Page 2 / 2 1ページ目から読む

3分間で全曲解説・前編

――事前に要望もあったので、収録曲を1曲ずつ解説していただきたいんですが、長くなりすぎてもよくないし、実際に音を聴きながら読者に読んでもらえるように、3分の砂時計を用意しました。歌詞、曲、歌、演奏、モチーフ、レコーディング時のエピソードなど、3分の間に話したい人がどんどん話してください。では1曲目の“Scratch the surface on the universe”から。

斎藤「1曲目はイントロダクション的に、短くてロックな感じで始まるアルバムが好きだし、POLLYANNAでガンガン攻めたアプローチをするのがおもしろいなと思ったんですよね。例えばアークティック・モンキーズとか、ミューズとか、そういう要素を入れたくって」

qurosawa「ギターは勝手に〈ミューズでジョニー・グリーンウッドが弾いたら〉みたいなイメージでやってます」

飯島「そういうロックの要素はqurosawaの比重が大きいので、代わりにキーボードはグロッケンの音色にしたりしてます」

斎藤「そういう音色選びも北欧から持って来ているよね」

飯島「そうそう。かわいらしさを入れてロックな部分を引き立てたり、音の密度を高くしたりできたと思います」

――タイトルがカッコいいですよね。

斎藤「なんとなく社会風刺をしたかったんだけど、〈日本〉とか言いたくないし、それで規模が大きくなったんですよね。宇宙の表面に爪痕を残すみたいな」

――2曲目はリード曲の“pantomime”。

伶菜「デモでもらった時点で〈この曲は売れるな〉って思いました。歌っていてもどの曲よりも楽しいし、お客さんの反応を見ても〈あの感触は間違ってなかったな〉って思うような曲です」

斎藤「この曲から和声で5度をイジメる癖がついたんです」

――5度がシャープになる。オーギュメントですか。

斎藤「でもフラットさせることもあって、この曲からそういうことを意識し始めましたね。特にサビのコーラス・ワークとか」

伶菜「何かのコメントで〈気持ち悪いコーラス(いい意味で)〉って付いてて、それが全部を語ってると思います。最初聴いて〈何これ!?〉って思ったのがクセになる」

ワタナベ「ドラムスはこの曲だけが1テイクです。男の一発録り」

――おおー、そうなんだ。では次、3曲目の“量子もつれとわたし”です。

斎藤「これは落ち込んでた時に作った曲で、何もかも自分本位的になりすぎてるのが良くないなと思ったことがあって、〈自分と相手と量子論〉について架空の女性の主人公に歌わせた曲ですね」

伶菜「みんな〈何それ!?〉って言ったタイトルだよね」

qurosawa「この曲は初めてシューゲイザーを許された曲でもあって(笑)。いままでは〈チョイ・ギリ〉みたいな感じで入れてたけど、この曲で初めて〈もう、それ〉っていうファズのギターを入れてます。この曲はけっこう前からある曲で、紆余曲折あって一度寝かしてたんです。でも伶菜が入った後にもう一度やってみたら、ピタッと形になったんですよね」

ワタナベ「ドラムス的には、この曲はPOLLYANNAのライブのなかでいちばんうるさくなる曲で」

斎藤「ドラムスもうるさくなるし、ラスサビが終わってからのクロちゃんのギターもすごいし、ぜひどっちも聴いてほしいですね」

――はい、4曲目は斎藤さんがいちばん話したいことがあると言ってた“シュガーレイン”。

斎藤「例えば冨田恵一さんとか、キリンジで言ったらお兄さん(堀込高樹)とかが作るこういう曲が好きで。そういう要素をうまく取り入れられた最高傑作だと思ってる曲です。歌詞も気合いを入れて〈純文学的アプローチを入れる〉をテーマに作詞しました。特にAメロはかなり純文学で(笑)」

――POLLYANNAの作品には必ず1曲〈雨ソング〉が入るんですよね。

斎藤「雨の曲が好きなんですよね。Something ELseさんの“あの日の雨と今日の雨”っていう曲があって、実はその曲も編曲が冨田さんなんですけど、それがすごくセンセーショナルだったんですよ。そこから雨の曲が好きになっちゃって、1作品に1曲は雨の曲が入ってますね」

