ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。連載はまる2年を迎え、今回で25回目を迎えました。そんな記念すべき今回のテーマは、やはりBABYMETALについて!です。先日のYouTubeでの〈LIVE AT TOKYO DOME〉二夜連続配信の余韻も冷めやらぬなか、この1年のBABYMETALの歩みを西山さんとともに振り返りましょう……。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


今回は連載25回目、この4月でちょうど2年目です。これまで沢山の方にご覧いただき、本当にありがとうございます。

3月末から新型コロナウイルスで仕事が片っ端から無くなった私は、原稿を書く時間が山ほどあります。ありすぎます。次に人前で演奏するのはいつになるのだろうと考えてしまいますが、考えても仕方ないので、いまはここで好きなもののことだけを考えたいと思います。

 

好きなもの、それはもちろんBABYMETAL。

最高にドラマチックだった、1月26日幕張メッセでの「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN EXTRA SHOW」2日目公演を観てから2か月経ち、毎年恒例の4月1日の「お告げ」を心待ちにしていましたが、今年は「STAY HOME、STAY METAL」のみ。BABYMETALでも家にいろと言わねばならないこの状況を恨みますが、仕方ない。いまは命が大事です。

このMikikiにも、これまで何度もBABYMETALについて書いています。この1年、私は下記6本のコンサートに行きました。

2019年6月28日 BABYMETAL AWAKENS - THE SUN ALSO RISES - 横浜アリーナ
2019年11月16、17日 METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN さいたまスーパーアリーナ
2019年11月20日 METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN 大阪城ホール
2019年12月16日 APOCRYPHA - ANOTHER GALAXY - Zepp Diver City
2020年1月26日 METAL GALAXY WOLD TOUR IN JAPAN EXTRA SHOW 幕張メッセ

昨年6月の横浜アリーナはこの連載でもレポートしましたが、3人体制に戻った衝撃が本当に大きく、また新曲“Arkadia”で始まったので、蒸し暑く入場が混雑したストレスを一瞬で帳消しにするインパクト。

 

10月11日にサード・アルバム『METAL GALAXY』の発表を挟んで、11月の公演は、ブリング・ミー・ザ・ホライズン(Bring Me The Holizon)をゲストに迎え、メタルの新時代を感じる視覚も聴覚も刺激の大きかったコンサート。さいたまスーパーアリーナ2日間の公演はこの連載で、大阪城ホール公演1日目は「ヘドバン vol.25」でレポートしています。

 

12月に参加したライヴはThe ONE(チケット先行などのあるメンバーズプロジェクト)会員向けのライヴで、抽選に当たって行くことができました。新曲の披露や新たな情報はなかったですが、久々に小さめのライヴハウス会場で観ることができたのが収穫。以前この規模で観たときより成長し、パフォーマンスも存在感も一回り大きくなって帰って来たというライヴでした。

(レポはブログに→http://blog.livedoor.jp/hitomipf79/archives/52479364.html

 

今年の1月の幕張メッセ2日目は、いままで観てきたBABYMETALライヴの中でも過去最高にドラマチック。アベンジャーズ揃い踏み、バンドは西の神バンド(海外でのメンバー)がメインで、最後に東の神バンドも揃い、まさにアベンジャーズ・アッセンブルでした。レポは「ヘドバンvol.26」に書いていますので、ぜひご覧ください。また、近日発売の「ヘドバン スピンオフ」でも少し書いています。

2016年のMikikiの記事で〈現代の巫女だ〉と書きましたが、BABYMETAL10周年を目前としたいま、考えを改めるべきでしょう。

 

巫女は、神の言葉を伝える媒介者。我々が願いを託す存在。しかし、ここ7か月の公演を見て、いまの彼女らは媒介者どころか、神に近い高次の存在にメタモルフォーゼしてしまったと思ったんですね。(※私は真面目です)

我々が希望を託すなんて、おこがましい。「こうあって欲しい、こうして欲しい、この曲をやってくれたら」、なんて、こちらが思っちゃえるような存在ではなくなったと。ただ与えられるものを待っていれば、幸せと感動が待っている、そんな存在だと思えるようになりました。(※私は真面目です)

 

なぜそう思えたか、考えてみます。

●SU-METALの女王感が上がりすぎている
●MOAMETALの可愛いに隙がなくなりすぎてやばい
●アベンジャーズがレベル高すぎる
●衣装が素晴らしい
●曲のヴァリエーションが急激に増え、全能感が増した

と、5点に分けて考えてみたいと思います。

 

●SU-METALの女王感が上がりすぎている

以前はプロジェクトの駒として、持ち前の歌唱の天然の素直さを、メタルのサウンドに組み込まれ悪魔合体した印象がありましたが、もう立派な悪魔ですよね。駒感ゼロ。煽りも恐ろしければ、スクリーンに映し出される眼の圧が、岩下志麻みたいになってきた。神々しい。。。神か悪魔かはわかりませんが!

