田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週の話題といえば、そう! BTSのニュー・アルバム『BE』ですよね! まだ1回通して聴いたくらいですが、各曲のクォリティーがとんでもないですし、アルバム全体の流れも最高!! 聴きながら涙しちゃいましたよ!!!」

天野龍太郎「落ち着いてください。っていうか、いつからそんなにBTSのことを好きになったんですか……。BTSの新作『BE』は本日11月20日にリリースされました。アルバムのオープニングを飾る“Life Goes On”のミュージック・ビデオも公開されていますね」

田中「2曲目の“Fly To My Moon”はコスモズ・ミッドナイト(Cosmo’s Midnight)が、6曲目の“Dis-ease”はブラストラックス(Brasstracks)がプロデュースしています。このあたりの人選もさすが! いまのところ僕のお気に入りはエレクトロ・ファンク調の“Telepathy”ですかね!」

天野「(無視して)“Dis-ease”については、BTSのスタジオでブラストラックスの“Vibrant”(2019年)がかかっている動画がアップされて、それに本人がTwitterで反応した、という一連のやりとりが3月にあったので、きっとそこからの流れなんでしょうね。この週末は『BE』を聴き込みましょう。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. MARINA “Man’s World”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はマリーナの新曲“Man’s World”! 彼女はウェールズ出身のシンガー・ソングライターです。もともとは〈マリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズ〉として活動していたので、そちらの名前に聞き覚えのある方もいるのでは。彼女は、クリーン・バンディットとのコラボレーションでも有名ですね。マリーナ名義では2018年にアルバム『Love + Fear』をリリース。同作は高く評価されました」

田中「ダンス・ポップを得意としつつも、節回しや声質には少しアクがあって、おもしろい存在ですよね。フローレンス&ザ・マシーンとデュア・リパの間に位置する存在、という印象です」

天野「わかるような、わからないような……。彼女はギリシア人の血を受け継いでいるので、そういう出自がウェールズのアーティストらしからぬムードとして表れているのかも。さて。この曲は、近い将来にリリースされるであろう新作からのリード・シングルのようです。アルバムは女性のみで構成されたクリエイティヴ・チームで制作されたそうで、プロデューサーはバット・フォー・ラッシズやハインズなどの作品で知られるジェン・デシルヴェオ。エンジニアのエミリー・ラザーは、2017年のベック『Colors』で女性として初めてグラミー賞の最優秀エンジニア・アルバム賞を受賞した方です」

田中「鍵盤やストリングスがすごくエモーショナルで、マリーナの粘り気のある歌声とマッチしていますよね。あと、ギターのハードなサウンドもすごく効いています。なので、まずポップソングとしてよく出来ているなと。とはいえ、なにより歌詞がすごい。最初のパートからセイラムの魔女裁判を引き合いに出していますが、女性や同性愛者がマチズモ的な世界のなかでいかに虐げられ、不当な扱いを受けてきたのかを、痛烈な怒りをもって綴っていきます」

天野「マリリン・モンローが滞在したことでも知られるビバリーヒルズ・ホテルの現在の所有者が、同性愛者を処刑対象にするブルネイの国王、ハサナル・ボルキアであることなんかも歌詞のなかで言及されています。〈もう男の世界では生きたくない〉と歌うサビは強烈です」

田中「僕たち男性にとっては自省を促される一曲ですが、いまの時代に歌われるべきシンボリックな楽曲だと思います。この曲は、これ以降もムーナ(MUNA)やエンプレス・オブ(Empress Of)といった女性アーティストによるリミックスがリリースされていくようです。マリーナの動きは、注目しておいたほうがよさそうですね」

 

2. Haviah Mighty “Atlantic”

天野「2位はハヴァイア・マイティの“Atlantic”。〈PSN〉どころかMikikiに初登場の彼女は、カナダのトロント出身のラッパーです。ハヴァイアは、もともと女性オンリーのヒップホップ・グループ、ソロリティ(The Sorority)の一員。2017年のソロEP『Flower City』で知られるようになり、2019年のデビュー・アルバム『13th Floor』が高い評価を得ました。『13th Floor』は、〈カナダ版グラミー賞〉と呼ばれている〈ポラリス・ミュージック・プライズ〉の2019年度アルバム賞を受賞しています」

田中「ヒップホップ・アーティストが〈ポラリス〉を受賞したのは史上初なんだとか。すごい。ハヴァイア・マイティが評価されているのは、黒人でありフェミニストである彼女のアティテュードを全面的に打ち出したリリックですよね。〈13th Floor〉というアルバム・タイトルは、僕たちが現実から排除してしまっている物事を表しているそうです。西洋の文化では〈13〉という数字が不吉とされていて、建物には〈13階〉が存在しない。日本の〈4〉や〈9〉みたいな数字なんですね」

天野「ハヴァイアの考えを咀嚼すると、2020年のブラック・ライヴズ・マター運動でトピックになった構造的人種差別も、おそらくその〈13階〉なんでしょうね。今回のダークなトラップ“Atlantic”もまさにハヴァイアのそういった姿勢が出ている楽曲で、〈Atlantic〉という曲名は〈大西洋奴隷貿易〉を指しているのだとか。〈海を見なかった、でも私たちは大西洋を渡った〉と、奴隷貿易がいかに暴力性をあばき立てています。Complexのインタビューでハヴァイアは、『作曲プロセスでは私の祖先たちが感じたであろう絶望に共鳴した』と語っています」

