天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週は、とても悲しいニュースがありましたね。1月30日、独創的なエレクトロニック・サウンドで常にフレッシュな音楽を作ってきたプロデューサー、ソフィー(SOPHIE)が急逝しました」
田中亮太「34歳という若さで……。今後、彼女の新たな音楽が聴けないなんて、いまだに信じられません。トランスジェンダーであったソフィーのユニークなポップには、〈ありのままのあなたでいい〉というリスナーへのメッセージが常に映し出されていたように思います」
天野「僕はいまだにショックで立ち直れていません。別のトピックです。日本時間の2月8日(月)の朝に〈NFLスーパーボウル〉が開催されます。毎年ハーフ・タイム・ショーでは、大作映画のトレイラーが公開されたり、ビッグ・アーティストのライブがあったりと、スポーツ・ファン以外も観逃せないビッグ・イベントですね。今年はウィークエンドが出演しますね!」
田中「コロナ禍の影響もあり、事前収録での放送も噂されていたのですが、リアルタイムでパフォーマンスされるそうです。日本でも、NHK BS1やDAZNで生放送される予定。わくわくしますね! さらにウィークエンドは、前日2月7日(日)にベスト・アルバム『The Highlights』を発表。商売上手だな……。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. The Weather Station “Parking Lot”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はウェザー・ステーションの“Parking Lot”です。ちょうど本日2月4日にリリースされた5作目『Ignorance』からのシングルですね。『Ignorance』はPitchforkが〈Best New Music〉に選ぶなど、すでに評判を呼んでいます」
田中「Mikikiに初登場のウェザー・ステーションは、タマラ・リンデマン(Tamara Lindeman)によるバンドです。リンデマンはカナダのトロント出身、84年生まれの現在36歳。タマラ・ホープ(Tamara Hope)という名前で俳優をしていて、数々の映画やTVシリーズに出演しています。また、ミュージシャンとしては他にブルース・ペニンスーラ(Bruce Peninsula)にクワイアとして参加するなど、トロント・インディ・シーンで活躍する才能です」
天野「ウェザー・ステーションの音楽性はフォーク/フォーク・ロックと言っていいものですが、『Ignorance』ではかなり拡張されたものになりました。サックスなどのホーンズとストリングスを繊細な手つきで敷いた、とてもゴージャスで、けれども穏やかな響きに満たされているんです。日本でAORと呼ばれるウェスト・コースト・ロックやスティーリー・ダン、全盛期のフリートウッド・マックなどを思い起こさせるマチュアな音楽に近づいていて、まずこのサウンドに感動しました。モトリックな推進力のあるビートも力強いです。“Parking Lot”を含めて、すでに4曲のシングルがリリースされていましたが、どれもプロダクションは一貫していますね。なかでも、この“Parking Lot”は本当に素晴らしいと思いました」
田中「ウェザー・ステーションというかリンデマンは、彼女が書くリリックも魅力的ですよね。〈クラブの外、駐車場で待っていた/鳥が数羽、羽ばたいて屋上に降りるのを見た〉というファースト・ラインは、まるで小説の書き出しのようです。情景と心情を見事に描写するストーリーテラーですよね」
天野「そうなんですよ。“Parking Lot”の歌詞は、空を飛ぶ鳥を見てリンデマンが不意に悲しみや不安に襲われ、〈今夜、私は歌わなくてもいい?〉と吐露するものです。〈この剥離を表現できるほどの詩人ではない〉というラインが印象的で、彼女の実体験にもとづいているのではないかと思いました。Pitchforkのインタビューによると、『Ignorance』は〈気候変動がもたらす精神的な負荷や不安〉というアクチュアルな問題をテーマにしているようで、“Parking Lot”の歌詞も〈リンデマン=人間〉と〈鳥=自然環境〉という対比になっているんじゃないかな、と思いました。いずれにせよ、『Ignorance』は傑作だと思います。ぜひ聴いてください」
2. Julien Baker “Favor”
天野「2位はジュリアン・ベイカーの新曲“Favor”。2月26日(金)にリリースされるアルバム『Little Oblivions』から3曲目のリード・シングルですね。最初にリリースされた“Faith Healer”は2020年10月の〈PSN〉で紹介しましたし、今年の1月13日にリリースされた“Hardline”もその週の5曲の候補に入れていました。今回の“Favor”も含めて、全曲素晴らしいですね……」