飯島「ファーストは“LONG SPELL OF RAINY WEATHER”で、セカンドは“マイ・フェア・レディ”で」

ワタナベ「この曲はドラムスが難しいんですよ、テンポ感が早くも遅くもなくて、三連でハネてて。それってそういうバンドのそういう曲を練習してないと叩けないと思う」

伶菜「いつも苦戦してるよね」

qurosawa「ギターは、この曲を録っていた時期にいちばん赤い公園を聴いてて(笑)。なのでイントロのリフは津野米咲さん的に作りました」

――え、そうなんだ! はい、次は5曲目の“運命の人”です。

斎藤「めちゃくちゃ古い曲で、歌謡ロックな成分が強めな曲です」

qurosawa「POLLYANNAを始める前のモトキさんの曲にいちばん近いと思います」

斎藤「そうね、自分で歌ってた頃に近い。今回のアルバムに入れるって決めてから、編曲はすごく苦戦しました。元のデモは、言ってしまえば東京事変だったよね」

飯島「意識もしてたしね。だからこの曲はどうにかしないと昔の曲っぽくなっちゃうと思って、楽器選び、音色選びから苦戦しましたね。音色を選ぶのが苦手で」

斎藤「V Collectionっていういろんな名機と言われるシンセをシミュレーションしたパックがあって、CS 80っていうシンセしか使わないようにしようって決めて。〈この縛りのなかでやれよ〉って押し付けたんです。でも、無限に選択肢があるより、狭い庭のほうが遊べたりするしね」

飯島「シンセの音源なんて信じられないくらい種類があるんで」

ワタナベ「あと、この曲は伶菜と自分が入って最初に着手した曲で」

伶菜「初めてこの5人で作り上げた曲だよね。当時は変な癖が出ちゃってたから、いまのヴァージョンにするのがすごく大変でした。でも、どうしたら良くなるか、ということより、なんで当時ダメだったのか、を何度も聴いて研究して。歌詞にメモを書きまくって、ボイスメモに何十回も録音して、そしたら客観的になれて、こういうところが似合ってないってわかったんです」

ワタナベ「当時の伶菜は〈エロ女です〉っていうのが出てたもんね」

伶菜「やめてよ(笑)! 私はシンプルに椎名林檎さんが好きなんです」

qurosawa「椎名林檎さんはそんなことないのに、それを真似た人がなぜか同じようになっちゃう現象ね」

伶菜「私は舐められたくなくって、それが本来の自分でもないのに頑張って強い女であろうとして。でもおかげで、いまは素の自分で歌えるようになったんです」

 

3分間で全曲解説・後編

――折り返し地点です。6曲目は“LIFE”。

斎藤「この曲は、自分としては寝かしておきたかった曲なんです。サビの始まるコードがエモいし気に入ってたんですけど、キモになるストリングス・アレンジを出来る人が誰もいなくて」

qurosawa「実はこの曲は僕がPOLLYANNAに入る前の、本当の初期メンバーの頃の曲で、僕はお客さんとしてこの曲を聴いてて、いちばん好きだった曲なんです。でも僕が入ってからはやらなくなっちゃって、今回僕と伶菜が〈これどうしてもやりたいです〉って言ったら、いまのメンバーとその人脈なら作れるんじゃないかっていうことになって」

斎藤「このバンドってみんな思いやりがある人たちだから、そこは折れて(笑)、今回、辻林美穂という人物にお願いしてみたんです。プライヴェートでも仲が良くって、素晴らしいミュージシャンだから一緒にやりたくて。で、〈こういう感じでやってね〉っていう要望を出したら、その期待値の300%で返ってきて。最高の仕事をしてくれました」

伶菜「本当やれてよかったです」

――いい話! 7曲目は“カモミールの育てかた”です。

斎藤「これもPOLLYANNAの前のバンドで作った曲で、超大昔の曲が並んじゃったね。この曲はむしろ飯島がやりたがらないよね。彼はピアニスト、ピアニシャンなので(笑)」

飯島「この曲ってオルガンの音がステイしてるんですけど、その良さが最初はわからなかったんです。オルガンなら粒立ちとかパーカッシヴな面をアピールしたくて。でもやっていくうちに考えが変わってきて、最終的にはうまくハマれましたね」

伶菜「私はこの曲の歌詞が大好きで。モトキさんの書く歌詞って文学的だったり、わざと難しい言葉を使ってる感じがあったんですけど、これはシンプルにヤバい歌詞だなって思って。かわいくてお茶目な主人公なんですけど」

斎藤「お茶目で人を殺しちゃうっていう……」

――え、そういう意味だったんだ! こういう歌詞ってどうやって書いてるんですか?

