クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに国内外で活躍中のジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に身を置きながら、近年はHR/HMをジャズ・カヴァーするプロジェクト、NHORHMとしての活動や、ファンであるBABYMETALの音楽的な魅力を鋭く考察して界隈で支持を得るなど、メタル愛好家としての信頼はグイグイ上昇中。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置からHR/HMを語り尽くす本連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉では文筆家としての才も大いに発揮し、多方面で活動の場を拡げています。

毎度高アクセスをいただいている本連載、最新回は西山氏がジャズ・ピアニストの自身が考えるプログレッシヴ・ロックの魅力を語っています。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


ヘヴィメタル楽曲をジャズ・ピアノ・トリオで演奏するNHORHMというプロジェクトを始めてから、〈プログレの曲もやって〉とよく声をかけて頂きます。

ジャズ・リスナーの中には、ヘヴィメタルは馴染みがないけれどプログレはよく聴いていた、あるいはいまも聴いているという方が結構多いですし、私のバンド・Parallaxは拍子の変化する曲が多かったので、プログレと親和性が高いんじゃないかなと思って頂けたのかもしれません。また、ソロ・ライヴで、イエスの名盤『こわれもの(Fragile)』(71年)からピックアップして演奏していたこともありました。

 

NHORHMの1枚目のアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』(2015年)は、このプロジェクトのオープニングにも関わらず、1曲目にプログレの名曲、U.K.の“In The Dead Of Night”を収録しています。

当時は〈ヘヴィメタルのカヴァー・アルバムなのに、なぜプログレの曲なの?〉と、多方面から訊かれました。が、実はこの曲、高校生の時にヘヴィメタルのギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンのカヴァー・ヴァージョンを先に聴いていて、しかも初めて行ったイングヴェイのコンサートで演奏していて超格好良い!と思い、大好きだった曲なんですよ。その後、本家のU.K.ヴァージョンを聴き、あまりの意味のわからなさに驚きました。イングヴェイは完全にヘヴィメタル・アレンジでプレイしていましたから、ドラムは何を叩いてるの?、ギターのこのフレージングって何なの?、わけがわからない……と。

 

大学の時に少し参加したバンドで、本家の“In The Dead Of Night”と、同じくU.K.の“Presto vivace And Reprise”をコピーして演奏したことがあり、おもしろかったので、ジャズで活動を始めてからもいつかこの曲をカヴァーしたいとずっと思っていたんですよ。一度Parallaxでカヴァーしようと思ってアレンジを始めたことがあったのですが、最終的にどうしていいかわからず、お蔵入り。

そういう経緯で、私にとって個人的に思い入れのある曲だったので、NHORHMをきっかけにアレンジしました。

意外と私と同じようにイングヴェイで聴いていた方も多く〈おっ、イングヴェイ繋がりですね!〉〈やっぱりマーク・ボールズだよね!〉と曲目を見て当てて下さった方も。

※イングヴェイver.のヴォーカリスト

 

プログレッシヴ・ロック、それはヘヴィメタルとはまた違う、エクストリームなロックです。

技巧的に複雑で、クラシックの要素やジャズの要素も絡みつつ、緻密で創造的。リスナーも、いろんな音楽に造詣の深い方が多い印象です。

ヘヴィメタルをクラシック化、あるいはジャズ化するよりは、演奏要素の多いプログレのクラシック化・ジャズ化されることのほうが多いかもしれません。特にクラシックとは親和性が高いと思います。

 

クラシック化の代表ともいえる、吉松隆編曲オーケストラ・ヴァージョンのEL&P(エマーソン、レイク&パーマー)“タルカス”は、滅茶苦茶格好良いです。原曲が非常に緻密で壮大なイメージを持って描かれていたことが、オーケストラで演奏することでよりはっきりわかりました。

吉松隆オーケストラが演奏するエマーソン、レイク&パーマー“タルカス”
 

また、モルゴーア・クァルテットという弦楽カルテットも必聴です。アレンジも素晴らしいのですが、演奏がダイナミックで、ロック・ファンが聴いていてもその熱量が気持ち良いです。

モルゴーア・クァルテットが演奏するピンク・フロイド“原子心母”

 

キング・クリムゾンの名曲〈21世紀の精神異常者〉はいろいろなヴァージョンがあると思いますが、ここで紹介したいのがジャズ方面からのカヴァー、クリムゾン・ジャズ・トリオ。

これは元キング・クリムゾンのドラマー、イアン・ウォレスを中心に組まれたトリオで、キング・クリムゾンの名曲をジャズでカヴァーしたアルバムを2枚リリースしています。現在入手が難しくなっていて再販が待たれるところですが、2作目は配信でも聴けます。

クリムゾン・ジャズ・トリオの2009年作『King Crimson Songbook Vol. 2』
 

イタリアのプログレ・バンド、アレアのベーシストのアレス・タヴォラッツィは、ジャズ・ベーシストとしても大変有名で、ステファノ・ボラーニ(ピアノ)やアレッサンドロ・ガラティ(ピアノ)など、日本でも人気の叙情的なジャズ・ピアニストとも沢山共演があります。

ステファノ・ボラーニとアレス・タヴォラッツィ、ウォルター・パオリでのトリオ作『Volare』(2002年)
 

