数多くのロック・レジェンドたちを撮影してきたカメラマンにして、ウェブ・マガジン〈久保憲司のロック・エンサイクロペディア〉を運営するなど音楽ライターとしても人気を博すクボケンこと久保憲司さん。Mikikiにもたびたび原稿を提供いただいております。そんなクボケンさんによる連載が、こちら〈久保憲司の音楽ライターもうやめます〉。動画配信サーヴィス全盛の現代、クボケンさんも音楽そっちのけで観まくっているというNetflixなどの作品を中心に、視聴することで浮き上がってくる〈いま〉を考えます。
今回は、イギリスの田舎町を舞台にしたドラマ「After Life/アフター・ライフ」を紹介。同作は、〈ゴールデン・グローブ授賞式〉のホスト役としても知られる英の人気コメディアン、リッキー・ジャーヴェイスが監督/脚本/主演を務めています。妻の死を受け入れられない地方新聞社の記者トニーは、周りの人たちの優しさに逆らうように自分勝手で嫌な態度を取ることで、つらい毎日を乗り越えようとするが……というちょっとビターなコメディーです。クボケンさんが今作から受け取ったメッセージとは? *Mikiki編集部
★連載〈久保憲司の音楽ライターもうやめます〉記事一覧はこちら
イギリスの「いじわるばあさん」?
音楽でも映像作品でもなんでも、イギリスものが大好きな久保憲司です。
と宣言してみたのですが、映画に関しては、まだアメリカの方が面白いですかね。
とぶれている僕らしく、Mikikiの方に教えてもらうまで、イギリスのヒューマン・コメディー「After Life/アフター・ライフ」を知りませんでした。こんな面白いドラマがあったのかと、感動しています。笑え、そして泣けます。
50歳以上向けのダークなヒューマン・コメディー・ドラマです。〈50歳以上か〉と呟いているあなた、年寄り用なんですけど、観た方がいいです。いつかあなたもこんな気持ちになるでしょう。
このドラマは、原作者で主人公を演じるリッキー・ジャーヴェイスの代表作「ジ・オフィス」(2001~2003年)みたいにイギリスに社会現象までは起こしていないですが、このドラマけっこう大人気で、シーズン3が作られることも決定しています。
「アフター・ライフ」、一言で書くと「いじわるばあさん」です。日本の国民的お笑いを作った「サザエさん」の長谷川町子が作った〈裏サザエさん〉、今の人はもう知らないと思うのですが、TVドラマやアニメ化された「いじわるばあさん」は「サザエさん」以上の大人気を得ていたことがあるのです。
昭和40年代頃の話ですが、あの頃の日本人は高度経済成長の波に浮かれてヒューマニズムに飽きた人が多かったのだと思います。でもそんな感情もオイルショックによる不況で、みんな小市民化したのです。「いじわるばあさん」のようなアンチ・ヒーローものを生むのはバブル期の「おぼっちゃまくん」「クレヨンしんちゃん」の登場まで待たないといけなかったような気がします。でも日本だと子供にしかそんなことさせられないのです。