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ノイズには良いノイズと悪いノイズがある

――2006年からベルリンに行こうと思った理由を教えてください。

「ドイツに行こうと思ったのは、基本的に自分の音楽のためだったんですけど、当時好きだったアーティストやレーベルがけっこうベルリンにベースがある人が多かったというのがありますね。ちょうどそのときに、海外に住んでみたいなと思ってフランスとドイツ、イタリア、スイスの4か国を下見したんですよ。ドイツとスイスがしっくりきたんですけど、ビザの問題とかもあってドイツがいいかなと。そのときはベルリンがおもしろくて。物価も安くて、いろんなところからミュージシャンが移住してきているというのも聞いていたし、それもあってベルリンに行こうと」

――実際に住んでみて音楽を作る環境やムードとかは全然違いますか?

「違いますね。自分にとって大きかったのは向こうの家は石造りの家が多いじゃないですか。日本にいた頃は普通の一軒家に住んでいて、昼間になると子供の声が聴こえてきたりすると、自分の雰囲気に入っていきづらくなるんですよ。だから夜にヘッドフォンして、自分の世界に入り込むような感じで作っていて、曲作りは日本では結構苦労していたんですよ。でも向こうは石造りの家なので、まぁケースバイケースですけど、周りの音も静かだし、自分の音も多少は出せる。あと、外国に住んでいるという意味で、いろんなものが切り離されたうえで、自分のなかに入っていきやすいというものもあって。

また、ベルリンは星の数ほどアーティストがいて、イヴェントがたくさんあるし、それこそクラシックやオペラとかアートとか世界最高峰のモノがすぐそこにある。その歴史の長さと裾野の広さとそういうのがやっぱりいろんなところに垣間見えて。もちろん、エレクトロニック・ミュージック、テクノもそうです。そういう意味でインスピレーションを受ける機会も多いので、刺激を受けますよね」

――Fujitaさんのクラシックへの興味でいうと、例えばどういう作曲家でしょうか?

「ラヴェルですね。あと、けっこう古い聖歌。聖歌に関しては、ヒリヤード・アンサンブルとヤン・ガルバレクがコラボレーションしている『Officium』(94年)という作品の収録曲“Parce Mihi Domine”(クリストバル・デ・モラーレス作曲)を気に入っています。ハーモニーが美しくてとても惹きつけられます」

――ドイツではいろんんな音楽家とコラボレーションされてていますが、なかでもヤン・イェリネックとの作品が印象深いです。彼との出会いは?

「たしかAOKI takamasaくんだったと思うんですけど、彼のコンサートを観に行ったときに、ちょうどヤンも来ていたんですよね。ヤンのことはもちろん知っていて、好きだったので話しかけてみたんです。その後、僕のCDを送ったりして何回かコンタクトがあって、そのときは何かやろうという話ではなかったんです。でもその後、ヤンがベルリンで行われる彼のライヴで共演しないかと誘ってきてくれたんですよ。そのライヴは、〈ジャズのミュージシャン3人を引き連れて演奏してくれ〉っていう話だったらしいんですけど、なぜかジャズのミュージシャンじゃない僕に声をかけてくれて。結局そのライヴの話は流れて無くなったんですが、せっかくだからなんか一緒にやろうかっていうことで2週間くらい毎日スタジオに入って。その後、2人でエディットして、それで完成したのが最初のアルバムです」

――ヤンの音楽のどういうところがお好きなんですか?

「最初の頃に好きだったのは本人名義でリリースした『Loop-Finding-Jazz-Records』(2001年)という作品です。彼の作品はいつも音がすごく良いし、純粋な音のおもしろさを探っている。サンプルをいっぱい使って色々やっているんですけど、音選びのセンスがおもしろいところが素晴らしいですね。あとやっぱりポップセンスがあるなと。ポップセンスといったらちょっとアレなんですけど」

ヤン・イェリネックの2001年作『Loop-Finding-Jazz-Records』収録曲“Them, Their”

――一般的なポップスという意味とはちょっと違うけど、タッチというか。

「ノイズだけを指しても、良いノイズと悪いノイズがあると思うんですけど、彼はいつも良い音を出してきますね」

――そのほかに、〈良いノイズだな〉と思う人はいます?

「パンソニックはもうノイズ・ヒーローですね。あと、フランク・ブレットシュナイダーとか、あの人もすごくキャッチ―な音を出すなという感じがしますね」

※世界の電子音楽を牽引するラスター・ノートンの創設者の1人

フランク・ブレットシュナイダーの2013年作『Super.Trigger』収録曲“Machine.Gun”