Page 2 / 3 1ページ目から読む

この先も有効なメッセージ

 今作のメイン・プロデュースを担当したのは、90年代からの長い付き合いとなったデトロイトのカリーム・リギンス。彼がメインとなるのは先述の『Black America Again』や『Let Love』に続く流れであり、もちろんそのなかにロバート・グラスパーを交えたトリオ=オーガスト・グリーンでの活動も含まれるのは言わずもがな。明確なテーマを持って一気に制作された今回のアルバムに相応しく、ドラマーのリギンスを中心に、バーニス・アール・トラヴィス(ベース)、アイザイア・シャーキー(ギター)、アリアンドロ・プロール(キーボード)、PJことパリス・ジョーンズ(ヴォーカル)というバンドの面々が全面的にバックを固めている。グラスパーも要所では演奏/プロダクションに関与し、 ジェシカ・ケア・ムーアのポエトリーを配した序曲“(A Beautiful Revolution)Intro”でトランペットを吹くキーヨン・ハロルドなど曲ごとにメンツの出入りはあるものの、基本的には身近な仲間とのタイトなコンビネーションでスピード感を持って作られたものと捉えていいだろう。

 先行シングルの“Say Peace”はアルバム全体のテーマ曲とも言えるアフロビートのトラックで、声を荒げることなく盟友ブラック・ソート(ザ・ルーツ)とマイクを回す主役の振る舞いが実に印象的だ。ここではスーパー・キャットの声ネタで荒々しく〈Tell Me What You Fighting For?〉と問いかけつつ、〈黒いダライ・ラマ〉を名乗るコモンはあくまでも平和的なスタンスで平和を勝ち取ろうとする。コモンとアフロビートといえば『Like Water For Chocolate』(00年)の冒頭曲がフェミ・クティを迎えた“Time Travelin'(A Tribute To Fela)”だったり、フェミの『Fight To Win』(01年)にコモンがお返し参加したことを改めて思い出す人もいるかもしれない。

 また、その“Say Peace”やイントロに続く“Fallin'”、さらにはジャネイを連想させるスムースな“What Do You Say(Move It Baby)”、ミシェル・オバマが推進する非営利団体の投票キャンペーンに提供されたメロウな“A Place In This World”などを聴けば、今作における〈声〉としてPJの存在が重要なのは明らかだ。タイ・ダラー・サインやYBNコーデーらの楽曲でも歌ってきた彼女のソウルフルで耳馴染みのいい歌唱が、パワフルな楽曲に普遍性を与える柔和なエッセンスとして機能している。なお、ゲスト勢ではチャックDとレニー・クラヴィッツを迎えたロッキッシュな“A Riot In My Mind”のインパクトも強烈だし、スティーヴィー・ワンダーを招いて勇気とは何かを問う “Courageous”(最後のハーモニカがやはり絶妙!)もドラマティックで実に力強い。

 総じてエネルギッシュな楽曲には生々しさと高潔さ、勢いと温かみがあり、彼の考える〈美しい革命〉がどういった姿をしているのかが、改めてサウンド面からも伝わってくることだろう。ここからコモンがどう動き、人々の気持ちをどのように鼓舞していくのか、次の段階に進んだ彼の表現も楽しみだ。

左から、コモンの2016年作『Black America Again』(ARTium/Def Jam)、オーガスト・グリーンの2018年作『August Greene』(Fat Beats)、コモンの2019年作『Let Love』(Loma Vista)、2020年のコンピ『Def Jam Forward』(Def Jam)、ロバート・グラスパーの2019年作『Fuck Yo Feelings』(Loma Vista)、アイザイア・シャーキーの2018年作『Love Life Live』(Isaiah Sharkey)、ジェシカ・ケア・ムーアの2016年作『Black Tea: The Legend Of Jessi James』(Javotti Media)、レニー・クラヴィッツの2018年作『Raise Vibration』(Roxie/BMG)、スティーヴィー・ワンダーの2005年作『A Time 2 Love』(Motown)