田中「本当にそうです。すでに『Little Oblivions』は名盤だという予感がしていますよね。この“Favor”は、参加ミュージシャンが話題になっています。というのも、この曲にはフィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)とルーシー・デイカス(Lucy Ducus)という2人のシンガー・ソングライターが参加しているんです。ジュリアンとフィービーとルーシーの3人=ボーイジーニアス(boygenius)なので、つまりインディー・フォーク版スーパーグループなんて言われてたトリオが再結集したというわけです」
天野「ボーイジーニアスといえば最近、〈4人目のメンバーを入れるとすれば?〉という質問に、フィービーが〈ビッグ・シーフのエイドリアン・レンカー〉なんて答えていましたよね。実現したら、すごすぎます! 話を“Favor”に戻しましょう。この曲は、フィービーの2020年作『Punisher』の収録曲であり、ジュリアンとルーシーが客演した“Graceland Too”を録ったのと同じタイミングでヴォーカルを録音したそうです。ナッシュヴィルでレコーディングしたそうですが、ルーシーは〈私たちのEP『boygenius』を録ったときと同じムードだった〉と振り返っています」
田中「昨年ボーイジーニアスはヘイリー・ウィリアムズの楽曲“Roses/Lotus/Violet/Iris”にも招かれていたし、彼女たち3人はナチュラルな交流が続いているんでしょうね。いいなあ。この“Favor”でも、ハーモニーが印象的です。ゆったりとしたタイム感のリズムはエモ的ですが、彼女たちの歌声の重なりが楽曲に厳粛なムードをもたらしています。さりげなく取り入られているブレイクビーツやテープ・エコーなども効いていますね。プロダクションがかなり凝っていて、何度聴いても〈ここでこんな音が鳴っていたんだ!〉と驚かされました」
3. Cardi B “Up”
天野「3位は、カーディ・Bの待望の新曲“Up”です。大ヒット曲で、僕たちも年間ベスト・ソングに選んだメーガン・ザ・スタリオンとの“WAP”以来、半年ぶりのシングルですね。その前にリリースしたのは2019年5月の“Press”なので、1年に1曲というかなりのスローペースで曲を発表しています」
田中「あのヒット作『Invasion Of Privacy』(2018年)に続くセカンド・アルバムを制作中だという噂さていますが、なかなかリリースされませんね。もうそろそろ聴けるのではないか、とファンやジャーナリストは予想しているようですが……」
天野「どうでしょうね。“Up”は“Press”と同じくフィーチャリングをしていない純粋なソロの楽曲で、バッド・ビッチたるカーディ・Bのリリックとフロウがめちゃくちゃ力強いです。去年はオフセット(Offset)と離婚するとか、離婚を取りやめたとか、なんだかいろいろありましたが、やっぱりラップでは期待を裏切らないな~」
田中「“Up”はプロダクションもかっこいいですよね。DJスワンコ(DJ SwanQo)とヤング・デザ(Yung Dza)によるヘヴィーでダーティーでダークなビートは、懐かしいサザン・ヒップホップのマナーを感じます」
天野「TR-808のビートやピアノがベースラインを担うループからは、80年代半ばの黎明期のヒップホップと、初期のスカスカなトラップやクランク、両方の感じがしますよね。余談ですが、クランクといえばアボかどさんがクランクについての長大なテキストをnoteに書いていて度肝を抜かれました」
田中「〈If it's up, then it's up, then it's up, then it's stuck〉というサビのフレーズは中毒性抜群。冒頭のリリックが最高ですね。〈昔々、私のことを醜いだなんて言っているやつがいた/私とやりたいクソ野郎がそう言ったんだ/私はこう言ってやった/『私の顔は最高でお尻はタイト/シャキール・オニールくらいの背丈/宝石を身に着けて、輝いている』〉。ルッキズムにノーを突きつけているところが清々しくて、あいかわらずの女性上位主義的な態度も最高」
天野「〈貧乏なぼっちゃんたちはプッシーするのに値しない〉というラインにしびれました。“WAP”に続いて、TikTokでもヒットしそう。ちなみに、Apple Musicでのゼイン・ロウによるインタビューでは〈シカゴ・ドリルに影響されて性的なテーマから離れ、初期のミックステープのようなギャグスタでヴァイオレントな路線を追求した〉と語っていたそうです。なるほどな~。とにかくカーディ、絶好調ですね!」
4. Tkay Maidza & Yung Baby Tate “Kim”
