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ネイト・マーセロー

ファンク系と思いきやビート・ミュージックにも詳しい、意外な素顔

――沼澤さんとネイトとのそもそもの出会いから教えてください。

「ネイトはサンディエゴの生まれで、大学でサンフランシスコに出てきたんです。それで演奏活動もしてたんだけど、ベイエリアにいて、ちょっと名前が売れてくると、大体シーラ・E周りか、サンタナ〜グレイトフル・デッド周りに呼ばれるんです。

シーラ周りは、Yoshi’sというライブが出来る日本料理店でよくやっていて、そこにネイトが呼ばれて行ったんだけど、その日はシーラ本人も出るということで、歴代のシーラのバンド・メンバーがみんな遊びに来てて、リーヴァイ(・シーサーJr.)もボビー(・Z)もステージに上がってセッションをするような状況になるなか、ネイトは周りのギタリストを全員負かしちゃったらしいんですよ(笑)。僕はその場にいたエディ・Mから後でその話を聞いたけど、本当にプレイがやばかったらしいです」

――エディ・Mからの話が、ネイトを知るきっかけだったんですね。

「そうです。それで、NOTHING BUT THE FUNKの公演で初共演になった。あの時(2017年)、LAに引っ越したばかりだったと思います」

ネイト・マーセローと沼澤尚が初共演した〈NOTHING BUT THE FUNK “Japan Tour 2016”〉のライブ映像

――沼澤さんからネイトを紹介していただいて、少し話したら、ビート・ミュージックやアンビエントも好きだと言っていて、でもステージではバリバリ、ギターを弾いてましたね(笑)。

「あれを見るとちょっと分からないですよね。最初はシーラ・E周りの、そういう(ファンク系の)人だと思っていたけど、日本に来て話したら、LAのビート・ミュージックやdublabや、そっち系の話をずっとするんで、驚いてね(笑)。

その時のネイトは〈今LAで出てきたノウアーというのが好き〉って言ってて、さらに話すと、プロダクションの仕事もたくさんやっていると分かった。既にフィリップ・フィリップスとの仕事もやってたし、〈帰ったらリオン・ブリッジズの仕事だよ〉って言うんで、驚いたんです(笑)」

――リオン・ブリッジズの『Good Thing』(2018年)はグラミーにノミネートされましたね。

「ネイトは、一緒にグラミーの会場に行ったそうです。〈お前すごいじゃん〉って言ったら、〈ラッキー!〉ってそんなノリ(笑)。今年は、リゾとショーン・メンデスとの仕事でノミネートされてたし。気が付いたら、超大物とやり出していた」

リオン・ブリッジズの2018年作『Good Thing』収録曲“Bad Bad News”。プロデューサーはネイト・マーセローとリッキー・リード

 

プリンスがやれることは全部やれる。驚くべき器用さ

――なんで、ネイトはあんなにプロデュース仕事が増えたんでしょうね?

「〈なんか、友達になっていくんだよね〉とか言っていたけど(笑)、やっぱりLAに来てからみたいです。ベイエリアにいると、そういうところとは絡まないので。でも、実際、ネイトがなぜそうやって繋がっていくのかは謎ですね」

――人付き合いが上手なんでしょうか?

「いや、全然(笑)。まだ31、32歳くらいだけど、なんで、あれこれできるのかと訊くと、たとえば、ジョンスコ(ジョン・スコフィールド)の曲をことごとく譜面に起こして弾いたりすることをやっていたと。だから、アメリカ人のギタリストとして典型的なことをしっかりやって来ている。やれと言われたら、ジャズ・ギタリストにもなれるんです。

話していると、自分が生まれるよりも前の音楽のことを盛んに言っていて、マイルス(・デイヴィス)とか、ウェザー(・リポート)を、今好きでしょうがないようです。あと、ギター・シンセを弾くのは、パット・メセニーが好きだからですね。メセニーを聴いて、ヤバいなと思った音が、ローランドのギター・シンセ(GR-300)だった。だから、あいつ、本体とギター、3台も持っているんですよ(笑)」

パット・メセニーの82年作『Offramp』収録曲“Are You Going With Me?”のライブ音源。GR-300を使用している

――カルロス・ニーニョが参加しているネイトのライブ音源(『There You Are [Live At The Virgil]』)もギター・シンセですね。最初、アンビエントかと思う展開なんですが、次第にプログレっぽくなって、ギターを弾きまくってます(笑)。

「カルロスの新譜(カルロス・ニーニョ&フレンズ『Actual Presence』)にも参加してましたよね。アンビエントも出来るし、アンディ・サマーズというか、あのギター・シンセで燃えるロック・ギタリストみたいにもなるんです。それをバイパスすると、いきなりジェイムズ・ブラウンにもなれるという。要するに、プリンスがやれるようなことは全部やれるんです。そのことに初めビックリしましたね。凄いなコイツは、と」

『Joy Techniques』収録曲“The Trees Are Starting To Have Personality”

――ネイトは、ジャズ・ギタリストに師事はしたのでしょうか?

「独学みたいですね。あとはライブをこなしてきた。今はプロダクションの方で人気が出てしまったけど、シーラやフィリップ・フィリップスのツアー・バンドもやっていたし、普通にギターを弾けるチャンスがたくさんあって、それをやってきたということでしょう。この間のライブ(2020年1月のNOTHING BUT THE FUNK公演)では、さらにギターを弾きまくりでしたからね」

――僕が観た2017年の公演ではまだ控えめに感じました(笑)。

「エディたちはパープル・レイン・ツアーをやってきて、その人達にお願いします、という感じで入ったばかりの時だったからでしょうね。でもネイトはすでに、他の仕事もいろいろやり始めていた時期だったんです。やっぱり上手いし、歌も歌える。気が付いたら、〈ジョン・レジェンドのレコーディングやったんだよね〉って言われ、こっちが驚く存在になっていた(笑)」