今年、比較的短期間のうちに6本ライヴで体験して気づいたのですが、SU-METALは、ピッチも良く歌唱のアベレージが高いとは以前から思っていましたが、音を外す時はいつも「届かない」じゃなくて「力出しすぎた」みたいな感じでした。蛇口を全開にしすぎてエネルギーが暴走する感じというか、私のライヴ取材メモには「赤兎馬」と書かれたページがあるのですが、あとで見ると笑っちゃうんですけど、そういうことです。赤兎馬。

1月の幕張公演で、ちょっと口が開きすぎなぐらい開いていて、「漫画かよ」と口に出した瞬間がありました。

「まだまだ出せるぜ」感が凄いです。ついていきます。

 

●MOAMETALの可愛いに隙がなくなりすぎてやばい

これ、完全に蛹が蝶になりましたね。今シーズン激ヤバでしたね。めちゃめちゃ可愛いし綺麗なんですもの。いつでも完璧な姿がコマ送り。どの部分をカットしても、パーフェクト。以前は小悪魔だったのに、完全体になってしまった。

以前と煽りの時間の分量って変わっていないのかもしれませんが、めちゃめちゃ煽られている気がします私。

YUIMETALが脱退して、アベンジャーが交代で入るようになり、もしかしたら心持ちも変わったのではと想像します。

 

●アベンジャーズがレベル高すぎる

これがびっくりなんですよ。

6月横浜公演の初日、「え、誰が入ってんの?」「完璧だし、存在感あるし、遠目なのに目も引くし、ただのサポートダンサーじゃなさそう」と思いました。それが一人じゃなく、3人交代で入っていて、皆完璧なうえ個性もわかり、そのうちシルエットでなんとなく誰が誰かわかるようになってしまいました。

MOAMETALとYUMETALが区別つかないといか言ってた頃が懐かしいです。(遠い目)

 

●衣装が素晴らしい

このシーズン、衣装がとにかく好きでした。最高に好きだと思いました。BABYMETALにハマれたのも、衣装が大きいと思うんですよ。私が最初に動画を見て存在を知った2014年は、赤くチュチュに近いふわっとしたスカートでしたが、ニーハイで露出少なめ、メタル感と可愛いさをうまくブレンドしていて変な露出がない清潔感に、好感が持てたんですよ。

いつだったか、タワーレコード渋谷で衣装をまとめて展示していたときに、見に行きました。

2019年シーズンの衣装は、成長に合わせて威厳の備わったデザイン、レースの袖も品があり、ギャラクシー感があってステージライト映えするし、最っっ高に美しかったです。スカートの形も絶妙にクール可愛くて、肩のラインもデーモン閣下の戦闘服感がありました。

 

●曲のヴァリエーションが急激に増え、全能感が増した

『METAL GALAXY』は、ユーロビート、アーバンなポップスだったり、盆踊りだったりラップだったり、本当にカラフルなレパートリーです。

以前は可愛さを全力で押したキッズ感のあるレパートリーが多くあり、その雰囲気も懐かしいですが、成長したいまは、いまのBABYMETALに合った素敵なレパートリーをたくさん増やしています。

インド風の“Shanti Shanti Shanti”で新たなダンスも軽々と見せてくれたし、“Brand New Day (feat. Tim Henson and Scott LePage)”のような大人の情感のある歌唱も聴かせてくれたし、ラップの“BxMxC”の生演奏は衝撃でした。

セカンド・アルバム『METAL RESISTANCE』(2016年)はメタルの深堀でしたが、『METAL GALAXY』は他ジャンルとの拡張作。縦軸も横軸も大きく振れたことで、とてもカラフルなレパートリーになりました。

 

色々書いてきましたが、緊急事態宣言で外出を自粛しないといけない中、4月8日に突然告知された「LIVE AT HOME –ON Youtube-」。4月10日、11日に、YouTubeでLIVE AT TOKYO DOME(2016年東京ドーム公演)を二夜連続配信するというサプライズがありました。

行っていましたし、映像もすでに観ているものですが、コンサートなどができない中「皆で楽しむ」という機会を与えてくれて、本当に楽しい時間でした。

そして、2016年の映像を見ると、余計に成長と変化を感じずにはいられなかったです。

かつて、ギミックや違和感を楽しんで見ていたグループは、成熟し、成長に合わせて曲の幅を広げ、見せ方も少しずつ変えて、我々も一緒に変化しながらMETAL GALAXYまで連れてこられたのだなあと思って、今更ながらアーティストを長く追いかけることの歓びを感じることができました。

 

私もそうでしたが、コアなファンも最初は「色物でしょ」みたいな目線の人が多かったと思うんですよ。どんどん視野を広げてもらえている実感があって、感謝しかないです。これからもついて行きます。

 

もうすぐ、昨年10月11日アメリカ・LAのTHE FORUMでコンサートしたものが『LIVE AT THE FORUM』として5月13日に発売になります。

そちらは勿論要チェックですが、今年10月10日に10周年を迎えるBABYMETAL、今年はこの逆境の中、どんな戦いを見せてくれるのか、本当に楽しみです。

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

 


LIVE INFORMATION
現在私のライヴは5月半ばまで全てキャンセルしており、この後のスケジュールも情勢を見て判断します。
ライヴはしばらくありませんが、6月10日にソロアルバムが出ます。予約も始まっていますので、こちらぜひチェックして頂けると嬉しいです。

★ライブ情報の詳細はこちら

西山瞳 『ヴァイブラント』 MEANTONE(2020)