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【西山瞳の鋼鉄のジャズ女】第20回 神聖なクリスマス曲の悪魔的メタル・カヴァー! そのアレンジの妙を音楽的に考察

メタラーのジャズ・ピアニスト、HR/HMの魅力を綴る

クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに国内外で活躍中のジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に身を置きながら、HR/HMをジャズ・カヴァーするプロジェクト・NHORHMでは現在までに4枚のアルバムをリリースするなど、メタル愛好家としても知られており、〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉は、そんな西山さんに〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉の視点からHR/HMのおもしろさを綴っていただく連載です。めでたく第20回を迎えた〈鋼鉄のジャズ女〉は、Mikiki屈指の人気連載として毎回ご好評いただいています。

いつも以上に大反響をいただいた前回に続き、たまには季節モノをと、今回はひと足早くクリスマスを取り上げます……〈鋼鉄のジャズ女〉的に。ロブ・ハルフォードが10月にリリースしたクリスマス・アルバム『Celestial』を聴いた西山さんが、メタル・カヴァーされたクリスマス・ソングのアレンジの妙について音楽的に解説してくれました。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


ハロウィンが終われば、あっという間に世の中はクリスマス準備。
今回は、〈メタルとクリスマス・ソング〉をテーマにお送りします。

クリスマス・アルバムといえば、やはり圧倒的にジャズが多いでしょう。
ヴォーカル、ピアノ・トリオ、管楽器など、いろんな編成でクリスマス曲特集のアルバムが出ています。
私がピアノ作の中でも好きなものは、ボビー・ティモンズの『Holiday Soul』(64年)、オスカー・ピーターソンの『An Oscar Peterson Christmas』(95年)。両方ど定番ではありますが、最高にハッピーでご機嫌なクリスマス・ソング集です。また、普段あまりジャズを聴かない人も、お家でBGMにダイアナ・クラールのアルバム『Christmas Songs』(2005年)を流すと、とても良い時間を過ごせると思いますよ。

ヘヴィメタルは、クリスマスとはあまり縁がなさそうですが、意外と沢山あるんですよね、クリスマス・ソング集。
先月には、ジューダス・プリーストのヴォーカリストで、〈メタル・ゴッド〉と呼ばれるロブ・ハルフォードのクリスマス・アルバム『Celestial』がリリースされました。

ジャケットがイカしてます。

ROB HALFORD WITH FAMILY & FRIENDS Celestial Legacy Recordings/Sony Music Japan International(SMJI)(2019)

聴いてみると、意外とかなり真面目なクリスマス・ソング集で、曲によってはメタル成分が薄いものも。“The First Noel(牧人ひつじを)”なんて、いつブチ切れてくれるんだろうと待っていたら、厳かなまま終わってしまった! これはこれでおもしろくて、楽しく聴いています。
このアルバムで、一番の聴きどころは“Deck The Halls(ひいらぎ飾ろう)”だと思います。

これは、NHORHM(私のヘヴィメタル楽曲をピアノ・トリオで演奏するプロジェクト)をやっている身からすると、「美味しい!」、「よくできている!」と思う秀逸なアレンジで、メタル・アレンジのキモが超良い感じに押さえられていて、繰り返し聴いています。美しい賛美歌を、極悪なメタル・サウンドに変える。文字で書いちゃうと、神をも恐れぬ所業のようですね。

ギターのリフやギター・ソロ、歪んだ音色、爆音によってメタルに生まれ変わって聴こえるのですが、この“ひいらぎ飾ろう”は、賛美歌本来のメジャー・キー(長調)と、メタルらしいマイナー・キー(短調)が非常にうまく混在したアレンジになっていて、これがとってもおもしろい。

NHORHMではピアノ・トリオ編成なので、ギターも歪んだ音色も爆音も使えないですから、アレンジにおいてメジャー・キーとマイナー・キーの扱い、その二つをいかにバランス良く配置し聴かせるか、常に気を配っています。
ヘヴィメタルの楽曲は、その大半がマイナー・キー。意識してアレンジしないと、全部マイナー・キーで単調になってしまうんですよ。

クリスマス・ソングは、メジャー・キーの曲が圧倒的に多いです。それは、賛美歌やクリスマス・キャロルなど、当然ですがキリスト教と結びついているから。

そもそも、メジャー・キー(長調=明るい)とマイナー・キー(短調=暗い)という西洋音楽の大前提はキリスト教文化圏で生まれたもので、長調はキリスト教世界の三位一体の〈調和〉を表し、神、絶対的安定、救い、安心を感じさせる、自然倍音の黄金比で出来ているものです。
それに対する短調は、同じ主音を持ちながら対極にあるもの――非調和、死、不安、悪魔などを感じさせる表現として、機能していました。神と悪魔という二元的な考えがなければ、このような長調、短調という表現は生まれなかったとも言われます。
実際、世界各地のローカルな音律に、明確に長調と短調に分けられるシステムを持つものは無いと思います。