斎藤「歌詞は、まずキャラのプロファイリングをして、設定を作って、なるべくエゴが出ないようにそのキャラがしたいことをさせてあげるんです。神の意志というか」

――でもその神が暗い時は、主人公も暗くなるんですよね。

斎藤「世界に太陽が出てないと、その世界の住人もみんな暗いと思うんですよ」

伶菜「じゃあこの歌詞を書いた時は病んでたの?」

斎藤「この時は1Kの日当たりの悪い部屋に住んでて」

伶菜「カモミール育たないじゃん(笑)」

斎藤「そうなのよ。だからすごく暗いのよ。やっぱり家賃が低いと日照が悪い(笑)。そうするとこういう曲が生まれるという」

――(笑)。8曲目は“Sorry”。

斎藤「この曲の構想はすごく前からあって、サビを飯島に聴かせたら〈この進行はエッチだね♡〉って言ってくれて(笑)」

飯島「そこ、別の表現ない(笑)?」

斎藤「ハートマーク付けといてください(笑)。それを元に作ったら、いまと違ってすごくポップな曲になったんです。でもそれはダサかったし、サビだけ残しておいたんですね。それをうまく昇華できるような曲にしました。超個人的なことを歌っているにも関わらず、そうじゃない要素もちょっとずつ置いておいて、結果的に個人的な話の規模が大きくなっていくっていう構想があったんです」

qurosawa「この曲はサビのギターをどうするか、ずっと迷っていて。僕はもう少し静かめなイメージだったんですが、〈もっと攻めちゃえ!〉って言われたからCOALTAR OF THE DEEPERSをやってみたんです。僕の大好きなNARASAKIさんのめちゃくちゃ歪んだ16分のギターを、自然にPOLLYANNAに混ぜ込んだっていう、個人的に超うれしい曲です」

一同「(失笑)」

ワタナベ「自分はいまだにこの曲のどこがサビかわかりません、以上」

一同「(爆笑)」

伶菜「私はサビのタカシさんのコーラスが超好き」

――そのコーラスが入ってるところがサビでしょっていう(笑)。9曲目は“星をみるひと”。

斎藤「この曲はいちばん最後に出来た曲で、〈80's〉っていう仮タイトルがあって、イメージとしては夕方にやってるセル画アニメのエンディング曲みたいな雰囲気にしたいなと思って」

――それはよくわかります!

ワタナベ「『21エモン』で使われてほしいですね」

斎藤「俺は『YAWARA』かな」

qurosawa「伶菜はこの曲の歌が気に入ってるんだよね」

伶菜「そう、この歌の仕上がりがいちばん好き。私はこの曲を勝手に、手塚治虫が描くかわいいアンドロイドのイメージで歌っていて。曲の仕上がりとそのイメージがピッタリ合ったんで、〈サイコー♡〉って思ってます」

斎藤「ここにもハート付けておいてください」

――歌詞に〈(___)〉という空欄が出てくるのは何なんですか?

斎藤「ここは飯島が歌ってるんですけど、あえて何を言ってるのかわからないくらいの音にしました。ほら、Suchmosのイントロを聴いて、〈あそこなんて言ってるんだろ〉って思うこととかあるじゃないですか(笑)。何を言ってるかもわからない、誰かに語られもしない要素ってのも大事だなって思って」

