アメリカ、ポートランドの作曲家/シンガー・ソングライター、ピーター・ブロデリックが4月23日(火)にBillboard Live TOKYOで一夜限りの来日公演を行う。彼がBillboard Liveでライヴをするのは初だ。
ピーター・ブロデリックは87年、アメリカのオレゴン州、ポートランドで生まれた。彼はいわゆる〈ポスト・クラシカル〉と呼ばれるジャンルに括られる音楽家だが、音楽家としてのイメージは〈クラシックの作曲家〉からはほど遠い(それは〈ポートランドのお兄さん〉といった感じのアーティスト写真を見ていただいてもわかるはず)。ポスト・クラシカル、実験音楽、アンビエント、エレクトロニカ、フォーク・ミュージック、インディー・ロック……作品やプロジェクトごとにジャンルの区分けを悠々と跨ぎ越す越境的なブロデリックの才能は、まさに〈異才〉と言っていいだろう。
その証拠に、八木皓平による人気連載〈Next For Classic〉での2016年のインタヴューにもあるように、彼は7歳の頃からヴァイオリンを演奏しながらも、同時にニルヴァーナやウィーザーといったヘヴィーなオルタナティヴ・ロックを愛聴していた。その、音楽的なアイデンティティーがどこか引き裂かれている感覚は、ブロデリックの作家性の重要な部分をなしている。
ブロデリックは主にポスト・クラシカルの世界に身を置いているが、その音楽はシンガー・ソングライター的だ。彼がエリオット・スミスから強い影響を受けているのは先のインタヴューでも語られているが、例えば2008年に英ベラ・ユニオンからリリースした『Home』はアコースティック・ギターの弾き語りと自身のヴォーカルの多重録音が中心で、その影響がにじむアルバムとなっている。『Home』のホーム・レコーディング的な空気感や空間的な鳴りと響き、フォーキーだがアンビエントなテクスチャーは、同時代のボン・イヴェールやフリート・フォクシーズのそれにも近い。
一方で2007年のデビュー・アルバム『Docile』はソロ・ピアノ、2014年のガブリエル・サロマンとの共作『Peter Broderick + Gabriel Saloman』はノイジーでエクスペリメンタルな電子音響、2015年の『Colours Of The Night』はバンド演奏が主体のフォーク・ロック……とその振れ幅は相当に大きい。作品数も膨大で、彼の音楽家としての全体像を捉えるのは困難だ。
近作について言えば、イレースト・テープスから2016年に発表した『Partners』ではジョン・ケージが50年代に考案した〈チャンス・オペレーション〉(偶然性を用いた音楽の手法)を採用し、朗読する詩の制作や作曲に用いている。2017年作『All Together Again』(こちらもイレースト・テープスから)は映画、ダンス、演劇、ファッション・ショー、結婚式、結婚記念日のプレゼント(!)、インスタレーション・アートなどなど、さまざまな場面に提供された、多岐にわたる彼のクライアント・ワークのコンピレーション。さらに2018年の『Peter Broderick & Friends Play Arthur Russell』では、題名のとおりアーサー・ラッセルの楽曲をオーセンティックなフォーク・ロック・アレンジでカヴァー。
……と、彼のディスコグラフィーや作品性、作家性をざっと並べ立ててみたが、先に書いたようにその全体像は掴み切れない。
エフタークラングのメンバーとしての来日、ニルス・フラームとのジョイント・ツアー、ブリジッド・メイ・パワーが帯同した2016年のツアーとこれまで何度か来日公演をしているブロデリック。今回はピアノが中心の新作EP『Two Baloons』(2018年)を演奏するのか、アーサー・ラッセルのカヴァーをするのか、はたまたまったく違うことをやるのか、ライヴの内容は想像もつかないが(おそらくピアノ演奏のコンサートだと予想)、今回こそは謎めいた音楽家の素顔に迫れるかも?という期待をしながらぜひ一夜限りのプレミアム・ショーに足を運んでほしい。
LIVE INFORMATION
ピーター・ブロデリック
2019年4月23日(火)Billboard Live TOKYO
1stステージ 開場17:30/開演18:30
2ndステージ 開場20:30/開演21:30
サービスエリア 6,500円/カジュアルエリア 5,500円
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