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ロバート・グラスパーやフライング・ロータス以降の新たなジャズ

村井「今注目されているサックス奏者のヌバイア・ガルシアがジョー・ヘンダーソンの“A Shade Of Jade”をカヴァーしていますね。ここでヌバイアはサックスにモジュレーション的なエフェクトを掛けて、昔のテープ操作みたいなイメージでテンポを変えたりして、でも全体としてはソロをしっかり聴かせる、というジャズを演奏しています」

ジョー・ヘンダーソンの66年作『Mode For Joe』収録曲“A Shade Of Jade”

Sano「ロバート・グラスパー・エクスペリメントあたりから、サックスにエフェクトをかけることが一般化してきましたね。それで、リズムは〈J・ディラ以降〉という感じで、こういうタイプの演奏は世界的に増えてきましたよね」

村井「今、Sanoさんが〈J・ディラ以降〉とおっしゃいましたが、J・ディラが打ち込みで作ったようなつんのめる感じのビートをドラマーが人力でやる、といったことがジャズの世界で出てきたのは、2010年ぐらいですかね?」

Sano「僕は2000年代の前半にバークリー(音楽大学)にいたんですけど、そこではもうそういうことを僕らはやっていましたね。でもそれはまだ外に出ていなくって、一般的になったのは2010年ぐらいなんですかね、ロバート・グラスパーのエクスペリメント以降というか。クリス・デイヴがケニー・ギャレットのバンドにいた頃にもよく聴いていましたので、僕はその頃にはそういうリズムに慣れていましたね」

村井「なるほど、今やもう〈スタンダード〉というか、標準的なリズム感覚になっていて、このアルバムでも多くのトラックで聴けますね。このフィールのおもしろさ、というのは、機械的でありつつ人間的、という下手な説明しかできないんですが……」

Sano「そうですね……。20歳ぐらいのときにディアンジェロの『Voodoo』(2000年)に衝撃を受けて、僕らの世代にとっては、あれがすべての始まりだったと言えますね。

僕はその後でヒップホップを掘り始めたんですが、完全に打ち込みではなく、クエストラヴなんかが生で叩いているビートに惹かれたんですよね。実際に人が演奏しているんだけど、打ち込みにも聞こえるという。それはリズムだけでなく、音像についてもそうですね」

村井「人力から打ち込みへ、それをまた人力へ、というところがおもしろいな、と思います。

さて、このアルバムにはドド・グリーンという歌手が62年に出したアルバムからの“I’ll Never Stop Loving You”を、ヤスミン・レイシーが歌っています。このトラックは音数が少なくて、ヴォーカル以外はピアノ、ベース、ドラムス。でも、従来のピアノ・トリオとはまったく違う感じですね。

Sanoさんもご自分のトラックで音数を減らした、とおっしゃっていましたが、あえて音を減らす、ということの意義はなんでしょうか?」

『Blue Note Re:imagined』収録曲、ヤスミン・レイシー“I’ll Never Stop Loving You”

ドド・グリーンの63年作『My Hour Of Need』収録曲“I’ll Never Stop Loving You”

Sano「ヤスミンの曲の場合は、とにかく歌がすばらしいので、それを際立たせるために中音域を空けるということでしょうね。

あと、ここ10年ぐらいかな、フライング・ロータスなどに代表されるように、低音の出方がまるで変わりました。それで、低音のベースとドラムスをフィーチャーするために中低域を整理することが多いのでは、と僕は思います。ちょっとスカスカしているぐらいがかっこいいというか、そういう感じはありますね。

それはいい傾向なのではないかと思います。今までは音が多すぎたところがありますよね」

 

ブルーノートを語ることは、自分のジャズ歴を語ること

村井「このアルバムは〈ブルーノートの曲を1曲選んで好きにやっていいよ〉という感じで依頼があったんだと思いますが、結果として現在のジャズの幅の広さや自由さが典型的に表れた作品になったのでは、と僕は思っています。その自由さがアルフレッド・ライオン以来のブルーノートの伝統でもあるわけですよね」

Sano「ブルーノートを語ることは、自分のジャズ歴を語ることにもなりますね。最初はキャノンボール・アダレイの『Somethin’ Else』(58年)やリー・モーガンの『The Sidewinder』(64年)のような名盤から聴き始めて、20歳ぐらいでドナルド・バードなんかの70年代ブルーノートに出会い、節目節目でブルーノートのレコードに出会って、今でも聴き続けています」

村井「人によっては、このアルバムの内容がとっ散らかっていると思うかもしれないけど、好きなトラックを聴いてもらって、全然違うけどこっちもいいね、みたいに、リスナーの音楽的体験の幅を拡げるきっかけになればすばらしいですね。そこにSanoさんが日本人ミュージシャンとして参加していることも嬉しいです」

Sano「自分としては、イギリスをはじめとする海外の人たちにどういう風に聴いてもらえるかが楽しみですね。日本にはたくさんのいいジャズ・ミュージシャンがいますので、それを知ってもらうきっかけの一つになれれば、と思っています」

村井「先日、ヌバイア・ガルシアにメールでインタビューしたんですが、彼女も参加している人それぞれが音楽のジャーニー(旅)をしているところが素敵だ、と言ってました。とてもいいアルバムになりましたね!」

Sano「あ、村井さん。僕は高校生のときにこの雑誌(「文藝別冊 マイルス・デイヴィス」)を読んだんです。中山康樹さん、後藤雅洋さんとマイルスのベスト・テンを選んでましたよね」

村井「あー、そうですそうです! 読んでいただいたんですね」

Sano「何度も読み返しました。だから今日お会いできて嬉しかったです」

村井「それは恐縮です(笑)。次はぜひ、リアルな場所でお会いしましょう。ありがとうございました!」