――(笑)。そして最後の曲は“Special service”です。

斎藤「これは渋谷枠ですね。こういう曲とかリズムが好きなので。特筆すべきところとしては、ホーン・セクションを生で入れました」

伶菜「私の友達が吹いてます」

qurosawa「この曲はデモをいただいた時に、あまりにも渋谷系だったので、どうやって崩してやろうと思って」

ワタナベ「クリアクリーンのCMみたいだよね」

伶菜「朝のイメージね」

――さっきから例えがツボをついてる(笑)。

qurosawa「だから2本のリード・ギターはすごく歪んでたり、変な音を入れたりして。ギターはいちばん攻めたかもしれないですね」

――やたらと自由に動いてるなとは思いました。

斎藤「そういうところに注目して聴くのもいいと思います」

伶菜「私は個人的にこの曲をネオ“Breaking News”だと思っていて。あの曲も朝っぽいし、この曲も起きた瞬間に聴きたくなるような曲です」

――はい、これで全曲ですけど、ちゃんと言いたいこと言えましたか(笑)? なんか〈S〉が付く曲が多いですね。

斎藤「やっぱりそうですよね。これはたまたまなんですよ」

伶菜「でも〈S〉ってカッコいいからいいよね!」

 

ストライプ・ロック、シーンを作る

――結成当初のプロフィールには、自分たちの音楽を〈最新型渋谷系ポップ〉だと説明してたんですけど、いまは〈ストライプ・ロック〉と言ってますよね。最初の話とも繋がりますが、結局いまはどういう音楽を目指してるんですか?

斎藤「積み上げてきたバックボーン的にも、渋谷系のエッセンスが出てしまうのは仕方がないところなんですけど、もっとロック・バンドであることも伝えていきたくて。いろんな人と関わるうちに、自分たちに渋谷系へのリスペクトもそんなにないことがわかってきたし(笑)」

qurosawa「当時の渋谷系ファンにしか響かなかったり。それもありがたいことですが、やっぱりもっと若い人にも届けたいし」

伶菜「私も友達に言うと、クラブとかチャラい系だとか思われたもん」

斎藤「だから、まずロックという言葉を入れたかったんです。で、渋谷系の象徴的なアイテムとしてボーダーのシャツがあったと思うんですけど、いまはボーダーって言葉自体あんまり言わないですよね。でも、90度回転させてストライプにしたらみんな言うし、印象も変わる。だから、見方を変えればこんなにも変わるんだよ、ということを言いたくって、そういう意味で、ストライプ・ロックという言葉を提唱しています。うまく行間を読める人が読み解いてくれたらいいなって。それに縦縞は着痩せして見えるし(笑)」

伶菜「私は最初〈シティ・ロック〉を提案してたよね。シティ・ポップをもっとロックにしたくて。渋谷系も渋谷というシティから生まれたものだし」

斎藤「でもシティ・ポップもすでに古いからね」

qurosawa「シティ・パンクとかも出てきちゃって」

――なるほど。最後に、これは個人的な希望でもあるんですが、POLLYANNAのメンバーはPOLLYANNA以外にもいろんな活動をしているメンバーが多いし、周辺のバンドもいて、それらをひっくるめたシーンが出来つつあるような気がするんです。だからPOLLYANNAにはシーンの中心でいてほしいし、〈お笑い第七世代〉みたいな新たなシーンを牽引してほしいなって思うんです。

伶菜「ちょうど同じような話をレーベルの担当さんたちとも話してました」

qurosawa「売れてるバンドってそういうシーンから出てきてる人が多いから、本当そうなりたいです」

斎藤「だから〈Laura day romanceくん、お願いします〉って思ってます(笑)」

――そういうところだぞ(笑)。この5人で引っ張ってほしいんですよ。

qurosawa「いろんなバンドと親友みたいになりたいよね。フォトハイ(For Tracy Hyde)とか(四丁目の)アンナとももっと仲良くなりたいし」

伶菜「そうだね。個人的には、女の子ヴォーカルで、ちゃんと自分の色を出してるバンドが好きで、そこにはもちろん見た目っていうのも大事な要素で。音だけでなく自分たちの見せ方も含めて、そういうことがちゃんと出来るバンドとどんどん仲良くしていきたいなって思っています。そうしたらそれがシーンになり得るんじゃないかなって」

ワタナベ「そうだね。ストライプ・ロックって言ってるからにはちゃんとファッションの軸もしっかりしてないと。ライブハウスに行ったらみんな着てるものに〈HOLIDAY! RECORDS〉って書いてあるみたいな、そういう世の中がいい世の中だと思うよ」

――じゃあ、5人がシーンを作れるよう期待してますね(笑)。