Page 2 / 2 1ページ目から読む

シルヴェイン・シルヴェインとの思い出

一方、シルヴェインは自らのバンド〈クリミナルズ〉で再出発を図り、ドールズのシンガーとの共作やソロ名義でも名作『Sylvain Sylvain』(79年)を残すなど充実したキャリアを送り、2年半の闘病生活の末に 〈愛すべきロックンローラー〉として先日、その生涯を終えた。

大手レーベルからリリースされた作品こそ多くはないものの、シルヴェインのアイデンティティーは50年代から60年代にかけてのロックンロールだけが持ち得たある種〈健全〉とも言える華やかさと大衆性に貫かれており、出自を同じくしながらも退廃のアイコンとなったジョニー・サンダースとは実に対照的だった。

シルヴェイン・シルヴェイン&ザ・クリミナルズの79年作『Sylvain Sylvain』収録曲“Teenage News”のライブ映像
 

2004年、モリッシーの熱烈なオファーにこたえて(なにしろ彼はドールズ・ファンクラブの創設者だ)ニューヨーク・ドールズは再結成し、来日公演も行っている。その際に共演の名誉にあずかったぼくは、バックステージでシルヴェインの素晴らしい人柄に触れることができた。

演奏を終えたばかりのぼくらに抱きつくなり「よくやった、よくやった」と大はしゃぎする人懐っこさはまさに彼のレコードに感じた魅力そのものであり、自らのキャリアや功績など一切鼻にかけないふるまいでひたすら楽しませてくれたことをよく覚えている。

終演後、ぼくの着ていたTシャツを「脱いでよこせ」とせがまれ、わけもわからず言うとおりにしたが、ぼくが彼から授かったものを思えばたかがTシャツなど物の数ではない。かつての 〈ニューヨーク・ドール〉のワードローブに加えてもらえるなら本望だった。

ニューヨーク・ドールズの2006年作『One Day It Will Please Us To Remember Even This』収録曲“Dance Like A Monkey”のTVパフォーマンス映像

 

おやすみベイビードール

〈卵が先か鶏が先か〉の命題ではないが、彼らの存在なくしてパンクの歴史はなく、しかし彼らもまた先代からの〈教義〉を全うしたにすぎない。

古い考えは捨てること。常に弱者の側にあること。良識あるオトナが泡を吹くようなアイデアと、時間は3分あればいい。しみったれるな、陽気でいろ。あとはお前が、うまくやれ。

彼が残したレコードは永遠にティーンエイジャーのもとで再生され続けるだろう。すべてのロックンロールがそうであるように。おやすみベイビードール、どうか安らかに。

シルヴェイン・シルヴェインの2010年の編集盤『New York's A Go Go』収録曲“Sleep Baby Doll”

 

編集部注
・セックス・ピストルズのギタリスト=スティーヴ・ジョーンズ
・ミック・ジャガーにそっくりなシンガー=デヴィッド・ヨハンセン
・ライオンのように立派なたてがみのギタリスト=ジョニー・サンダース
・彼らが極東の島国で路頭に迷っている頃=ニューヨーク・ドールズが初来日ツアーを行った75年頃
・ジョニー・サンダースは(中略)トラブルにまみれて死んでしまった=91年没。ドラッグの過剰摂取によって亡くなったとされているが、死亡時の状況に不審な点が多く、犯罪に巻き込まれて殺害されたという噂もある