それから、ラッシュのドラマーであるニール・パートはジャズ・ドラムのレジェンド、バディ・リッチのメモリアル・コンサートで、ジャズ・ビッグ・バンドでプレイしています。曲はスタンダード曲の“Cotton Tail”ですが、圧倒的ニール・パート。何というか、最高です。

バディ・リッチのメモリアル・コンサートでのニール・パートによる“Cotton Tail”の演奏

 

最初の話に戻りますが、〈プログレの曲もやって〉と声をかけて頂く時に、〈“In The Dead Of Night”はイングヴェイ文脈で演奏しているけど、他はたぶんやることはないと思います〉と返答しています。

そもそも、プログレとジャズは、演奏に対する考え方がだいぶ違うと思うんですよ。

サウンドは似ているかもしれないし、ハーモニーやリズムが複雑でジャズっぽく聴こえるものもあり、インストゥルメンタルで複雑でどんどん景色が変わっていくという面では、ジャズと非常に親和性が高く聴こえると思います。

 

しかし、根本的に違うのが、
〈ジャズは1の要素を100にして演奏、プログレは100の要素を100以上で演奏する〉ということです。

プログレは一曲の持つ要素の数が多すぎて、しかも、そのどの要素も無視できないんですよね。数多いパーツをバキバキ弾いて乗り越えていく、超難度の障害物レース感。それがプログレのおもしろさだと思っているんです。

 

私は、あくまでもジャズがしたくて、自由に演奏できるスペースが欲しい。

そうすると、パーツを一つ抜いたら曲のキャラクターが薄まってしまう可能性のあるプログレは、ジャズとして換骨奪胎するには要素が多すぎて、ジャズ・アンサンブルの隙がなくなってしまうんですね。私自身がプログレも好きだから、あまりパーツを抜きたくないところもあるんです。

それを考えるとですね、ヘヴィメタルって要素は少ないので、ジャズとしてスペースを作る余地があるんです。

前の例で例えると、メタルは50の要素を1万の気合いと美意識で、馬鹿でかい声でめちゃ速く(且つ、内心は超丁寧に)演奏する感じでしょうか……。

 

次回は、1万の気合いと美意識で、馬鹿でかい声でめちゃ速く弾くイングヴェイ・マルムスティーンの新譜について書こうと思います。

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。

2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

NHORHMの最新作『New Heritage Of Real Heavy Metal III』は好評発売中!
★最新作について西山とデーモン閣下が対談した記事はこちら

NHORHM New Heritage Of Real Heavy Metal III APOLLO SOUNDS(2018)

 


NHORHM、ニュー・アルバム『New Heritage of Real Heavy Metal extra edition』をリリース!

「西山瞳によるヘヴィメタル・カヴァー・プロジェクト、NHORHM。
ジャズ界~メタル界を震撼させたアルバム3部作をもって完結.....!!
のはずが、シナリオには続きがあった.....!
これまで発表されたアルバムに惜しまれつつも収録されなかった、第1期NHORHMによる
秘蔵音源に西山瞳によるオリジナル曲1曲をプラスした〈裏作品集〉リリース!!」

NHORHM『New Heritage of Real Heavy Metal extra edition』
2019年4月24日(水)リリース
●収録楽曲(タイトル/オリジナル・アーティスト)
1. Galaxies / Stratovarius
2. South of Heaven / Slayer
3. Highway Star / Deep Purple
4. Enter Sandman / Metallica
5. Don't Let It End / Yngwie Malmsteen
6. P.C.P. / 西山瞳
7. The Seventh Sign / Yngwie Malmsteen
全7曲 収録39分

 


Live Information

3月21日(木・祝、昼帯)兵庫・伊丹 STAGE(072‐777‐3818)
出演:"HIRAKATA TRIO" 西山瞳(ピアノ)、鈴木孝紀(クラリネット)、光岡尚紀(ベース)
開場:12:30/演奏は13:00~15:30で2set
チケット:3,000円/学生1,500円

3月24日(日)東京・小岩 Cochi(03-3671-1288)
西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター) デュオ
演奏:20:00-2set
ミュージック・チャージ:2,800円

3月29日(金)神奈川・横浜 上町63(045-662-7322)
西山瞳(ピアノ)、吉野弘志(ベース)、大村亘(ドラムス)
演奏:20:00-2set
ミュージック・チャージ:3,000円/学生2,500円(1Drink付)

4月3日(水)東京・大泉学園 in F(03-3925-6967)
西山瞳ソロ
演奏:20:00-2set
ミュージック・チャージ:2,500円

4月6日(土、昼)埼玉・蕨 Our Delight(048-446-6680)
西山瞳(ピアノ)、佐藤浩一(ピアノ) ピアノ・デュオ
開場/開演:12:30/13:00
ミュージック・チャージ:一般3,000円(税込)/学生1,000円/29歳以下社会人2,500円

『New Heritage of Real Heavy Metal extra edition』リリース記念ライヴ
日時:2019年4月23日(火)東京・新宿ピットイン
開場:19:30 開演:20:00
予約:3,000円+税 当日:3,500円+税
出演:NHORHM(西山瞳(ピアノ)、織原良次(フレットレスベース)、橋本学(ドラムス)
スペシャル・ゲスト:SAKI(from Mary’s Blood)
新宿ピットイン住所:東京都新宿区新宿2丁目12−4 アコードビルB1
MAIL予約:shinjuku@pit-inn.com
電話予約:03-3354-2024
予約開始:2019年3月3日AM11:00より

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