田中「彼女は『私たちの歴史は祖先たちとともにある。彼らと語り、彼らから学び、探究することで私たちはより強くなれる』というステートメントも発表しています。とてもヘヴィーなテーマですが、歴史に学ぶことはたしかに大切です。そういったメッセージやダイナミズムを感じられるのも、ポップ・ミュージックの醍醐味ですよね」

 

3. Alissic “Like”

天野「3位はアリシックの“Like”。彼女も今回が初登場。というよりも、これがデビュー・シングルなんですよね。NMEによれば、〈ブラジリアン・アヴァン・ポップのニューカマー〉。アリシックは、モデルのアリッサ・サルズ(Alissa Salls)による音楽プロジェクトだそうです」

田中「なんとそのアリッサさん、ブリング・ミー・ザ・ホライズンのオリヴァー・サイクスの恋人なんだとか。BMTHの映像制作にも携わっているそうです。びっくりしました。モデルとして活動されていますが、もともとリコーダーや木琴を演奏していて、ベッドルームで曲を作っていたとのことです」

天野「それにしても、この“Like”はたしかにアヴァンギャルドなポップですよね。デビュー当初のFKAツイッグスの音楽を思い出しました。ベッドルーム感もありますが、エフェクトをかけられて複雑に重ねられたヴォーカル・エディットは、すごくエクスペリメンタルで不穏。作曲のクレジットにはオーリーも名を連ねていますし、ビデオはアリッサとオーリーの2人が監督しています」

田中「アリッサがエイリアンに扮したアーティスティックなビデオも、かなり独特。個人的には、デビューした頃のミカチューの姿なんかを重ねたりもしました。あと、この曲は彼女の両親がUFOに遭遇してその9か月後にアリッサが生まれた、というエピソードに着想を得ているそうです。そっか……。ともあれアリシック、今後が楽しみな新人です!」

 

4. girl in red “two queens in a king sized bed”

天野「ガール・イン・レッドの“two queens in a king sized bed”が4位。以前から追っていたアーティストですが、意外にも〈PSN〉初登場です。ノルウェーのホルテン出身のSSWで、ベッドルーム・ポップの注目株の一人。レズビアンの彼女がメランコリックに恋愛模様を歌う楽曲は、〈クィアの恋愛とメンタル・ヘルスについてのベッドルーム・ポップ・アンセム〉と評されています」

田中「なるほど! だからこの曲も〈キングサイズのベッドにいる2人の女王〉というタイトルなんですね」

天野「ええ。っていうか、僕が7月に書いた〈ベッドルーム・ポップを知るための10曲〉に、さっき言ったことはすべて書いてあるのですが。もしかして、読んでないんですか?」

田中「いやいや。話を進めるための合いの手ですよ(汗)。気を取り直して、話を“two queens in a king sized bed”に戻しましょう。この曲は、印象的に使われている鈴の音や楽曲全体の厳かで温かなムードからも察せられるように、ガール・イン・レッド流のクリスマス・ソングです。ウォール・オブ・サウンド風のドラムの鳴りも堪りません。それにしても、〈頭上にヤドリギはないけれど/とにかく2人はキスします/クリスマスの日〉という歌詞はロマンティックですね」

天野「それに続く〈与えられるものは多くないけれど/すべてをあなたに与えます〉というラインも素敵ですね。どうしたって季節感を希薄に感じる2020年でしたけど、クリスマスくらいは例年どおり大切な人たちと過ごしたいものですね」

 

5. Octo Octa “River”

田中「今週の最後は、ブルックリンを拠点とするDJ/プロデューサー、オクト・オクタの“River”。公私ともにパートナーであるエリス・ドリューと手掛けたミックスCD『fabric presents Octo Octa & Eris Drew』が来週11月27日(金)にリリースされて、そこに収録されている新曲です。ファブリックといえば、英ロンドンの名門クラブ/ダンス・ミュージック・レーベル。〈FABRICLIVE〉というミックスCDシリーズが有名ですが、この〈fabric presents〉は2019年にスタートした新たなライン。これまでにボノボやチェイス&ステイタスらがミックスを提供してきました」

天野「ファブリックに起用されると一流、みたいなイメージは昔からありますよね。で、オクト・オクタについてですが、彼女は2011年に100%シルクからデビューしました。100%シルクは、実験性の高いインディー・ポップを多数リリースしてきたノット・ノット・ファン(Not Not Fun)の姉妹レーベルで、2010年代前半の電子音楽といえば100%シルクでしたね。それもあってか、初期のオクト・オクタはインディー系のリスナーからも人気があった印象です」

田中「懐かしいですね。その後、2016年にトランスジェンダーであることをカミングアウト。2017年にはクィアのアーティストを専門に扱っているレーベル、HNYTRXからアルバム『Where Are We Going?』をリリースしています。彼女の特徴といえば、初期レイヴやシカゴ・ハウスのヴァイブスを受け継ぐジャッキンなサウンド。2019年のアルバム『Resonant Body』は、tofubeatsさんが〈私的クラブヒッツ〉にあげていました」

天野「この新曲“River”も超アシッド。プリミティヴでロウなビートに、途中から303でしょうか、うにょうにょしたベースが絡みついてきます。曲の中盤にはオクト・オクタらしい荒々しいブレイクビーツが挟まれていて、これはアガらずにはいられない! エリス・ドリューとのDJプレイはめちゃくちゃかっこいいので、『fabric presents Octo Octa & Eris Drew』を早く聴きたいですね!」