思慮深きレゲエの偉人

2021年3月2日、バニー・ウェイラーがジャマイカの首都、キングストンの病院で死去した。ここ数年は脳卒中で入退院を繰り返すなど体調に不安を抱えていたものの、まだ73歳。いずれ不死鳥のように蘇ると信じていたのは僕だけではないだろう。近年、トゥーツ・ヒバートやU・ロイといったジャマイカの音楽史に残る巨人たちが次々にこの世を去っているが、ついにバニー・ウェイラーまでいなくなってしまった。

バニー・ウェイラーというと、ボブ・マーリーおよびピーター・トッシュとともにウェイラーズの一翼を担った人物としてその名を記憶している方も多いはずだ。ヘタをすると〈ボブ・マーリーのサイドマン〉などという誤った認識を持っている方もいるかもしれないが、バニー・ウェイラーはジャマイカの音楽史において特別な歌い手である。ボブ・マーリーのようなスター性はないかもしれないし、ピーター・トッシュのようにトンがったルード・ボーイの雰囲気もないかもしれないが、どっしりとした歌唱とラスタファリアニズムの精神に則った思慮深いメッセージは彼ならではのものだ。

個人的なことをいえば、バニー・ウェイラーの76年作『Blackheart Man』はルーツ・レゲエ黄金時代を象徴する歴史的名作だと思っているし、ウェイラーズの『Catch A Fire』や『Burnin’』(いずれも73年)とも並ぶ作品だとも思う。そう考えるリスナーは、確かに膨大なボブ・マーリー愛好家に比べれば決して多くはないだろうが、そもそもボブ・マーリーとの比較のなかだけで語られるべき人物ではないはずだ。バニー・ウェイラーは長いキャリアのなかで数多くの作品を残しており、なおかつ作風の幅広さはウェイラーズの仲間たちの比ではない。

76年作『Blackheart Man』収録曲“Fighting Against Conviction”

 

ボブ・マーリーやピーター・トッシュらとウェイラーズを結成

バニー・ウェイラーことネヴィル・オライリー・リヴィングストンは、1947年4月10日、キングストン生まれ。幼少期にセント・アン教区のナイン・マイルズで暮らした経験があり、同地で2歳年上のボブ・マーリーと出会っている。やがてバニーとボブはピーター・トッシュやジュニア・ブレイスウェイトらとともにヴォーカル・グループであるウェイリング・ウェイラーズを結成(のちにウェイラーズと改名)。ジャマイカの独立の高揚感とともに大きな盛り上がりを見せたスカの時代に存在感を放つようになる。この時期、“Simmer Down”(64年)など数多くのスカ・クラシックを残している。

ルーツ・レゲエの時代に入るとウェイラーズはクリス・ブラックウェル率いるアイランド・レコードと契約。『Catch A Fire』、『Burnin’』と歴史的傑作を残す。バニーは『Burnin’』を最後にウェイラーズから脱退、ソロ・アーティストとしてのキャリアを歩み始める。

ウェイラーズの73年作『Burnin’』収録曲、バニーがリード・ヴォーカルを務める“Hallelujah Time”