天野「4位です。ティーケイ・マイザとヤング・ベイビー・テイトのコラボレーション・ソング“Kim”。ティーケイ・マイザはジンバブエ生まれ、オーストラリア育ちのラッパー/シンガーで、18歳のときにリリースした『Switch Tape』(2014年)で注目されるようになりました。というのも、ボク・ボクやSBTRKTといったプロデューサーが参加していたことで、ポップだけどエッジーなエレクトロニック・サウンドが評価されたからなんです」
田中「昨年、4ADと契約してミックステープ『Last Year Was Weird, Vol. 2』をリリースしたことも話題になりましたよね。オーストラリアのデュー・プロセス(Dew Process)とユニバーサルもレーベルに明記されているので、おそらく英米ヨーロッパへの配給などを4ADが担うのではないでしょうか」
天野「おもしろいですよね。ティーケイのような才能を聴き手に届けるのは、4ADというレーベルとしてもチャレンジなんじゃないかなと思います。一方のヤング・ベイビー・テイトは、ティーケイよりひとつ年下のラッパー。彼女のことは以前〈PSN〉で紹介しました。詳しくは昨年11月の記事をご覧ください」
田中「同世代のフィメール・ラッパーの共演曲ということで、組み合わせにわくわくしますよね。2人が並んだアニメ調のカヴァー・アートもキマっています。サウンドは、今回もかなり攻めたもの。ティーケイの楽曲の多くを手掛けていて、ディジー・ラスカルの2017年作『Raskit』でも辣腕をふるっていたダン・ファーバー(Dan Farber)がプロデュースしています。トラップと言えばそうなのですが、暴力的に歪んだサブ・ベースと奇天烈な電子音やパーカッションが暴れているのが強烈です」
天野「ジャングルプッシーやプリンセス・ノキア、リコ・ナスティ、ティエラ・ワックなどなど、〈weird〉な女性のオルタナティヴ・ラッパーが非メインストリームでは増えていて、ティーケイやテイトも彼女たちと同時代性を感じますね。おもしろい流れだと思います。ちなみに、曲名の〈Kim〉とはディズニーのスーパー・ヒーロー・アニメ『キム・ポッシブル』のこと。それと、レジェンドのリル・キムとキム・カーダシアンへのシャウト・アウトでもあるようです。〈bitch I’m Kim〉と繰り返すパワフルなコーラスは、一度聴いたら忘れられませんね」
5. The Armed “ALL FUTURES”
田中「今週最後の曲は、アームドの“ALL FUTURES”。ミシガン出身のハードコア・パンク・コレクティヴの新曲ですが、これはまず上掲の動画を観てほしいです! ライブ演奏を使ったミュージック・ビデオなんですが、めちゃくちゃかっこよくないですか?」
天野「〈えっ、メンバー、こんなに多いの!?〉と笑いなながらツッコんじゃいましたけど、たしかにかっこいい。何本ものギターやヴォーカル、シンセサイザーを重ねたハーシュ・ノイズがすさまじいです。ちょっと調べてみたところ、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのギタリスト、トロイ・ヴァン・リューウェン(Troy Van Leeuwen)がゲスト・ミュージシャンとして参加しているんだとか。パワフルなブラスト・ビートにも血沸き肉躍りますし、まさにノイズ・ロックの鑑……。その一方で、ヴォーカルのメロディーは意外にキャッチーでアンセミック。カラフルな映像とあいまって、不思議とポップに聴こえますね」
田中「そうなんですよね。彼らは長らくミステリアスな存在だったのですが、この曲のリリースと同時にアーティスト写真が公開され、現在のラインナップが明かされました。といっても、中心メンバーの一人で、コンヴァージのメンバーでもあるベン・コルラー(Ben Koller)は写真に写ってなかったりと、いまだに全体像を把握しづらいのですが……」
天野「この曲を収録したニュー・アルバム『ULTRAPOP』は、4月16日(金)にリリースされます。〈ULTRAPOP〉って、タイトルがクールですね。アルバムにはマーク・ラネガン(Mark Lanegan)が参加、コンヴァージのカート・バル―(Kurt Ballou)がエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるのだとか」
田中「メンバーのダン・グリーン(Dan Greene)はアルバムについてのステートメントで〈『ULTRAPOP』 は、リスナーに新しい体験をもたらすことを真剣に目指している。それはヘヴィーな音楽が持つ予定調和に対しての、明らかな反逆だ。可能な限り強烈なリスニング体験を生み出すために作られた、喜びに満ちていて、ジェンダーレスで、ポスト・ニヒリスティックで、反パンクで、切れ味の鋭いアルバムである。これは、私たちが作ることができる、もっとも過酷で、もっとも美しく、もっとも恐ろしいものなんだ〉と語っていました。超期待ですね!」