
田中 「コロンビア生まれで、現在はカナダのトロントを拠点に活動するリド・ピミエンタ。彼女は、このサード・アルバム『Miss Colombia』で、レゲトンやラテン・トラップも視野に入れた先鋭的なポップ・サウンドを手中に収めています。ほぼ全編をスペイン語で歌っており、シャーマニックな歌声が魅惑的ですね。タイトルの〈Miss Colombia〉とは、2015年のミス・ユニバース・コンテストで起きた司会者の言い間違い事件に端を発するミソジニー、あるいは人種差別的な言動への怒りや戸惑いに由来しているのだとか。ジャケットのとおり色鮮やかでウェルメイドなサウンドではありつつも、その内側ではメラメラと炎が燃えているような作品だと思います」

田中「ブライアン・ピニェイロ(Brian Piñeyro)によるDJパイソンのセカンド・アルバム『Mas Amable』。ピニェイロはエクアドルとアルゼンチンをルーツに持つプロデューサーで、現在は米NYを拠点に活動しています。彼は〈ディープ・レゲトン〉というサウンドを標榜していて、レデトンを咀嚼したビートと、IDM/エレクトロニカ的なディープでアンビエンスが漂うテクスチャーを巧みにミックスした音楽性が特徴。この作品では、よりアブストラクトでヒプノティックな側面を強めていて、とにかく聴いていて耳が気持ちいいです。ポール・ラッドを小太りにしたかのような風貌も、音楽同様にとてもチャーミング」

ROLLING BLACKOUTS COASTAL FEVER 『Sideways To New Italy』 Sub Pop/BIG NOTHING(2020)
田中「コートニー・バーネットやステラ・ドネリーの躍進は言うに及ばず、近年オセアニアはインディー・ロックの名産地となっています。この豪メルボルン出身のギター・バンドも、同地域の充実っぷりを示す5人組。そんなローリング・ブラックアウツ・コースタル・フィーヴァーのセカンド・アルバム『Sideways To New Italy』を選出しました。トリプル・ギターという編成を活かしたバンド・アンサンブルは、ふくよかで芳醇。その一方で、青臭さを残した歌声は聴き手の胸をつーんと痛くさせるような眩さを放っていて……。〈やっぱりロックっていいもんだなあ〉と、しみじみ思わせてくれる一枚です。ステラ・ドネリーと無観客のスタジアムの真ん中で演奏したコラボレーション・ライブの映像も最高なので、そちらも併せてぜひ」

田中「ソーはイギリスの不定形な音楽集団。〈正体不明のコレクティヴ〉なんて言われることも多いですが、マイケル・キワヌーカとの共作でも知られるインフロー(Inflo)や、リトル・シムズに楽曲提供をしているカディーム・クラーク(Kadeem Clarke)などが主要なメンバーのようです。2019年に本格的に始動し、サイケデリックなジャズ・ファンクでリスナーを魅了してきた彼らが、2020年は2作のアルバムをリリースしました。それが『Untiteled (Black Is)』と『Untitled (Rise)』。どちらもブラック・ライヴズ・マターの潮流に呼応した2作と言えますが、強烈な怒りや悲しみを感じさせる〈Black Is〉と比較して、この〈Rise〉はチアフルで祝祭的。アフロ・ファンクからディープ・ハウス、ブレイクビーツといった多彩なビートが、平和的なデモ――ダンスの風景を映し出しています」

SLEEPY HALLOW 『Sleepy Hallow Presents: Sleepy For President』 Winners Circle/Empire(2020)
天野「スリーピー・ハロウのことは、〈ブルックリン・ドリルを知るための10曲〉で紹介しました。池城美菜子さんによると、彼はもともとダンスホールをやっていたらしく、そのあたりが独特のフロウやサウンドを生んでいる理由なんだろうなと思います。このミックステープを聴いても、単純なドリル・スタイルではないところがおもしろい。これからプロデューサーのグレイト・ジョン(Great John)とのタッグで、まだまだ進化していくんじゃないかと思います」