メタルは圧倒的にマイナー・キー(短調=暗い)が多い理由は、そういうことなんです。悪魔、死、不安を表現しようとすると、マイナー・キーになってしまうんですね。〈DEATH〉とか〈KILL〉とか歌っているのにメジャー・キーだったら、おかしいですよね。ニコニコしながら「You Shall Die Before I Die !」(連載第15回の記事参照)とか言われたら、マジで怖いですが。

ですので、NHORHMでジャズ・アレンジする際は、曲に対してオセロの盤面のような図をイメージするのですが、全部白(メジャー)でも全部黒(マイナー)だとおもしろくないので、適度に混ぜるようにイメージしています。全部黒より、白に囲まれた中で黒が1つあると、目立つでしょう? スパイスとして反対の色を置く、もしくは置かない、と、バランスを見て選択していく作業をします。

 

ロブ・ハルフォードの“ひいらぎ飾ろう”に戻りますが、この曲の原曲はどこからどう聴いてもメジャー・キーです。

例として、ジャズ・ヴァージョンを。

ナット・キング・コールのヴァージョン
 

少しブルージーなジャズ・ヴァージョン。

ボビー・ティモンズのヴァ―ジョン
 

ハルフォードはDメジャーのキーで歌っていますが、ハルフォードの歌の部分はすべて原曲通りのメジャー・キーなのに、最初のリフや「Fa la la la la la - la la la la」の部分はブルース・スケール(♭3、♭5など、マイナー・キー感が強い音使い)に変えていて、全体としてはマイナー・キーにしか聴こえないんですよ。
4番まで歌い終わった後のギター・リフは若干メジャーも匂わせて、その後まったく別のマイナー・コードのギター・ソロに突入。そしてテンポを落としてヘヴィに聴かせて、最初のリフの疾走感に戻る。最初に聴いたとき、上手いアレンジだなー!と、感心しました。
速さもヘヴィさも失わず、メタルらしいマイナー感も完璧なのに、普通のメロディーを歌っているハルフォード、これは本当に混沌としていて良いアレンジだと思います。

ちなみに、最初のイントロのリフは、D、A♭、G、の3音。
このDとA♭(主音とブルーノート♭5)の音程は、〈悪魔の音程〉と言われています。実際、不安定で緊張感のある音程なのですが、メタルではリフの中によく使いますね。
わかりやすく聴けるものとして、今年の人間椅子の新譜『新青年』も、アルバムの幕開け“新青年まえがき”の冒頭がその悪魔の音程です。

 

ふたたび話を戻しまして、ロブ・ハルフォードのクリスマス・アルバム『Celestial』でも最初に演奏している“God Rest Ye Merry Little Gentleman(天界)”は元々マイナー・キー(短調)の曲ですから、メタルにもぴったりで、アレンジしやすいのでしょう。沢山のカヴァー・ヴァージョンがあります。ロニー・ジェイムズ・ディオのヴァージョンは、正統派。

 

J.J.ルボチャック(J.J.Hrubovcak、ヘイト・エターナルなど)の『Death Metal Christmas』(2013年)というアルバムでも演奏されています。

 

逆に、ツイステッド・シスターの『A Twisted Christmas』(2006年)というアルバムは、LAメタルらしく明るくてカラッとしていて、メジャー・キーのクリスマス・ソングをそのままストレートにやっているのがおもしろいです。アメリカのLAメタルは、元々メジャー・キーがかなり多いので、相性が良いのかもしれません。“Oh Come All Ye Faithful”、“White Christmas”なんかとても良いですよ。

 

最後に、ストレートなクリスマス・ソングの演奏を。

いつも、わりとひどい歌詞を歌っているマノウォーですが、ど直球の“Silent Night(きよしこの夜)”。
これに限らず、メタルのシンガーは皆歌の技術が高いし声も太いので、ハイトーンでストレートに歌うだけで、圧倒的に一本筋の通った強い信念の演奏になりますよね。

 

他にも、ヘヴィメタルで歌われたクリスマス・ソングは沢山あります。メジャー・キーの賛美歌をどう料理しているのか、していないのか、シンプルな原曲やジャズ・ヴァージョンなどと聴き比べてみるのも、とてもおもしろいですよ。

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

 


LIVE INFORMATION

11月23日(土・昼)兵庫・神戸 CREOLE
西山瞳piano ソロ

11月29日(金)神奈川・横浜 上町63
西山瞳TRIO:西山瞳(ピアノ)、佐藤ハチ恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス)

12月6日(金)神奈川・横浜 上町63
西山瞳piano ソロ

12月8日(日)東京・小岩 Cochi
西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター) デュオ

12月11日(水)東京・江古田 そるとぴーなつ
西山瞳(ピアノ)、市原ひかり(トランペット)デュオ

12月14日(土・昼)東京・成城学園前 Beulmans
西山瞳(ピアノ)、市野元彦(ギター) デュオ

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