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【Pop Style Now】第38回 セイント・ヴィンセントがプロデュースしたスリーター・キニー、カーディ・Bの反パパラッチ曲など、今週のパワフルな洋楽5曲

2019年5月24~31日

【Pop Style Now】第38回 セイント・ヴィンセントがプロデュースしたスリーター・キニー、カーディ・Bの反パパラッチ曲など、今週のパワフルな洋楽5曲

田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野がこの一週間に海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する連載〈Pop Style Now〉。先週末、なんとあのペイヴメントが再結成するとのニュースが届けられました!」

天野龍太郎「アツい!! スペイン、バルセロナで開催されている〈Primavera Sound〉に来年出演するということで。そもそも僕は完全に後追いなので、これはめちゃくちゃ観たいですね。日本にも来ないかな……」

田中「Mikikiではちょうど、ペイヴメントとフロントマンのスティーヴン・マルクマスについて髭の須藤寿さん、Homecomingsの畳野彩加さんと福富優樹くん、Helsinki Lambda Clubの橋本薫くんが語るという記事を載せたばかりでした。再結成に向け、ぜひまた読んでもらいたいですね」

天野「いい記事でしたよね~。みんなの愛が伝わってくる内容で。それでは今週のプレイリストと〈SOTW〉から!」

 

Sleater-Kinney “Hurry On Home”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はスリーター・キニーの“Hurry On Home”。2015年の復活作『No Cities To Love』以来となる新曲ですね! あのアルバムも大傑作でしたけど」

田中「今回は、なんとセイント・ヴィンセントがプロデュース。今年1月にセイント・ヴィンセントことアニー・クラークが〈2019. @Sleater_Kinney produced by St. Vincent.〉という文言と、彼女がバンドの3人とスタジオにいる写真をツイートしたことが話題になっていました」

天野「スリーター・キニーはライオット・ガールから影響を受けたバンドで、そのフェミニズム的でレフティーな姿勢から90~2000年代に厚く支持されたレジェンドです。そんな彼女たちと、現在のポップ・シーンにおける先鋭的なフィメール・アイコンのセイント・ヴィンセントという組み合わせが最高。しかも、そのサウンドは予想を上回るかっこよさで」

田中「イントロのビッグな鳴りのドラムから大興奮です。2本のギターもいつも以上に奔放で攻撃的。全体的にコンプが効いているサウンドがイマっぽいです」

天野「スリーター・キニーって、ベースレスのトリオだからこそのロック・アンサンブルが素晴らしいんですよね。リリックについては、〈私ってドレスを脱がせやすいでしょ〉〈髪の毛を掴みやすいでしょ〉と歌う1番の詞が、2番では〈私のことはファックできない/愛せない/聴けない/観ることもできない〉と反転してて、その対比が強烈です」

田中「なお、ミュージック・ビデオは作家/女優/映画監督と多岐に渡る活動で知られるミランダ・ジュライが制作。スマホのショート・メッセージを使ったリリック・ビデオで、曲の勢いを見事に視覚化したものになっています。観ながら圧倒されちゃいました……」

天野「まるでメールで恋人に詰め寄るような内容になってるんですよね。ホント、パワフルです」

 

Cardi B “Press”

天野「続いては、いまや押しも押されもせぬラップ界のスター、カーディ・Bの新曲“Press”です」

田中「曲名どおり、パパラッチやメディアへのヘイトをテーマにした曲ですね。〈press〉という言葉は〈記者、報道、批評〉を意味する名詞と、〈圧迫する、せきたてる、押し付ける〉といった意味の動詞とのダブル・ミーニングになってます。トラックも不穏な雰囲気……」

天野「そもそもリアリティTV出身のカーディは、自分からプライヴェートを売りに出してたバッド・ビッチなキャラクターだったとも思うんですが……。でも昨年は、出産や夫であるオフセットとの関係性がゴタゴタしたこともあり、かなりパパラッチに追い回されたんでしょうね」

田中「そのあたりのプレッシャーや苛立ちは、〈ビッチたちが追い立てられている〉〈カーディはもうプレスなんかいらない〉といったリリックにはっきり表れてますね」

天野「とはいえ〈あいつらなんか一掃して埋めてやる〉と、いつもどおりの威勢のよさ。それで結局、破局を宣言したオフセットとはどうなったんでしょうね? 最近は一緒にグラミーの授賞式に出てましたし。僕たちのこういう下世話な興味がカーディを追い詰めてるのかもしれませんが……」

田中「そうですね。ともあれ、ヒット・アルバム『Invasion Of Privacy』(2018年)に続く新作にも期待です!」

 

Rosalía “Aute Cuture”

