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緻密に舞台を作り上げたうえで、初期衝動に立ち戻る

――そして、機材面に関して、同じ電子音楽家として、そのチョイスや使い方からフローティング・ポインツはどんな特徴があると思いますか?

「特徴的なのは、モジュラー・シンセサイザーのBuchla(ブックラ)ですね。それもコンピューターに取り込んで、時間をかけてエディットしているのではなく、その場で演奏できるようにセッティングしている。Buchlaは一般的に手に入るシンセサイザーとは発想が違う特殊なシンセサイザーで、相当勉強しないとライヴ的には扱えないというか、その意味で彼はBuchlaの理解がすごく深いと思います。

今、モジュラー・シンセサイザーは全世界的なトレンドで、猫も杓子もという感じで使われているんですけど、個人的には、モジュラー・シンセサイザー使いを前面に出した作品にはピンとくるものが少なくて、興味がなくなってしまったんですね」

――いつの時代も、機材やその技法をその人ならではの表現に昇華した作品は少ないというか、ギミックとして表層的に使われているものがほとんどですからね。

「モジュラー・シンセサイザーで音楽を作るということは、言い換えるなら、カレーを作るのに、ニンジンから育てるということだったりするんですけど、そういう根本も根本の取り組みからスタートしたもので、ここまでの成功例は極めて稀なことなので、ただただすごいなと思います。

同じ機材オタクとして、こんなこともできる、あんなこともできるとあれこれ試すのは楽しいし、テンションが上がるのはよくわかるんです。けど、特殊なことをやっているようで、我に返ってみたら、ただ遊んでいるだけだったというのはよくある話で。

その点、フローティング・ポインツは自制が利いていて、やりすぎていない。センスの良い範囲にきっちり収めているのは、これまた、彼のプロデュース能力の高さなんだと思います」

フローティング・ポインツがBuchlaを紹介している動画

――今回のアルバムは初期衝動性に言及した評価が多く聞かれる作品で、実際、制作自体が5週間という短期間だったということなんですけど、その前段階、スタジオに機材をセッティングして、その仕組みを理解するのに一番時間を割いたそうです。牛尾くんが指摘するように、自制が利いた作品でもある。そのバランスについてはいかがですか?

「何も考えずにその場の機材を触って音を出したという意味での初期衝動的なアルバムではなく、綿密に考え、コントロールした場で、頭を振り乱して機材を扱ったという意味での初期衝動性が反映されたアルバムなんだと思います」

――〈弾けないギターを弾くんだぜ〉ではないですけれど、初期衝動性をどう捉えるのか。

「パンクやロックを否定するわけでは決してないんですけど、ギターのワン・コードをラウドに鳴らしたり、破壊的な表現を振り回すことだけが初期衝動性ではないと思うんですよ。

一例に出して恐縮ですが、僕のファースト・アルバム『a day, phases』(2008年)にはキックの音が入ってないんですよ。ローを全てカットして、わかりやすいリズムは、カッカッっていう小さい音だけ。それが僕にとって〈パンク〉だったし、初期衝動性だった。そういう意味において、土台の緻密さに偏執的に執着したフローティング・ポインツの初期衝動性には勝手にシンパシーを感じますね」

『Crush』収録曲“Last Bloom”

 

〈時間〉をどう捉えるかが、現代の音楽家の課題

――それ以外の共通点としては、フローティング・ポインツは2017年に短編映画「Reflections – Mojave Desert」のサウンドトラックを発表していますし、牛尾くんも数々の劇伴を手がけられていますよね。

「自分の作品を作るとき、例えば、4小節のキックがきた後、16小節ブレイクしようと思ったらそのとおりに好きにやるだけなんですけど、劇伴はシーンとその時間ありきで、そこに音楽を合わせていく作業なんですよね。そういう仕事を続けてきて、ここ最近は、音楽において〈時間〉をどう捉え、コントロールできるかが自分のなかでのホットなトピックだったりするんです。​

牛尾憲輔が劇伴を担当した2016年のアニメーション「聲の形」より“lit(var)”

LAMAで一緒のナカコーさんとも時間の話をよくしていますし、今は時間軸に言及するミュージシャンが多い気がするんですよね。今回のフローティング・ポインツも用意した土台のうえで衝動的に演奏するってところから、例えば彼が演奏した5分から、そのまま5分の時間軸を持った作品が生まれていると思うんですけど、僕自身の次作はそうではない時間軸をもった作品が出来ないものかと考えているところです 」

――自制や制約から初期衝動や新たな表現のアイデアが生まれつつある、ということでしょうか。

「そう。その制約が自分には新鮮でおもしろかったりするんです。限られた制作時間のなかで、作品のクォリティーのために試行錯誤していると、その制約から発揮されるクリエイティヴィティーがある。

記憶が確かならば、武満徹先生も“ノヴェンバー・ステップス”以前に、オーケストラに琵琶や尺八を取り入れたのは、映画『切腹』(62年)の劇伴が最初だったと思いますし、フローティング・ポインツがバンドでの経験を今回のアルバムに反映させたように、僕も仕事でもできる範囲の実験をしながら、その成果を自分の作品にフィードバックできたらいいなと思います」

『Crush』収録曲“Anasickmodular”

 


TOUR INFORMATION
FLOATING POINTS JAPAN TOUR

10 years of Rainbow Disco Club in Sapporo Supported by SYNAPSE/PROVO
2019年12月20日(金)北海道・札幌 PRECIOUS HALL
出演:Kuniyuki and Floating Points “perform an improvised live set together..”/Mathew Jonson/Naohito Uchiyama/DJ GAK/Kikiorix

KEWL 2nd Anniversary
2019年12月21日(土)​東京・南青山 VENT
出演:Floating Points(DJセット)/Knock(KEWL/Sound Of Vast)/EITA (KEWL)/Frankie$(KEWL/N.O.S.)

2019年12月23日(月)京都 METRO
出演:Floating Points (DJセット)/Metome/SEKITOVA

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2019年のDJセット