遂に全作品が日本語で読める! 生誕70周年の記念イヤー最大のプレゼント! 訳はすべて、詩人・谷川俊太郎

 おとなしくて不器用なチャーリー・ブラウンと、空想癖がありスポーツ万能の飼い犬スヌーピー、気難しくて口うるさいルーシー、彼女の弟で毛布を片時も手放さないライナス、トイ・ピアノの演奏が得意でベートーベンを崇拝するシュローダーなど、漫画家チャールズ・M・シュルツが生み出した登場人物たちは、わたしたちにとってすっかりおなじみだ。原作の4コマ漫画を読んだことがある人はもちろん、アニメやキャラクター商品などをとおしてよく知っているという人も多いだろう。

 合衆国の新聞7紙で、コミック「ピーナッツ」の連載が始まった日から70年になるのを記念して、2000年のシュルツの引退まで続いた合計17,000以上にものぼる全作品を年代順に網羅した全集の日本語版が刊行される。初期の作品にのみ登場して消えてしまうキャラクターを発見したり、おなじみのキャラクターたちが少しずつ増えていくのを楽しんだり、初期のチャーリー・ブラウンの異なる風貌に驚愕したり、半世紀にわたる作品の歴史を楽しむことができるのも全集ならではの魅力だ。

 シュルツの作画は、40年代から50年代にかけて雑誌『サタデー・イヴニング・ポスト』の表紙を飾った、画家ノーマン・ロックウェルによるアメリカ人の日常や家族生活をテーマにした一連のイラストレーションと時代性や文脈を共有する一方、その理想主義やセンチメンタリズムとは一線を画し、哲学的なセリフや複雑な心理描写、独特なユーモアと棘を含む。世界を子どもたちや動物の視点からとらえる眼ざし、あるいは漫画家自身が手書きすることに最後までこだわった個性的なゆるい描線が、表面上の陽気さに隠れる人間の感情の機微——誰もが経験していながらあえて直視しないことにより精神的安定を保っている不安や弱さを表現するのに効果を発揮している。

 連載がもっとも好調だった60年代には、米国航空宇宙局(NASA)とのコラボーレーションがはじまり、シュルツのキャラクターたちは虚構の世界から飛びだして、コミック内の出来事と現実の境界が次第に溶けていく。スヌーピーとチャールズ・ブラウンがアポロ10号のマスコット・キャラクターに選ばれ、スヌーピーが「初めて月に着陸したビーグル犬」として宇宙飛行士姿で漫画に登場した約4か月後の69年7月20日、アポロ11号が人類初の月面着陸に成功する。

 また、世界各地で若者による政治的アクションが盛んに行なわれた68年以降、「ピーナッツ」にも、ベトナム戦争とそれに反対する者たちの抗議活動を念頭においたエピソードがあらわれるようになる。意外に思われるかもしれないが、戦争はシリーズ全体をとおして通低音のように一貫して鳴り響いているテーマであり、これにはシュルツ自身が第二次世界大戦の従軍者であることの影響が大きい。第一次大戦時のイギリス空軍の戦闘機操縦士になることを夢みているスヌーピーの白昼夢というかたちで、戦争の話題はたびたび出てくる。赤いスカーフにゴーグル姿でパイロットに扮したスヌーピーが犬小屋にまたがるイメージはよく知られているほか、史上最大の作戦とされるノルマンディー上陸作戦の記念日にあわせた作品では、瓦礫の浮かぶ海をヘルメット姿のスヌーピーが泳ぐ様子が描かれる。

 最盛期には2600もの新聞に掲載され、20を超える言語に翻訳されて70カ国以上の読者に愛されていた「ピーナッツ」。今回の日本語版全集の翻訳は、67年にその初の単行本が日本で出版されたときの訳者であり、心に残る数々の名セリフを手がけた詩人の谷川俊太郎さんが担当する。この全集のために未訳分が新たに翻訳されたほか、既訳も全面的に改訂されるという。また、訳文をコマの外に配置して、オリジナルの手書きのセリフもあわせて楽しめるように工夫されており、コミック版「ピーナッツ」に初めて触れる読者も、筋金入りのファンも満足できる仕様になっている。

 


刊行スケジュール

[第1期 黄金時代編]全10巻 第11~20巻(1971~1990年)2019年10月~2020年2月予定
[第2期 ヴィンテージ編]全10巻 第1~10巻(1950~1970年)2020年4月~2020年8月予定
[第3期 完結編]全5巻 第21~25巻(1991~2000年)2020年9月~2020年11月完結予定
*巻数と刊行順は異なります。