天野「3曲目はロザリアの新曲“Aute Cuture”です。彼女のことはJ・バルヴィンとエル・グインチョとの共演曲“Con Altura”で紹介しましたね」

田中「アーバン・フラメンコ/ネオ・フラメンコの新たなスターとして知られるロザリアは、2018年のセカンド・アルバム『El Mal Querer』で高い評価を受け、一気にその名を音楽界にとどろかせました。ジェイムズ・ブレイク『Assume Form』への参加など、ジャンルの垣根を飛び越えた活躍をしてますね」

天野「かといってトレンドに迎合したり、英語で歌ったりしないところがかっこいいんですよね。スペイン語とフラメンコという彼女のベースにある要素は、この新曲でもしっかりと打ち出されています。フラメンコ風の手拍子やリズムがビートを成してますし」

田中「MVがかなりおもしろくて、ネイル・アートをテーマにしてるんですけど、基本的には女性しか出てこないんです。しかも、いろいろな人種の女性たちが出てきます。中盤でロザリアに電話をかけてきたギャングの顔を尖った爪で撃退して、最後には女性たちで踊って終幕、というフェミニズム的なシスターフッドを打ち出した内容になってますね」

天野「70年代風の映像がユニークで、衣装や小道具もゴージャスですね。ビデオの内容からは、ジャネール・モネイの“PYNK”を思い出しました。『El Mal Querer』に続く新作も、もしかしたらすぐに聴けるのかもしれません。楽しみです」

 

Sufjan Stevens “With My Whole Heart”

田中「4曲目はスフィアン・スティーヴンスの“With My Whole Heart”。ポップスやチェンバー・ミュージックなどさまざまなサウンドを横断する、現代アメリカきっての作曲家です」

天野「映画『君の名前で僕を呼んで』(2017年)に楽曲提供をし、主題歌の“Mystery Of Love”が昨年のアカデミー歌曲賞と今年のグラミー賞にもノミネートされたことも記憶に新しいです」

田中「序文で触れたペイヴメント座談会に参加していたHomecomings・福富くんのフェイヴァリット・アーティストでもあります。さて、この“With My Whole Heart”は同時に発表された“Love Yourself”と合わせて、〈プライド月間〉を支援するための楽曲だとか。ところで……〈プライド月間〉ってなんですか?」

天野「アメリカでは、6月をLGBTへの理解や権利の向上を促すための一か月としてるんです。2000年にビル・クリントンが定めたんですけど、世界にも波及して、例年いろいろな催しが開かれてます。ファッション・ブランドがレインボー・カラーを採り入れたアイテムを発表したり」

田中「へえ! それをふまえて“With My Whole Heart”を聴くと、〈私はあなたを愛します〉〈私はあなたを悲しみから守ります〉とシンプルな愛の言葉を繰り返す歌詞に、ものすごくグッときてしまいますね」

天野「スフィアン自身、〈対立や不安、自己批判を伴わない、誠実で朗らかなラヴソングを書こうとしたんだ〉とプレス・リリースで述べてます。ミュートが効いたギターやシンセサイザーの音色が甘美なポップソングですね」

田中「加えて、多重コーラスにダブステップ風のビートが重なる中盤のパートなど、やっぱりアレンジやプロダクションは尖ってる。スフィアンのディスコグラフィーに深く刻まれるべき新たな名曲だと思います!」

 

Clairo “Bags”

田中「最後はクライロの“Bags”です」

天野「彼女はボストン出身で、まだ20歳のシンガー・ソングライターですね。2017年に発表したハンドメイド感たっぷりな“Pretty Girl”のMVがヴァイラル・ヒットとなり、一躍ベッドルーム・ポップの注目株となりました」

田中先週紹介したクコにも通じる、メロウでドリーミーなサウンドはいかにも〈いま〉ですよね。彼女もラッパーとの交流が盛んで、自身の楽曲にもレジー・スノウをフィーチャーしています。ちなみに、クコともコラボ曲“Drown”(2018年)を制作していて

天野「クライロは最近の宅録作家たちと同様に多作で、この“Bags”は今年4つめの新曲。さらに8月2日(金)に、初のアルバム『Immunity』をリリースすることもアナウンスしました」

田中「『Immunity』は、元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バトマングリが共同プロデュースしているそう。この曲は、いままでの彼女の作風と比較して、ロックっぽいサウンドになっています。小刻みに叩かれるドラムと物憂げなギターが印象的」

天野「あまりにも〈しょぼいポップス〉だった“Pretty Girl”から考えると、かなりウェルメイドなプロダクションになりました。恋人との不安定な関係性に焦点を当てた歌詞は、これまで以上にシリアスで、よりパーソナルな内容ですね」

田中「特に同年代の少女たちの心を掴んで、ビリー・アイリッシュとは違ったタイプのガールズ・アイコンになっていく予感もしますね。『Immunity』はこの夏の要チェック盤です!」

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