドはグランジ的で、彼女たちが敬愛するサヴェージズやパーフェクト・プッシーというよりも……まるで89年のニルヴァーナのようだった。ライヴを観ていたKONCOSの古川太一がいたく感動していたことは、ここに記しておきたい。

 

JABBA DA FOOTBALL CLUB

Ms.Machineのパフォーマンスの熱気が残るフロアに2番手として登場したのは、JABBA DA FOOTBALL CLUB。SEで「ロッキー3」の主題歌として知られるサバイバー“Eye Of The Tiger”が流れるなか、ステージ上に並んだNOLOV、ROVIN、ASHTRAY、BAOBAB MCの4人がフロアへと降り、ひとりひとり選手宣誓するように手を挙げ、順番に定位置に着いていく。そんなユーモア溢れる登場で掴みはOK!なムードのなか、“STAY GOLD,LIFE GOES ON”でスタート。会場は4人の一挙一動に釘づけとなる。

続く“BIG WHEEL”“BRAIN WASH DYSCOPIA”で4人は軽快なマイクリレーでオーディエンスを楽しませると、MCに。お昼時のイヴェントということで〈今日、家を出たの9時半よ。早い(笑)!〉〈でも楽しい!〉とそれぞれにコメント、〈360度取り囲めるというコンセプトだったけど、結局270度くらいだったね(笑)〉と笑わせつつ、〈どんどん(前に)来てほしいす!〉と、観客に呼びかける。

“HAPPY ICE-CREAM”、Tempalayの“革命前夜”をサンプリングした“月にタッチ”のメロウな2曲でゆったり踊らせ、〈みんなに囲まれていると俺らも楽しいね!〉と会場を目一杯使った圧巻のパフォーマンスでフロア・ライヴの楽しさを伝える。そして、残すは2曲だと宣言。観客とコール&レスポンスを交わし、“君の街まで”がスタート。

〈リリック書いてレコーディングして/円盤出して終わりじゃない/むしろそこから始まり/お客と向かい合い/言葉を直で伝えたい〉と歌い、BAOBABのヴァースでは〈大事な何かは現場で見つける〉の〈現場〉を〈Mikiki〉に変えてラップ。ライヴの場を大事にしている彼らの姿勢が伝わってくる。最後は3月にリリースしたEP『FUCKING GOOD MILK SHAKE』の序曲であるパーティー・チューン“MONKEYS”で締め。大合唱が起き、4人とオーディエンスが一体になって、ここ一番の盛り上がりのなか終了した。

 

Bullsxxt

三番手のBullsxxtは、〈ひとりひとり孤独に思考し判断しろ〉というラインが強い印象を残す“Sick Nation”で幕開け。そのまま“ES”へとなだれ込むが、アルバムとは異なるアレンジ。“Swing”では、タメの効いたビートに対応するように、UCDは言葉を途切れ途切れにラップする。絶妙なタイム感で打ち込まれる、菅澤捷太郎のヘッドをパンパンに張ったスネア・ドラムの力強い打音がフロアに響き渡っていたのが印象的。

立て続けに3曲を演奏した後、演奏はストップしてMCに。ラッパーのUCDが社会に蔓延る不正義を並べ立て、「僕らがやってるヒップホップって音楽は、〈世界や社会が終わってる〉というところから〈それでも踊るぜ〉って始まったんです」と語る。〈クソ〉な現実と対峙するためのパーティーの重要さを説くと、“Poetical Rights”へ。

〈喪〉の歌“傷と出来事”ではtommyのエモーショナルなギター・ソロがオーディエンスの感情を揺さぶる。ラストは華やかなダンス・チューンの“Stakes”。Pamが弾く、太くタフなスラップ・ベースに、Bullsxxtのリリース・パーティーでSolid Afroの須藤雄介が「あのセッティングはヤバい。ものすごい低音まで出るようになってる……」と語っていたのを思い出す。熱く、アクチュアルなメッセージとスキルフルなラップ、モダンなヒップホップ・ビートが同居した、圧巻のパフォーマンスだ。

 

KONCOS

この日の最終打者はKONCOS。古川太一(キーボード)が「リハーサルします!」と叫んで“The Starry Night”の一節を始めると、リハながらそれだけで観客は大盛り上がり。サウンド・チェックもそこそこに、なだれ込むようにそのままライヴがスタートする。

〈ヘイ! ヘイ!〉と観客を煽る“Citrus”や、ファンキーなカッティング・ギターとブリブリのシンセベースが映える“Parallel World”で場内をダンスフロアーに一変させると、古川は曲の途中で「ちょっと待ってくれ! 言いたいことがあるんだけど」と演奏を止めさせる。「Mikikiのインタヴューを読んでも伝わらなかったことが、今日のライヴを観ててすげー心に来たんですけど、WEBよりも現場ってことでいいですか? ウェブだけじゃ何にも伝わんねーよ! 現場に来い! お願いします!」と叫ぶと、続く“Morning Glow”“The Starry Night”へと繋いでいく。

はちゃめちゃだけど心を揺さぶるステージを続ける彼らだが、今度はステージ上のオーディエンスに対して古川が「ちょっとステージから下りてもらっていいですか?」と言うと、紺野清志(ドラムス)と共に楽器を持ってステージに上がり、フロアーに残った佐藤寛(ヴォーカル/ギター)とは観客を挟むような隊形をとる。このサプライズを観ていたお客さんは前を観て、後ろを観ての大忙し。そのまま古川と佐藤が何度も〈今年は僕らの年になるよ〉と語りかけると、ゾンビーズの名曲“This Will Be Our Year”のカヴァー“今日からスタート”を歌い上げ、約30分間のライヴはあっという間にフィニッシュする。