前向きで創造力あふれるポップな絵本。詩人の日本語訳は軽やかな調べ。

 べルギーで出版された絵本のフランス語原題は「le TRAIT et le POINT」。谷川俊太郎さん翻訳の日本語タイトルは「せんとてん」。シンプルに韻を踏む。

 物語は〈せん〉と〈てん〉が出会うところからはじまる。ふたりは意気投合し、あそびはじめ、シーソーになりバンジョーになり、それから……。ページをめくるごとに次々と展開する場面はポジティヴでクリエイティヴだ。

ヴェロニク・コーシー&ローラン・シモン,谷川俊太郎 『せんとてん』 かんき出版(2020)

 原作者は、1969年ノルマンディー生まれのヴェロニク・コーシー。貿易会社に勤務していたが、出産育児を経て、児童文学に目覚め、絵本作家に転身した。

  イラストレーターは、ローラン・シモン。2001年リヨンの美術学校卒業後、広告やポスターの仕事から絵本の世界へ。今回の作品の中のブルーバックに黒と白のレイアウトは、ちょっとソール・バスを彷彿させる。ムービーのような躍動感も魅力的だ。

 世界11カ国で翻訳されているというこの絵本は、児童教育の現場で人気教材として注目されている。創造力をかきたて、多様性の素晴らしさを教えてくれる絵本として先生と子どもたちの心をつかんでいるらしい。

 かんき出版の担当編集者は、フランクフルトの見本市でこの絵本に出逢い、一目惚れしてしまった。〈レオ・レオーニの系譜にも通じる世界観。谷川俊太郎さんにぜひとも翻訳をお願いできたら……〉。実は絵本の編集は初挑戦。意を決して依頼して、夢が叶った! 俊太郎さんは〈せん〉と〈てん〉という抽象的な概念が人間的なものに置き換えられているところに、面白さを感じたという。

 翻訳は英訳を介して日本語に。擬態語は日本語の〈調べ〉を生かし軽やかでリズミカルな言葉に。詩人曰く〈オノマトペや擬態語は、子どもには入っていきやすいんです〉。なるほど大人もおんなじだ。〈せんとてん〉を音読すると言葉の調べが心地よく響く。

 物語はカラフルなエンディング。気になる続編。今の世の中は、ブルーな頁に逆行してしまっている感もあるけれど、しばし声に出して絵本を読むひとときを。心にあかりがポッとともることまちがいなし。

 


EXHIBITION INFORMATION

谷川俊太郎 展
期間:開催中~2020年9月6日(日)
会場:熊本市現代美術館
音楽:小山田圭吾(コーネリアス)
映像:中村勇吾(tha ltd.)
会場グラフィック:大島依提亜
会場構成:五十嵐瑠衣
www.camk.jp/