聴いた誰もがヘンテコだと思う新作『Groove Denied』の愛すべき魅力

――では、いよいよ新作の話に入りましょう。非常にユニークな作品ですが、みなさんの感想は?

福富「〈マタドールがリリースを渋った〉という前情報と、最初に公開された“Viktor Borgia”を聴いて、僕もついにマルクマスがわからんくなるときがきたか……と思ったんですよ」

一同「(笑)」

福富「でも、そのあとに公開されたスーパーオーガニズム(のロバート・ストレンジ)が監督したアニメのMV“Rushing The Acid Frat”を観て、あー良かったと安心しました。結果的に、アルバムとしてもそこまで、(悪い意味で)ヤバすぎはしないものになってましたよね」

須藤「アルバムを聴いていくと、〈あれ、別にこれ打ち込みでもなんでもなくね?〉って(笑)。普通にバンドっぽいし、ジックスと同じじゃない?ってなるんだよね。最初の2、3曲目まではエレクトロニックなんだけど」

――後半になってくると、いつものジックスっぽいフォーキーな曲とかも入ってるんですよね。

橋本「そうそう。もし収録曲を作った順に並べたんだとしたら、すごく可愛いなって思った」

福富「途中で挫折したんやなって(笑)。だから安心して聴けたというか。ファンとしてはお得に感じましたね。1年間に2枚もマルクマスのアルバムを聴けるなんて、これまでなかったからラッキーだなって」

――畳野さんはどうでした?

畳野「私も最初はヘンテコだなと思いました。でも4曲目くらいからは、私の知っているマルクマスだなって」

福富「4曲目の“Come Get Me”、すごく良いよね」

畳野「あとは、そうっすね……(苦笑)。挑戦的なアルバムを作ったんだなって。最近のマルクマスはアーティスト写真もヤバいですよね。いったいなにを考えてるんやろう」

スティーヴン・マルクマスの最新アーティスト写真
 

福富「今回マルクマスは、ヒューマン・リーグやピート・シェリーといったニューウェイヴ系の音楽を参照したそうですよね。僕もその辺りは高校のときに聴いていたけど、別にそれをマルクマスには求めていなくて(笑)」

――2010年前後にシンセ・ウェイヴ、ミニマル・ウェイヴと呼ばれた音楽が流行った時期もありましたよね。ただ、それもだいぶ前の話でぜんぜんタイムリーなわけでもない。

橋本「でも、〈いまこれ?〉って部分を含めて、すごく自由に音楽を作ってるというか。そういう変わらないスタンスも含めて、良いアルバムなのかなって思います」

――たしかに、初期ペイヴメントの音源集『Westing (By Musket And Sextant) 』(93年)のフリーダムなノリを想起させるところもありますよね。

須藤「すごく正しいなと思うのは、ジョニー・ロットンやイギー・ポップは、ひとつのバンドを終えたあとに、一回みんなが〈え?〉っとなるものを作っているんですよね。(デヴィッド・)ボウイやルー・リードにもそういう作品あるじゃないですか。でも、あとから振り返ると実は間違えてなくて。〈今回はあっちに行ってみよう、違った畑にも行ってみよう、だって何が起こるかわからないし〉という態度は、アーティストとしてすっごく真っ当ですよね」

――実際、『Groove Denied』のアルバム資料ではボウイの『Low』(77年)と比較されていたり、ピッチフォークのレヴューでは、ポール・マッカートニーの『McCartney II』(80年)が引き合いに出されています。

須藤「まさにそれだよね。ここにいる全員、別にバンドを終えてないけれど、俺も髭というバンドのひとつのタームを12年やってきて、マルクマスのこういう気持ちがわかるんです。自分のテクスチャーに飽きちゃうってのもよくわかるし、これやってなかったなってところに飛び込んでみる、そうやって創作意欲を発奮させるのは自然というか。〈みんなは俺のことをこう思ってるだろうけど、それは違うよ〉って言いたくなるんですよ。俺はこのアルバム、めちゃくちゃ好きですね。聴けば聴くほど良さがわかってくる作品だと思う」

福富「ソロをはじめて20年近く経ったうえで、ここに行くっていうのに驚愕しますよね。自分のお父さんと同世代の人が、これをやっていると思うとやっぱり凄い」

――いやー、思い入れがよく伝わる座談会でした。最後に、みなさんを惹きつけてやまない〈マルクマスらしさ〉とは何だと思いますか?

