LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...
[ 不定期連載 ]プリンスの1995~2010年

 創作やリリースの自由を求め、ワーナーに所属したまま94年に自主レーベル=NPGを設立したプリンス。それに伴う関係悪化を経てワーナー経由で『The Gold Experience』を発表したのが95年のことだ。以降はメジャー流通も独自配信も使い分けながら自由に活動を続けてきた彼だが、それゆえに分散したカタログは後年の入手が困難になってもいた。

 このたび始まった〈LOVE4EVER〉は、95年以降のオリジナル作品すべてをCDとLPで順次リイシューしていく復刻プロジェクト。プリンスといえばワーナー時代のシンボリックな作品をまず思い浮かべる人が多いのだろうが、思うままに美意識と独自性を磨き上げていったNPG時代の作品群もこの機会にぜひ聴いてみてほしい。

 

PRINCE 『Musicology』 NPG/Columbia/Legacy/ソニー(2004)

 コロムビアとの合意を受け、アリスタ発の『Rave Un2 The Joy Fantastic』(99年)以来およそ4年ぶりにメジャー流通されたアルバム。この前段階のプリンスはNPGでマイペースに作品を量産しつつ、ソウルクエリアンズやネプチューンズ、アウトキャストといったチルドレンがシーンの先端で活躍することによってその威信を輝かせてきた格好だが、ここでは久しぶりに地上に降りてきたような印象もある。2004年初頭のグラミー授賞式ではアウトキャストがPファンク軍団やEW&Fと共にファンク・トリビュートのステージを展開していたが、そうした伝統性への意識は本作におけるプリンスの眼差しと奇しくもシンクロすることとなった。

 ホーンズの面々や数曲でドラムを叩くジョン・ブラックウェル以外はほぼ独力の演奏ながら、全体のムードは楽しげで軽やか。オープニングの表題曲は“Sexy M.F.”を想起させるJB’s風のグルーヴで、曲中に大御所たちの名前を歌い込むあたりに伝統との繋がりを強く意識する姿勢の変化が感じられる。珠玉のスロウ“Call My Name”から〈9.11〉以降の世情をストーンズ風のロックに乗せて歌う“Cinnamon Girl”、自身の80sマナーを更新したような“Life ‘O’ The Party”、大統領を糾弾したスライ風の“Dear Mr. Man”、デビュー前の姿を懐かしむ“Reflection”まで曲調もテーマも多様で、そんなバランスの良さも特筆モノ。なお、本作に通じるグルーヴという点で、キャンディ・ダルファーやチャンス・ハワードら新旧NPGの面々をよく招いているブライアン・カルバートソンの諸作も一聴を。

左から、アウトキャストの2003年作『Speakerboxxx/The Love Below』(LaFace/Arista)、ブライアン・カルバートソンの2008年作『Bringing Back The Funk』(GRP)

 

 珍しくアルバムを出さなかった2005年には、Pファンク・オールスターズやスティーヴィー・ワンダーの作品に参加(いずれも録音時期はかなり遡れるはずだが)したほか、コロムビア経由でハリケーン被害者のためのチャリティー・シングル“S.S.T.”も出していたプリンス。そこから満を持して登場したアルバムは初めてユニバーサルと手を結んでのリリースとなった。全米3位に輝いて復権を印象づけた別掲の『Musicology』とはまた違う意味でのメジャー感に溢れたタイトな仕上がりで、結果的にはかの『Batman』(89年)以来となる全米No.1を記録するに至っている。

 ポイントとなるのは、80年代半ばの音を愛するマニア(?)の期待に応えるかのように、当時のスタイルを導入していることだろう。不穏なカミーユ歌唱で悶える冒頭の“3121”は『Crystal Ball』にでも入っていそうだし、シングル曲“Black Sweat”はファルセットもキレた硬質な密室ファンク。往年のB面曲のようなシンセ・ポップ“Lolita”や大ぶりな“Love”にある人懐っこい手癖も含め、往時のノリをモダンに仕立て直している。サンタナ気味なラテン・バラードの先行カット“Te Amo Corazon”、ディヴァンテ~ティンバ的な“Incense And Candles”、サザン・ソウル風の“Satisfied”などの持ち込む穏やかなテイストもそれらとは好対照で良い。なお、デュエット相手として主役を張る“Beautiful, Loved & Blessed”など数曲で声出しするのは、当時寵愛されていたテイマー。お蔵入りした彼女の『Milk & Honey』もいつか正規リイシューされますように。

左から、スティーヴィー・ワンダーの2005年作『A Time 2 Love』(Motown)、テイマー・デイヴィスの2011年作『My Name Is Tamar』(Syren Music Group)

 

PRINCE 『Planet Earth』 NPG/Columbia/Legacy/ソニー(2007)

 1月には前年の映画「ハッピーフィート」に提供した“The Song Of The Heart”がゴールデングローブ賞の最優秀主題歌賞を受賞し、2月には激しい雨が降る〈スーパーボウル〉のハーフタイムショウで伝説的なパフォーマンスを披露……と、年頭から正統なエンターテイメント界のスターらしい話題の続いた2007年。ふたたびコロムビアを経由してメジャー流通で7月にリリースされたのが本作だ。チャート上でも前作『3121』からの好調を引き継いで全米3位を記録する一方、英国ではMail On Sunday紙の付録として290万部を配布するという方法で世に出されたことで話題になった。ただ、そうした奇策は翌8月に控えるO2アリーナでの連続公演〈21 Nights In London〉のプロモートも兼ねていたようだ。

 それゆえのUK向けというわけでもあるまいが、アルバム全体のトーンは前作までの路線から変わり、ロッキッシュなポップ集となっている。以前からクイーン的な組曲に挑んできた殿下らしい重厚な表題曲で幕を開け、それに続くのはソリッドなリフでシンプルに攻める“Guitar”。それら2曲のリズム隊は元NPGのソニーTとマイケルBで、80年代的な軽さのある“The One U Wanna C”などではウェンディ&リサとの20年ぶりの録音まで実現した。小粋なジャズ・バラードの“Somewhere Here On Earth”では当時の新星クリスチャン・スコットにマイルス・デイヴィス役(?)を担わせるなど、演奏の布陣も曲調もさまざまだ。全体的に力を抜いた雰囲気もありつつ歌詞は環境問題や戦争について真摯に歌うもの。結果的にこれがプリンスにとって40代最後のアルバムとなった。

左から、2006年のサントラ『Happy Feet』(Atlantic)、クリスチャン・スコットの2006年作『Rewind That』(Concord)