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コロナウイルス禍と音楽家

――ところで、録音は3月10日、11日ですね。新型コロナウイルスが問題になってきた時期。

「ぎりぎり、という感じですね。録音のときにはみんなマスクして手洗いして、ではありましたけど」

――コロナウイルス禍の規制があれから現在まで続いていますけど、ミュージシャンとしてはどんなお気持ちですか?

「ダイヤモンド・プリンセス号の感染のあたりから、お客さんのキャンセルもどんどん増えてきて、精神的にしんどくなってきたんですけど、来てくださいとも言えないし……。それで3月末に都知事が会見してライブハウスが休業しだして、関東圏のジャズ・ライブが全滅したんですね。あれは衝撃的でした。志村けんさんが亡くなったことで潮目が変わったというか、それまでは対応に怒っていた人も、緊急事態宣言が出るころには、しおしおしお、みたいに落ち込んだ感じでしたよね」

――そうですね。6月あたりから少し行政の対応が変わってきましたが。

「細かい精神的な変化はみんなそれぞれあったと思うんです。今の気持ちとしては、あまり飼い慣らされないようにしないと、と」

――それは右往左往しないで、自分で考えよう、ということですよね。

「みんな考えるのが面倒になってしまうけど、ずっと怒っていないといけないんじゃないか、と思うんですね。人によっては、怒り疲れた、というのもあると思いますけど」

――〈ライブハウス〉という言葉が独り歩きしてしまった、ということがありましたね。

「そうですね。しかもその対象がどんどん変わっていくということもあって、標的にされているんだな、と。音楽に関わっていない人から〈ライブハウスに行ってるんですね?〉と実際に言われたこともあって、本当にそう言われるんだ、と驚きました。

それで、ジャズ・ミュージシャンの中には、ライブハウスとジャズ・クラブは違うんだ、ジャズ・クラブは安全だ、と言う人もいて、それも私は非常に複雑な気持ちになりました。私はメタルの方にも出入りしているので。ジャズ・クラブは人数も少ないから今は再開できているけど、メタルはそれこそ〈密〉になるのでまったくライブが出来ないんです。もちろん出来るところからやるのはいいんだけど、他はどうでもいいけど自分のところだけは動かしてと言っているみたいで嫌だなあ、と見ていて思いました。みんなを救わないといけないのに」

――今、西山さんはライブ活動が始まっているんですよね。

「そうですね、どこも入場制限をしていますが。私としては精神的にもきついので、選んでやってます。以前の6割から7割ぐらいですね。でも、お客さんの入りは5割以下です」

――ライブって、一度行かなくなると行く習慣がなくなることもあり得ますよね。あと、マスクをして気をつけてライブに行くかどうかというと……。

「店によってはステージにアクリル板を立てるとか、ステージのミュージシャンにマスクをしてほしい、と言うところもあるんですが、私としてはそれはしないつもりです。お客さんは非日常を求めてライブに来ると思うので、ちょっとディストピアすぎるでしょ、それは、と」

――ご自宅からの配信もなさってるんですよね。

「ソロ・ピアノでの配信はやってまして、それが支えになっていた、というところはありました。配信の最後に、私がクラリネット、夫(橋爪氏)がピアノを弾く、という遊びをやって、そっちのほうが観ている人が多かったりもしました(笑)」

――私も4月からほとんど家にいて、いろんなミュージシャンの配信を観てたんですが、アンサンブルをバラバラに録画して、編集してアップする人がけっこういるんですね。おそらくコロナのことがなければ、そのスキルを身につけることはなかったんだろうなあ、と思ってしまいます。

「みんな急に配信スキルが高くなったんですね。私もそうですよ」

――たぶん10年前だとこういうことは出来なかったはずですね。

「こんなに高速のインターネット回線がなかったですしね」

西山瞳
 

〈飼い殺し〉にはされたくない

――コロナウイルスのことがあって、ミュージシャンとして、またパーソナルな部分でも、なにか心境の変化はありました?

「うーん、どうなんでしょうね。客観的に自分を見ることができれば、あるのかもしれないけど。ただ、いろんな人の生きていく方法、対処の仕方、価値観みたいなものが見えたことで、自分はどうするのがいいか、どうするべきなのか、みたいなことを考えることが増えましたね。配信をがんばってやる人もいれば、酒飲んでやさぐれて寝る、みたいな人もいますし、皆それぞれの選択したことが大事なことなんだと思います」

――世の中の動きについても、思うところはたくさんありますよね。

「私はもともと社会的な運動にコミットしようと思っているんです。自分の意思でデモや集会に行くこともありました。今はみんな上から与えられたことに対処するため精一杯ですけど、黙っていると大変なことになって、それこそミュージシャンが抹殺されるかもしれない。ちゃんと声をあげないといけないのに、と、そういう意味では怒りを溜め込んでいます。

〈アートにエールを!〉というプロジェクトがありますよね。私自身は、ああいうことをするくらいならなぜ最初から給付の形で支援をしてくれなかったのかと疑問に思っていますし、行政が指定したメッセージ込みで〈作品〉を作らせるって、怖いことだと思っています。それにホイホイ芸術家が乗ることだって、戦争の時に芸術家が国のために絡めとられていった歴史を考えずにはいられない。こうやって飼い殺しにされていくのかな、と。ああいうのはなるべく疑問の目で見ておいた方がいいと思います。

声をあげないと何もしてくれないし、声をあげても何かしてくれるかどうか分からないんだから、なおさらちゃんと声をあげないと、と思っています」

――署名運動とかも、絶対に効果はありますもんね。

「そうなんです。でもそういう運動に冷笑的な人もけっこういるでしょ、あれがしんどくて。明日は我が身、といつも思っていますよ」

――うーん、こういう異常事態だからこそいろいろなことが分かってしまう、ということもありますね。

「そうですね、今まで仲のよかった人が、あれ、そういう考えだったの?と思うこともありますね。でもそれを否定せずに、相手の話をちゃんと聞いたうえでそれでも自分の意見はきちんと言う、というふうにありたいな、と思ってます」

 


LIVE INFORMATION

9月25日(金)神奈川県・横浜 上町63(電話045-662-7322)
西山瞳(ピアノ)、吉野弘志(ベース)大村亘(ドラムス)
開演:20:00(2sets)
価格:3000円 ※学割あり

10月3日(土)、4日(日)岡山県・おかやまジャズストリート
橋爪亮督(テナー・サックス)デュオ

詳細はhttp://hitominishiyama.net/