福富「僕はやっぱりメロディーかな。ギターもそうだけど、こんなに自分のメロディーがはっきりあって、それがずっと変わってないのはすごい。ペイヴメント時代も合わせると15枚近くアルバムを出しているけれど、金太郎飴というのは違う意味で、メロディーだけはずっと変わらずにいる。そこはやっぱり特別だし、メロディー・メイカーとしての才能がいちばんにあるなって気がしますね」

畳野「あと、声がやっぱり特徴的だと思う。こんな声はこの人しかいないし。もちろんメロディー・メイカーってのはあるけれど、メロディーを歌ってんのかわかんない瞬間でさえもすごくマルクマスだし、やっぱりパッと聴いて印象に残るのは声なんじゃないかな」

――橋本さんはどうでしょう?

橋本「僕にもそういう部分があるんですけど、いろんなことに挑戦してみるものの、実はそこまで器用じゃない人なのかなと。だからこそ、何かしらの物真似にならないというか。勝手にマルクマスらしさが滲んじゃうんだろうなって気がします」

――『Groove Denied』に至っては、テクノに影響されてAbletonを導入してもこれですからね(笑)

須藤「新作の1曲目“Belziger Faceplant”を聴いたとき、スティーヴン・マルクマスのアルバムがはじまったと思ったもんな。マルクマスの不協和音感っていつも一緒で。〈タタタ・タタタ・タタタ・タタタ〉ってシンセから、〈ありがとうございます〉と一礼しちゃうみたいな(笑)。サウンドが変わっても、やっぱりアーティストとして軸があるから、本質的なところはブレないんだろうなって」

 


Information

2019年4月5日(金)東京・幡ヶ谷RE:BIRTH STUDIO
斉藤祐樹DJ 〈中川和寿 画業20周年 絵画展TOUR DRAWING JOURNEY 1999-2019〉OPENING PARTY
2019年4月13日(土)東京・下北沢SHELTER
〈髭 “SWEET SIXTEEN” presents 16人いる!〉
共演:THE LITTLE BLACK
2019年4月20日(土)東京・下北沢SHELTER
〈髭 “SWEET SIXTEEN” presents 16人いる!〉※ソールド・アウト
共演:Tempalay
2019年
5月19日(日)東京・渋谷WWWX
〈再現 [Thank You, Beatles & I Love Rock n’ Roll編] 〉
2019年5月24日(金)茨城:水戸LIGHT HOUSE
〈47都道府県ツアー “IVVII Funky Tour” 茨城公演〉
共演:BRADIO
2019年6月2日(日)宮城・仙台LIVE HOUSE enn 2nd
〈再現 [Thank You, Beatles & I Love Rock n’ Roll編] 〉
2019年6月7日(金)京都・磔磔
〈再現 [Thank You, Beatles & I Love Rock n’ Roll編] 〉
2019年6月9日(日)宮城・仙台THE HA’PENNY BRIDGE
須藤寿〈Rock, Talk, Smoke…. Drunk? Tour 2019〉
2019年6月21日(金)大阪・心斎橋BIGCAT
〈Versus!Versus!Versus!〉
共演:ザ50回転ズ

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Homecomings

2019年4月17日(水)、映画「愛がなんだ」主題歌“Cakes”を収録したシングルをリリース!

Homecomings Cakes felicity(2019)

2019年4月2日(火)~4月6日(土)
〈Homecomings & NIGHT FLOWERS UK TOUR APRIL 2019〉
2019年4月20日(土)東京キネマ倶楽部
〈Homecomings「SLOW SUMMITS」〉
※Homecomings × Homecomings Chamber Setでの出演
2019年4月26日(金)大阪 umeda TRAD
〈Homecomings「SLOW SUMMITS」〉
※Homecomings × Homecomings Chamber Setでの出演
2019年5月12日(日) 千葉県横芝光町屋形海岸
〈GROOVETUBE FES 2019〉
2019年8月16日(金)~17日(土)北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
〈RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO〉
★各公演の詳細はこちら

 

Helsinki Lambda Club

ヘルシンキラムダクラブ結成6周年記念イヴェント〈Everybody Wants Help!!〉
2019年6月28日(金)東京・代官山UNIT
2019年7月13日(土)心斎橋Music Club JANUS

2019年4月13日(土)栃木 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya 2/3(VJ-4)
〈haruberrylive2019〉
共演:TENDOUJI/ステレオガール/超能力戦士ドリアン
2019年5月4日(土)東京・下北沢GARAGE
〈Coughs Release Tour"STILL DREAMING TOUR in TOKYO"〉
共演:Coughs/No Buses
2019年5月6日(月・祝) 千葉・稲毛K’S DREAM
〈Helsinki Lambda Club『Tourist』release tour “街” (振替公演)〉
共演:uri gagarn
2019年5月25日(土)東京・下北沢のライヴハウス各所
〈Shimokitazawa SOUND CRUISING 2019〉
2019年6月2日(日)石川県産業展示館1~4号館
〈百万石音楽祭2019〜ミリオンロックフェスティバル〜〉
2019年6月15日(土)東京・渋谷のライヴハウス各所
〈YATSUI FESTIVAL! 2019〉